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【WORLD PC EXPO 99 レポート Vol.3】業界を代表する“顔”が集まったこの基調講演では立ち見も

1999年09月07日 00時00分更新

文● 編集部 桑本美鈴

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午後から行なわれた“WORLD PC EXPO '99”の基調講演では、“パソコン+インターネットで拓く未来”と題し、アップルコンピュータ(株)代表取締役社長の原田永幸氏、日本電気(株)(NEC)専務取締役の高山由氏、(株)東芝上席常務/デジタルメディア機器社社長の溝口哲也氏、富士通(株)専務取締役の杉田忠靖氏、マイクロソフト(株)代表取締役社長の成毛真氏の5名を迎え、パネルディスカッションが行なわれた(以下敬称略)。

--最近のPC、インターネットの普及について
--最近のPC、インターネットの普及について



アップルコンピュータ(株)代表取締役社長の原田永幸氏アップルコンピュータ(株)代表取締役社長の原田永幸氏



原田「iMac購入ユーザーの3割強がPC初心者、半分以上が新規ユーザーだ。価格帯と使い易さ、生活に密着したデザインの3つがポイント。インターネットインフラが充実してきたことも重要な要素の1つだ」

日本電気(株)NEC専務取締役の高山由氏日本電気(株)NEC専務取締役の高山由氏



高山「インターネットが定着し、インターネット関連のプラットフォームとしてPCが売れているのだろう。私は、iMacのMacが売れたのではなく、i(インターネット)が売れたのだと思っている。インターネットの利用に最適な装置としてPCが認知されたことが、昨年来からの売上に影響したのだ。当社の液晶デスクトップの購入者は、半分が新規ユーザー、女性名での登録ユーザーは23~24パーセントとなっている」

(株)東芝上席常務/デジタルメディア機器社社長の溝口哲也氏(株)東芝上席常務/デジタルメディア機器社社長の溝口哲也氏



溝口「インターネットが普及し、日本でもPCが生活に入り始めた。今後ますますPCは大きく発展していくだろう。これまでは、メーカー側が何とか製品を拡販しようとしていたが、これからはむしろ市場のほうがメーカーを引っ張っていくと思う」

富士通(株)専務取締役の杉田忠靖氏富士通(株)専務取締役の杉田忠靖氏



杉田「これからは、1人で会社、家庭、モバイルで使用するという1人3台の時代になると思う。PC自体が、家庭に置いても違和感のないデザインになり、ユーザーに受け入れられるようになってきたのだと思う。今後ますます使いやすい商品にしていかなければならない」

マイクロソフト(株)代表取締役社長の成毛真氏マイクロソフト(株)代表取締役社長の成毛真氏



成毛「日本も普通の先進国になりつつあるのだろう。製品というのは、ある一定の数が市場に導入されると、その後急速に普及することがある。PCもその一定ラインを越えたのかなと思う。ソフトやハードがいいからではなく、社会的な要因で伸びているのではないか。マイクロソフトとしては、ちゃんとした製品を作らねばと身が引き締まる思いだ」

--家庭向けPCについて

高山「(先日発表した家庭向け製品は)NECらしくないと言われている。個人の生活の中には、コスト、時間、生活空間の3つの財産がある。そのうち、PCはどれだけ時間をうばっているか、TVや携帯電話に負けてないか、小遣いの中でPCにどれだけお金をかけているか、どこに置いてなじむか。この3つを奪える商品を作れと言っている。また、当社は100周年であり、これを記念する商品を作ってくれと言った。今回の商品は1つの提案。NECらしくないデザインでインターネットの使いやすさを追求したもの」

原田「本日iBookを正式に発表した。本体価格は19万8000円で、10月上旬発売。エアポートというベースステーションを使うと、どこでもインターネットが利用できる。エアポートが3万8000円で、ワイヤレスカードが1万2800円。インターネットインフラをさらにリッチにするものだ」

溝口「パーソナルという意味で、女性が電子メールを中心に多く使い始めている。ホームということでは、ふさわしい製品は各社ともこれからの段階。PCらしくないPCがこの1年のうちにぞくぞくと出てくるのでは。さらに、ホームサーバーにつながっていくと思うが、そうなると、家庭の中で映像をワイヤレスで飛ばせるようなホームネットワークが不可欠だろう。実現すれば、ホームPCに新しい芽が出てくるだろう」

高山「家庭内は、やはり無線がいいだろう。それから、PCとTVを比較すると、TVのほうが画面がきれいだ。液晶パネルなどを利用して、TVに勝る映像を写さなければだめだ。それからポストVTR(ビデオ)が必要。そのためには、磁気系であれ光系であれ、大容量で低価格な録画用メディアがなければTVを越えられない。こういったものを実現すべく努力している」

成毛「個人的な意見だが、ここ数年のコンピュータの普及の原動力はインターネット。インターネット重視であれば、家庭向けのPCというのは、小さなモニターでもっとパーソナルなもののほうがいいのではと思う。1対1のコミュニケーションや、例えばTV会議システムのようなものを使ってファミリー対ファミリーのコミュニケーションといった分野も開拓しないといけないだろう。PCのデザインについては、きれいなもののほかにも、ごついPCがあってもいいのでは。バラエティにとんだものをお願いしたい」

杉田「将来の家庭におけるPCという意味では、インターネット接続などのほかに、家電やAV機器の制御機能を持つ必要がある。実現はもう少し時間がかかるだろう。市場が全体的に広がっているので、ひとつに限らず、いろいろやっていくべきだと思う。普及の要因としては、女性が購入していることが大きい。女性はやはりデザインを重視するところがある。たくさんの要求に対応した製品を出すことが必要」

原田「ビデオの接続より、iMacのインターネット接続のほうが簡単だ。この使いやすさを普及させなければならない。専門店などは、PCを買うという動機を持たない人に、どう製品を提示するかが大事」

成毛「高速通信網を作る必要がある。われわれが独占的にやるつもりはなくて、他社が刺激を受けて、高速化、低価格化を進めてもらえばいい。このままインターネットの速度が固定すると、より多くのソフトウェア需要を作り出せないのだ。われわれが先日発表した高速通信会社が実験などを実際に稼動させるのは来年以降。他社もこれを凌駕するようなサービスを出してきてほしい。制度的なインフラも整える時期だろう」

--ビジネス市場について

杉田「インターネットがライフラインになってきている。これは企業でも同じ。大企業はほとんどがインターネット/イントラネットを使っている時代。中小企業もこういったインフラに対応していかないとビジネス自体で勝てなくなると思う。特に中小企業には、アプリケーションや運用/教育サービス、技術サポートを組み合わせたトータルソリューションを提供することが重要だと思う」

成毛「企業ユーザーの要求は、業種によってかなり異なり、それぞれに対するソリューションの提供が難しくなってきた。今後は、こうやるとコストが削減できる、ここと連携するとこうなるといったビジネスモデルのシナリオ提供が必要だ。成功事例をもとにして提案していくことがソフトウェアベンダーにとって重要だと認識している」

溝口「われわれがこれまで培ってきたサーバー技術を役立てる時代になってきていると思う。ERPなどの企業向けパッケージ製品が充実してきており、企業のビジネスに合わせてシステムをカスタマイズするより、パッケージに合わせたビジネスをやっていったほうが、導入コストも下がるし、効率よくシステムのバージョンアップが行なえるだろう。使う側が考え方を変える時代だ」

高山「中小企業に対しては、ビジネスシナリオの提案は説得力がない。“コンピューターは難しい”という先入観があるから。まず、コンピューターを使ったビジネス、例えばインターネットを使った新しい取引環境を作るといった提案をしなければならない。そうすれば情報化ビジネスも中小企業に広がっていく。もともと取引は電話という通信でやっていたのだから、もう1歩踏み込めばいい」

原田「われわれは、最も強い分野がクリエイティブなプロフェッショナル市場なので、他社と取り組みかたが違うと思っている。プロ向けには製品の質を上げることが重要。例えば、G4を使うと、これまで自動車を30kmで運転していたのが、一気に300kmで運転するくらい体感速度が違うと思う」

--これからPCはどうなる?

成毛「最近のPCの進化速度は、過去10年の進化より速い。PS2など、今まで考えられなかったような競合製品も増えてきている。価格も安くなり、通信速度も速くなってくると、いまPCを買っていいのか? という話になるが、PCを今日買うか、一生買わないで過ごすかという状況になってきていると思う。このスピードについていけるようがんばっていきたい」

杉田「いろいろな利用シーンに応じて、製品のバリエーションが必要だろう。さまざまな製品ジャンルが出てきて、1人1台に向かって進んでいくと思う」

溝口「PCはこれからスタートと言っていいくらい、まだまだ市場はある。PCは形を変え、いろいろな物に入り込んで生活のコアになっていくだろう。そのために技術開発を加速する必要がある。今後は買い替え需要も多いだろう」

高山「PCは継続的に変わっていく。TVと違い、機能性が重要なものだ。PC定義はまだまだ進歩していくだろう。ポストPCも、結局はPCである」

原田「ポストPCというのは、まったく意味のない言葉だ。それよりもソリューションの提供が大事。さまざまなサイクルが加速している社会の動きの中で、PCはいろいろな形で発展していくだろう。PCの時代は、向こう100年はある」

業界を代表する“顔”が集まったこの基調講演は、立ち見の受講者が続出するほどの注目を集めた。活発な意見交換が行なわれ、受講者は出席者の話に熱心に聞き入っていた。時折笑いの混じる発言もあるなど、始終盛り上がりをみせたこのパネルディスカッションは、最後は受講者からの割れんばかりの拍手で幕を閉じた。

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