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【“デジタル・ルネッサンス in けいはんな”vol.4】 新しいバーチャルリアリティーのありかた

1999年11月16日 00時00分更新

文● 野々下裕子

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10、11日にけ京都府相楽郡の“けいはんなプラザ”で開催された、アートとテクノロジーの融合をテーマにした国際会議“デジタル・ルネッサンス in けいはんな”のレポート。本稿では2日目の講演を紹介する。

11日のプログラムは、イギリスのウェールズ大学とプリマス大学の教授であるロイ・アスコット氏による“ザ・モイスト・マニュフェスト”という講演で始まった。

新しいデータの捉え方“モイスト”

アスコット氏は、テーマの“モイスト”というキーワードについて、非物質のバーチャルリアリティーのようなドライなものと、実際の生物のようなリアルでウェットなものの間に位置づけられる、新しいデータの捉え方の1つであるとした。例えれば、生物の仕組みや動きを再構築するという行為である。具体例として、陽の光に反応して自動的に窓の大きさを絞る建物などを紹介した。



 

イギリスのロイ・アスコット教授は、講演の中でインタラクティブアートをはじめ、“アーキテクチャーサイエンス”や、“テクノティクス”といった、新しい用語についても次々と興味深い発言をした
イギリスのロイ・アスコット教授は、講演の中でインタラクティブアートをはじめ、“アーキテクチャーサイエンス”や、“テクノティクス”といった、新しい用語についても次々と興味深い発言をした



また、現代はバーチャルにより多くのものを感じられるため、意識と技術が融合したテクノティクス(consciousness+technologyの造語)を始め、さまざまな分野で融合化が始まると語った。同氏の難解だが刺激に満ちた講演は、とうてい1時間という時間に収まりきらず、断片を紹介するにとどまったが、今後はさまざまな分野で目にするようになるかもしれない。

自然で邪魔にならないインターフェースの制作

続いて、ATR知能映像研究所の客員研究員のクリスタ・ソムラー氏が“生きたシステムとしてのアート:ソムラーとミニョノーのインタラクティブアート作品における相互作用と進化”と題し、さまざまな研究作品を紹介した。

昼休みの後に設けられた展示時間にATRの実験室で作品を紹介するクリスタ・ソムラー氏
昼休みの後に設けられた展示時間にATRの実験室で作品を紹介するクリスタ・ソムラー氏



ソムラー氏は自然で邪魔にならないインターフェースの制作を研究し続けており、そこから生まれた作品は、アスコット氏の講演内容をそのまま形にしたようなものだった。

『Interactive plant growing』は本物の植物を触って、ディスプレーの中に植物を育てていく作品。『A-Volue』は指で書いた絵を3DCGの生物として、水槽型のディスプレーで飼うというもの。『Life Spacies』は、キーボードで打ち込んだ文字で仮想生物を飼育するもので、食べられるえさはアスキーコードによって判断される。この作品は東京のICCに現在展示されており、バーチャル版がインターネットで公開されている。

ソムラー氏の作品の1つ『Virtual Train』は、列車の窓に触るとその動きに合わせて、流れる光の速度や形が変わるというもの。すべての作品がミニョノー氏との共同制作
ソムラー氏の作品の1つ『Virtual Train』は、列車の窓に触るとその動きに合わせて、流れる光の速度や形が変わるというもの。すべての作品がミニョノー氏との共同制作



アジアを放浪してして出会ったアーティストの作品をインターネットで

休憩をはさんだ午後からは、ニューヨーク近代美術館(MOMA)の主任学芸員であるバーバラ・ロンドン氏が“MOMAで現われるデジタルアート”という講演を行なった。

MOMAの主任学芸員バーバラ・ロンドン氏は、世界中のデジタルアーティストたちを発掘し、支援していきたいという
MOMAの主任学芸員バーバラ・ロンドン氏は、世界中のデジタルアーティストたちを発掘し、支援していきたいという



2年前、アジアを旅したロンドン氏は、そこでさまざまなアーティストに出会い、それらをインターネットで公開し始めた。その後、世界のデジタルアートを紹介。中には“インターネット遺言”のようなユニークな作品もあるという。

「MOMAは市民に対する芸術の窓口として、また教育の機能も備えている。展示されるには厳しい審査があるが、今後もデジタルアートを積極的に支援していきたいと考えている」

2005年の名古屋万博に究極のバーチャルリアリティー技術がお目見え

工学の立場からは、東京大学先端科学技術研究センターの教授であり、バーチャルリアリティーの第一人者として有名な廣瀬道孝氏が講演を行なった。

「究極の感覚を拡張するオーギュメントリアリティーであり、ウェアラブルがそれらを実現するきっかけにもなっていく」と語る廣瀬道孝教授
「究極の感覚を拡張するオーギュメントリアリティーであり、ウェアラブルがそれらを実現するきっかけにもなっていく」と語る廣瀬道孝教授



6枚のパネルに囲まれた部屋の中でバーチャルリアリティーが体験できる『COSMOS』は、最初、現実をCG化したものであった。しかし、最近は架空の建物や製品、さらに、特殊相対性理論の世界“アインシュタインズ・ワールド”の体験といったものへと拡がっている。

また、最近ではそのほかにも、『Haptic』というシステムを使った触感の再現や、広帯域ネットワークを使って離れた所から同時にバーチャルリアリティーを体験する実験、実際の風景とバーチャルリアリティーを組み合わせるといった実験を行なっている。

触感を再現する『Haptic Display』。この技術を応用して、バーチャルリアリティーの中でも疑似感覚が得られる実験が進められている
触感を再現する『Haptic Display』。この技術を応用して、バーチャルリアリティーの中でも疑似感覚が得られる実験が進められている



「究極のバーチャルリアリティーとしては、戸外で体験できるものを研究しており、2005年の名古屋万博では、この技術を使ったパビリオンを公開する予定だ」

科学と芸術は2重らせんの関係。やがて境界線があいまいに

最後は、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)の坂根巌夫学長が講演を行なった。

元新聞記者だった坂根氏は、科学や芸術の分野を取材した経験を通じて、現在の役職についた。

'60年後半からアートとテクノロジーの融合を実感していたというIAMASの坂根巌夫学長
'60年後半からアートとテクノロジーの融合を実感していたというIAMASの坂根巌夫学長



「科学と芸術は2重らせんの関係にあり、これからは複合メディアとして、その境界線があいまいになっていくだろう。アーティストがメディアリテラシーを備えることで、五感に訴える感性を構成する」と語った。

最後に、先日、IAMASで行なわれたインタラクション展をビデオで紹介し、これからも、もっと新しい作品を日本から発信してきたいとした。

コーディネータ役の土佐尚子氏による最後のあいさつで全プログラムが終了した。今回の成功は世界中からトップレベルの人物を集めた、土佐氏のコーディネーションの力によるところが大きいといえる
コーディネータ役の土佐尚子氏による最後のあいさつで全プログラムが終了した。今回の成功は世界中からトップレベルの人物を集めた、土佐氏のコーディネーションの力によるところが大きいといえる



講演者全員による記念撮影
講演者全員による記念撮影

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