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【『共生する/進化するロボット』展】神の見えざる手は模倣できるか――NTTのシンポジウム『進化するロボット』

1999年02月01日 00時00分更新

文● 報道局 山本誠志

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 NTTインターコミュニケーションセンターで、ダリオ・フロレアーノ氏(スイス・ローザンヌ連邦工科大学、マイクロプロセッサーインターフェース研究所)、下原勝憲氏(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、五味隆志氏((株)AAIジャパン)の3人が出席して、『進化するロボット』と題したシンポジウムが開催された。シンポジウム全体の構成については、末尾で述べることにして、最初にダリオ・フロレアーノ氏の講演の一部を紹介する。


塩基からビットへ


「生物はすべて遺伝子情報(DNA)を持っています。これに似せて人工的に作ったDNAをロボットに載せ、進化させることができます。生物のDNAは4つの記号の組み合わせですが、コンピュータを使って人工的にDNAを作る場合は、2つの記号を使うことになります」

編集部注:フロレアーノ氏が言う“生物のDNAを構成する記号”とは、シトシン,グアニン,アデニン,チミンの4種類の塩基のこと。一方、コンピュータ上で作る“人工的なDNAを構成する記号”とは、“0”と“1”である。

「たとえば、“障害物をよけて移動するロボット”を作ることを考えます。ロボットにはプロセッサーと、センサー、移動するための動力(車輪)を持たせます。そして、2つの記号の配列からなる人工のDNAをいくつか用意し、それを使ってニューラルネットワークを表わします。ここで用意するDNAは、すべて、まったくランダムに生成したものです。したがって、実際にこれらのロボットを動かしてみると、そのほとんどはうまく動きませんが、中には、たまたまマシな動作をするものもあります」

編集部注:ニューラルネットワークは、その名のとおり、いくつかの人工的なニューロンから構成される。それぞれのニューロンは、いくつかの入力と出力を持つ。ニューロンに入力された信号は、それぞれ適当な重みを付けて足し合わされ、その結果がある閾値(しきいち)を越えれば、信号が出力される。閾値に満たなければ、信号は出力されない。このような人工ニューロンの集合として形成されたニューラルネットワークを、この例のロボットに載せることを考える。このニューラルネットワークは、センサーからの入力を車輪に出力するためのフィルターのような働きをする。

選別と交配

「ランダムに生成したDNAを使った、たくさんのロボットの中で、最も評価が高いもの、すなわち、障害物をうまく避ける個体を2つ選びます。その2つの個体から取り出した人工DNAを適当に掛け合わせ、新たな人工DNAをいくつか生成します。そうしてできたDNAを、再びロボットに載せて評価し、そこから優秀なものを2つ選択して掛け合わせます。このようなプロセスを繰り返し、何世代も経過すると、どんどん優秀になっていき、複雑な迷路のような場所を自由に動きまわれるようなロボットができます」

「ここで注目すべきなのは、あらかじめ“障害物を避けるようにプログラムした”わけではない、ということです。スタートは、あくまでランダムに生成したDNAの集合でした。そこから淘汰を繰り返すことにより、結果的に優秀なロボットが得られる、ということです」

「この例は、1つのロボット(ハードウェア)に対する実験です。しかし、実際の自然界には、同じ環境の中に多くの個体があって、競争が起きます。ここで、もう1つ別の例として、ウサギとオオカミの2種類が存在する系を考えましょう」

ともに進化するモデル

「オオカミの役を務めるロボットには、ウサギを発見するためのセンサーをつけます。そして、ウサギの役を務めるロボットは、オオカミロボットよりも速く動けます。この2台に、それぞれランダムに生成されたDNAを与え、ウサギがオオカミに捕まるまでの時間を計測します。もちろん、ウサギを捕まえるまでの時間が短いオオカミは優秀であり、一方、オオカミに捕まるまでの時間が長いウサギは優秀だとします」

「こうして最初の例と同じように試行を重ね、成績が良いものを選択して世代を重ねていくと、オオカミとウサギはともに進化します。ある世代に注目すれば、どちらか一方が有利ということもあるでしょう。しかし、一方が何世代も独り勝ちするようなことはありません。自分だけでなく、相手もどんどん変化します。このようなケースでは、固定されたアルゴリズムを与えるのではだめで、適応する能力が要求されるのです」

 シンポジウム全体は一貫して、進化するロボットに関する話題で進められた。与えられたアルゴリズムにしたがって動く従来のロボットと比較することで、自律性を持って自分自身が進化(変化)していくロボットの特徴を解説する内容となった。下原氏は社会学的な見地から、人工生命や“人と対話できるコンピューター”が我々の生活に及ぼす影響について語り、五味氏は“進化と最適化は違う”、“競争がないと進化しないという考え方は錯覚”とした上で、進化するロボットのさまざまな例を紹介した。

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