アップルコンピュータ(株)は4日、Mac OS 8.5の日本語フォントに関するプレス向けブリーフィングを開催した。これは2回に渡って実施するもの。第2回となる今回は、“ATSUI”(Apple
Type Solution for Unicode Imaging)に関する技術的な説明と、アップルの開発者を交えたパネルディスカッションを行なった。その模様をレポートする。ちなみに第1回は、検索機能『Sherlock』をメインテーマにして11月24日に開かれた。
互換性、拡張性を意識した新しいフォントアーキテクチャー
ブリーフィングは2部構成で進められた。まず、アップルのOSエンジニアリング部ソフトウェアエンジニアの高野琢巳氏が、Mac
OS 8.5の日本語フォントに関するプレゼンテーションを実施した。アップルコンピュータOSエンジニアリング部の高野琢巳氏 |
Mac OS 8.1以前のフォントアーキテクチャーでは、1バイトキャラクターシステムを“QuickDraw
Text”によって擬似的に2バイトで表示してきた。これに2バイトビットマップフォントを“丸漢”でサポートし、TrueTypeアウトラインフォントを追加でサポート、Type1フォントをATMでサポート、といった具合に変更を加えてきた。つぎはぎだらけで安定性、拡張性に欠けるものであった。(図1参照)
図1:Mac OS 8.1以前のイメージ。つぎはぎだらけの感がある |
Mac OS 8.5では、構成そのものを改め、OFA(Open Font Architecture)を核にしたレイヤー構造を新たに構築した。OFAではフォントレンダリング機能を統一し、マルチフォントフォーマットの提供を実現している。このOFAの下にTrueTypeスケーラー、Type1スケーラー、NFNTスケーラーなどを配置するイメージで開発した(図2参照)。
図2:OFA(Open Font Architecture)を核にしたレイヤー構造を持つ新しいフォントアーキテクチャー |
ただしこれ(図2)は、あくまで理想像である。Mac OS 8.5では、移行期であることから、若干異なるイメージとなっている(図3参照)。
図3:Mac OS 8.5のアーキテクチャー構造。8.1に比べるとずいぶんすっきりした |
QuickDrawの機能拡張版“ATSUI”が鍵だ!
高野氏は、Mac OS 8.5の日本語フォントアーキテクチャーの最大の特徴である“ATSUI”(Apple Type Solution for Unicode Imaging)の説明にプレゼンテーションの時間の多くを割いた。QuickDrawの機能拡張版とも言えるATSUIは、Unicodeに対応するため、Unicode cmapの追加、Unicode合字、詰め組み機能、縦組み機能などの機能を搭載する。以下で各機能について解説する。
・Unicode cmap
Unicode cmapとは、Unicodeのコード番号からグリフ(文字イメージ)を得るためのキャラクターマッピングテーブル。Unicode cmapを持たないフォントがATSUIで使用できないわけではない。そういったフォントについてはUnicode cmapを生成して表示する。
・Unicode合字
Shift JISをベースとしたMac OS日本語標準キャラクターエンコーディング(MacJapaneseエンコーディング)のキャラクターセットのうち、何文字かはUnicodeの単一の文字にはマッピングされていない。
MacJapaneseのこれらの文字は“combining character”と呼ばれる特別なマークを含んだ複数のUnicode文字(Unicode 文字列)にマッピングされる。たとえば、MacJapaneseの0x8791(○の中に「大」)は、Unicodeではu5927+u20DDで表示される。この場合、u20DDが“前の文字を囲む丸”という意味のUnicodeである。
・縦組み機能
これは縦書き時に、カッコや句読点などの記号類を正しい向き、位置に置き換えるて表示する機能。
・詰め組み機能
カナや記号類を漢字と同じ一定幅ではなく、半角アルファベットのように文字の実サイズに見合った幅で描画する機能。ATSUI対応アプリケーションではデフォルトでONに設定されている。
OFAとATSUIの開発、採用により、Mac OS 8.5は、安定性と拡張性を確保し、マルチリンガルのサポートを実現している。
使用フォントの制限は? Unicodeについては? OpenTypeは?
高野氏のプレゼンテーションのあと、モデレーターに(株)ローカスの新居雅行(にいまさゆき)氏を加え、高野氏、アップルコンピュータOSエンジニアリング部の木田泰夫氏の3人によるQ&A形式によるパネルディスカッションが行なわれた。左から、木田氏、高野氏、モデレーターの新居氏 |
今回のブリーフィングに先だって記者団から寄せられた質問に、木田、高野両氏が回答した。会場からもその場で質問が出され、白熱したディスカッションとなった。
----Mac OS 8.5では、これまでに流通しているフォントの中で、使用できないものはありますか?
「過去のフォントに関しては原則としてすべてサポートしています。ただし、現在一部のフォントで障害が発生しているのは事実です。アドビシステムズ(株)の最新版ビットマップフォントにおいて、ATMアウトラインフォントをインストールせずにビットマップフォントのみをインストールすると、縦組み表示や一定ポイント以上の表示ができなくなるという不具合が発生しています。この点に関しては、アドビとアップルが共同で、対応のための作業を行なっています」
----QuickDrawプリンターでは、600dpiまでしか印字できないのでしょうか?
「TrueTypeフォントをType1フォントに変換する“Laser Writer Driver”をMacOS
8に搭載しました。これによって、Mac OS 8.5では、QuickDrawプリンターでも1200dpiまでの印字が可能となっている」
----Unicodeについて、アップルはどのように捉えているのでしょうか?
「OSメーカーの立場としては、OSのグローバライゼーションに伴う作業の軽減が期待できると考えています。マルチリンガルサポートのUnicodeにより、日本語化などのローカライズも行ないやすくなることが予想されます」
「Unicodeは単純な仕組みではないし、マルチリンガルといってもすべての言語をサポートするわけではないといわれています。実際そうだと認識しています。議論を呼んでいる日本語と中国語の漢字の差異などについては、いずれUnicodeコンソーシアムから回答があるだろうと思います」
「これまでは用意されたコード数以上に文字があり、これをどうするかということが文字コードの議論の中心になってきました。Unicodeでは、6万文字×16サロゲートという広大な空間が提供されることになります。今後は、どの文字がどのコードに割り振られているかをいかに把握するかが作業の中心となるのではないでしょうか」
----アップルはOpenTypeについては、どのように考えているのでしょうか?
「アップルではフォントアーキテクチャーとして、TrueTypeフォントをサポートしています。業界全体としては、TrueTypeおよびType
1がSFNTパッケージ対応で、それにAAT(Apple Advanced Type)が付随する形へと、進んで行くだろうと考えています。これはOpenTypeも同様です。アップルはOpenTypeを積極的に進めていく立場にはありませんが、ATSUIは現時点ですでにOpenTypeをサポートすることができます。つまり、Mac
OS 8.5はシステムとしては世界で最初にOpenTypeに対応できるものと認識しています」
「今後もすべてのフォントをサポートしていくというスタンスに変わりはありません。フォント技術については、マイクロソフト(株)やアドビとの話し合いを持っています」
今後もブリーフィングを積極的に開催
今回で、アップルコンピュータが主催するMac OS 8.5に関するプレスブリーフィングは一応終了となる。しかし同社広報の竹之内学プロダクトPR担当課長は、「今後もこのような機会を設け、積極的に開催したいと考えています。もちろんColorSyncなどについてもそうです。開催する内容についてもみなさんからのリクエストもお待ちしております。また、この場において、(開発が)どのような方向に進むべきなのかみなさんとともに考えることができればと思います」と社外と積極的に接触しようという姿勢を示した。また、竹之内氏は「アップルコンピュータは現在、Mac OS日本語版の開発に携わるソフトウエアエンジニアが、ユーザーに直接情報を提供するホームページ“Engineer Direct”を運営しています。こちらをぜひ、ご覧いただきたい」と述べた。
注:竹之内氏は続けて、このページに関するエンジニアの募集について発言したが、本稿では省略する
どちらかといえば、閉ざされたイメージのあったOSの開発に、社外の意見を取り入れようという同社のオープン化の動きを筆者(千葉)は歓迎する。他のアプリケーションやOSメーカーも同様に積極的な態度でユーザと接触してくれるのが望ましいと筆者(千葉)は考えている。