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既存産業とITの融合を視野に支援。福祉ビジネス立ち上げも――大阪のインキュベーター、iMedio所長、富永順三氏に訊く

2000年06月12日 00時00分更新

文● ジャーナリスト/高松平藏

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マルチメディア関連ビジネスのインキュベーター(ふ化)施設、ソフト産業プラザ“ iMedio”所長の富永順三氏は、このほどASCII24の取材に応じ、支援事業の大きな柱のひとつとして、大阪の既存産業とITを融合していくことを明らかにした。

昨年4月に開設し、現在15社が入居している
昨年4月に開設し、現在15社が入居している



売上げが下がったところがない

同インキュベーターは、昨年4月に大阪市港南アジア太平洋トレードセンター(ATC)内に開設。マルチメディア産業の振興拠点として大阪市が開設したもの。映像・情報通信関連の企業をサポートしており、現在14社が入居。今年8月には16区画の増床計画があり、現在、入居企業を募集している。

「iMedioに入居しているというだけで入居会社は信用を得るようだ」と語る富永順三氏(ソフト産業プラザ iMedio所長)。信用力の提供も重要なベンチャー支援だ「iMedioに入居しているというだけで入居会社は信用を得るようだ」と語る富永順三氏(ソフト産業プラザ iMedio所長)。信用力の提供も重要なベンチャー支援だ



支援コンセプトは「入居企業に対して干渉せず、やりたいようにしてもらう環境を作ること」(富永氏)。オフィスの稼動や備え付けのシャワーの使用に時間制限をつけないことに始まり、高速通信のインフラまでを提供。オフィスの賃貸料も通常より最大5割程度安くしている。加えて、ハード以外に法律や税務、著作権などのコンサルティングも行なっている。

こうした支援業務を展開して1年。結果は好調だ。成否のひとつの目安として「入居会社のなかで売上げが下がったところがない」と富永氏は言う。ちなみにナスダック・ジャパンに上場した『デジタルデザイン』も、同インキュベーターの入居企業のひとつだ。

インキュベート事業の対象は各入居企業の経営支援であるが、大阪の産業の底上げも視野にいれている。そのために既存の産業とITを融合させていくことが、今後の戦略だという。

現在、エデュテインメント(エデュケーション“教育”とエンターテインメント“娯楽”を融合したもの)などに代表される教育分野と、福祉分野にITを適用していくことを進めており、介護保険のマネジメントソフトを開発する事業の立ち上げにも着手した。

3次元CG映像の合成ができるバーチャルスタジオ
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ライブラリー。画像素材のデータベース、マルチメディア関連の新聞、雑誌、書籍などの閲覧もできる
ライブラリー。画像素材のデータベース、マルチメディア関連の新聞、雑誌、書籍などの閲覧もできる



Windows、Mac各17台そろえた研修ルーム。コンピュータースキルの修得に企業のみならず、環境団体なども利用することもある
Windows、Mac各17台そろえた研修ルーム。コンピュータースキルの修得に企業のみならず、環境団体なども利用することもある



コーディネーターがカギ

ところで、ビジネスインキュベーター施設は全国各地にあるが、成功しているところは数少ないと言われている。その理由は、自前で施設を作ることからはじめることが多く、入居者を集めなければ、健全な収支支構造にもっていくのが困難だというところにある。それに対してiMedioでは、既存のビル(アジア太平洋トレードセンター)を賃貸しており、民間企業でいうところの損益分岐点を低くできる。

さらに、運営スタッフが専門家集団であることが特徴だ。公的セクターの場合、専門知識の乏しい人材が組織運営に関わることが多々あるが、iMedioの運営には「業界のことが分かるスペシャリストがそろっている」(富永氏)。

一方、大阪の地場産業とIT産業をつなげていくことを戦略としているが、同インキュベーターは既存産業との接点は濃密とは言えず、現状の把握も必要だ。今後、商工会議所と協調するかたちで、既存産業との取り組みを強化する方針だ。

大阪は歴史的に商業都市として発展してきた経緯がある。しかし、IT分野での投資は全国でも遅れ気味。実際に儲けになるビジネスを重視する“実利主義”傾向がその理由と言われる。さらに、ITの浸透が業務の効率化につながり、雇用問題に発展すると危惧する人たちもいるという。こうした背景が大阪のIT産業進展を遅らせていると見られている。情報技術が既存産業の競争力や雇用の増加につながる戦略を構築できるか否か。これがコーディネートのカギになりそうだ。

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