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仏教界にも押し寄せる新しいメデイアの波――仏教とマルチメディア研究会セミナーより

2000年01月24日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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20、21日の両日、東京・文京区の真言宗豊山派宗務所において、(財)全日本仏教会、仏教とマルチメディア研究会の主催により、“仏教とマルチメディア”と題するセミナーと展示会が開催された。全日本仏教会は、60宗派の加盟団体から構成される仏教会の連合体で、“仏教とマルチメディア研究会”を設置し、マルチメディアを用いた布教伝道や宗団の事務処理などへの展開を研究している。今回のセミナーは、昨年6月に京都で開催されたセミナーに続き、インターネット時代に向けて仏教教団はどうあるべきか再考するもの。

全日本仏教会社会部長、渡邊宗徹師(右)と、真言宗豊山派教化センター事務局長、田代弘興師。田代師は仏教とマルチメディア研究会の座長を務める
全日本仏教会社会部長、渡邊宗徹師(右)と、真言宗豊山派教化センター事務局長、田代弘興師。田代師は仏教とマルチメディア研究会の座長を務める



一見、ハイテクとは無縁のように思える仏教界だが、インターネットの普及の波は確実に押し寄せてきている。若い世代の僧侶たちはパソコンに対する関心も高く、実際に自由自在にパソコンを扱える方も多い。なかには自らプログラムを組んで寺院を管理する独自ソフトを開発している人たちさえいる。すでに仏教界では、ほとんどの宗派がインターネット上にウェブを持ち、何らかの形で布教活動などに役立てているそうだ。そういった新たな動きのなかで、今回のセミナーは仏教界においてどのようにパソコンを利用できるのか、その可能性や取り組みについて示すものだった。

初日の講演会は、築地本願寺新報編集主幹の志茂田誠諦師を招き、“伽藍仏教の終焉”というインパクトの強い演題を据えて、インターネットと仏教の関わりについての解説があった。

当然のことながら、聴衆のほとんどは僧侶。意外に年配の方も多く、仏教界全体で関心の強さがうかがわれた当然のことながら、聴衆のほとんどは僧侶。意外に年配の方も多く、仏教界全体で関心の強さがうかがわれた



伽藍とバーチャルは対立しないもの

志茂田諦師は、情報を受け取る側から“伽藍”を考えたときに、伽藍とバーチャルは決して対立関係にあるものではないとの見解を示した。宗教には広報活動、布教活動が宿命だが、宗教者として何を伝えようとしているかが問題であり、伽藍の存在は広報活動とはあまり関係ないことが分かる。伽藍仏教では、面と向かって悩みを打ち明ける場合が多いが、電子メールではそういう対面関係がないので、逆に相談しやすい場合もあるようだ。

築地本願寺新報編集主幹の志茂田誠諦師築地本願寺新報編集主幹の志茂田誠諦師



インターネットで布教活動がしやすいという側面は、信者側でもネットでお寺を検索するケースが増えていることからもうかがえる。また、すでに多くの仏教教団でもウェブサイトを立ち上げているが、その例として仏教寺院関係の総合リンク集“寺院コム”を挙げて説明した。このリンク集には、現在ウェブを持つ宗教関係のサイトが多数リンクされている。

インターネットラジオを利用し、クリスチャン番組を放送している海外の例もある。新しいメディアを活用すれば、リスナーからの悩みをレスポンスよく返せる。さらにストリーミング技術を使って、教団で撮った法話会のビデオを流せば、見逃した説法をいつでも見られるというオンデマンドのメリットも享受できる。

インターネットというメディアリテラシーの問題を認識

インターネットの活用は、確かに便利でメリットも多いが、その一方で注意しなければならない点もたくさんある。志茂田諦師は「インターネットの情報は、すべてが正しいわけではない。デマ情報もたくさん流れている。ネット上で流れる内容は社会的なフィルターを通っていないため、ほかのメディアを使って再度調べてみる必要がある。逆にインターネットで何か情報を発信したときは、いたずらされる可能性もあることも考慮しなければならない」と、インターネットというメディアリテラシーの問題点を指摘した。

師はこうした問題点を踏まえた上で、「インターネット社会がすでに実現し、生活の場に入ってきている現状を考えれば、仏教界もネットワーク社会のなかにいるという認識をしておいたほうがいい。ウェブを作ったからといって、信者がすぐに増えるというわけではないが、これからの社会に対応していくためには必要であるし、将来の人材育成にもなる」と参加者にその必要性を説いた。

最後に志茂田諦師は、「テーマに据えた“伽藍仏教の終焉”というようなことは、実際には起こらないだろう。寺院そのものの空間自体は決してなくならないが、宗教に興味を持った人たちがそこにどうやってくるか? 今後そのありかたは変わってくる。情報をインターネットで検索するのが当たり前の時代になったとき、あらかじめ予備知識のない人間が必要な情報を探しても見つからなければ“存在していないもの”と取られてしまうだろう。今後、仏教界もインターネットに対応していないと、やっていけないような時代になる」と締めくくった。

展示会では寺院運営に関わるいくつかのソフトやパソコンなどが展示された。このなかからいくつかをピックアップして紹介する。

伽藍もマルチメディア対応。音声や映像による配信も

(株)NTT-MEは、パソコンとTAの導入、インターネットサービスプロバイダーへの加入、出張セットアップサービスまでをサポートした“おまかせパック128-インターネットパック”を展示。月額4980円(プロバイダー定額利用料金含む。通信費は別)ですべてを賄えるセットの場合、メーンパソコンは松下電器産業のCTA45BME(450MHz・K6-2、64MB、8.4GB、40倍速CD-ROMドライブなど)。これ以外にもメーカー別に8種類のラインナップを揃え、ユーザー側で選択できるようになっている。また、インターネット接続サービス『WAKWAK』による寺院向けのデモンストレーションもあった。これは寺院にCCDカメラを設置し、ストリーミングで映像を配信するもの。

月々4980円からインターネットができるお得なセット月々4980円からインターネットができるお得なセット



寿企画のブースでは、寺院向けウェブの制作サービスを紹介。パソコンのセッティングから、ドメインの取得代行、レンタルサーバーの管理、コンサルティングまでトータルにサポートする。ウェブはテキストや画像ベースのものが多いが、最近ではお経に節をつけた声明をウェブで流す音声化の依頼もあるという。

ソフトは寺院管理システムがメーン。僧侶自らが開発したソフトも展示

(財)禅文化研究所は、僧侶自身の手で開発した寺院統合管理システム『擔雪』(たんせつ)を展示。法人事務、名簿台帳、経理財産の管理が1本ですべて行なえる。7桁郵便番号辞書、電子法号辞書、和暦西暦変換機能なども搭載している。実務に即した工夫がなされ、特注によるカスタマイズ化も可能。禅文化研究所は、臨済宗、黄檗宗全15派の総合研究機関で、研究所では出版事業に携わりながら、メディア関連の事業も行なっている。『擔雪』の開発のいきさつは、とにかくお寺さんにパソコンを使って欲しいという思いからで、啓蒙的な意味合いもあるという。

僧侶自らが開発したという寺院統合管理システム『擔雪』。右は『擔雪』のサポートをしている西村恵学師僧侶自らが開発したという寺院統合管理システム『擔雪』。右は『擔雪』のサポートをしている西村恵学師



『擔雪』の画面『擔雪』の画面



アクトシステム(株)は、檀信徒管理システム『悟Ver5.0』を展示。檀信徒情報、仏様情報、家族情報などを管理し、高速検索できる。Ver5.0では新たにビットマップ形式の画像イメージを利用し、施主の近隣地図情報も取り込めるようになっている。使用したい項目は、リストやラベルに貼り付けるだけでレイアウトできる。現金の出納帳管理も可能。

寺院管理ソフトはネーミングがいずれもユニークなものが多い寺院管理ソフトはネーミングがいずれもユニークなものが多い



これ以外にも、“大蔵経テキストデータベース”や、インド学仏教学論文データベース(INBUDS)の展示もあった。

“大蔵経テキストデータベース研究会”は、東京大学大学院人文社会研究科内にある。大蔵経全100巻のうち、テキスト部分にあたる85巻を対象に、テキストデータベース化やインターネットでの公開(一部)を推進している。経典に頻出する難しい外字処理の問題については、“今昔文字鏡”で登録されたものを組み合わせて使用している。

インド学仏教学論文データベースでは、日本印度学仏教学会が進めているデーターベースで、インド学や仏教学などの論文情報をインターネット上で検索、ダウンロードできるため、世界中の研究者から注目を集めているという。

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