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「今」、注目されるLinux

1999年07月01日 00時00分更新

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今、Linuxは、大きな注目を集めている。
もちろん「今さら」の意味で書いたわけではない。

Linuxが最初に世間の注目を集めたのは、昨年(1998年)の9月29日、IntelやNetscapeといった「有力」企業が、Linuxディストリビューションベンダの1つである米Red Hat Softwareに出資したと発表したときだろう。特に、この出資者リストにIntelの名前があったことで、業界を超えた数多くのメディアが、一斉にこのことを報道し、論評した。もし、このときRed Hatへ投資したのがNetscapeだけだったら、「アンチMicrosoftの急先鋒が、脱Microsoftへの一歩を踏み出した。うまくいくかどうか分からないけどね」というような話で終わってしまっていたかもしれないし、あるいは、これがベンチャーキャピタルだけだったら、そもそも話題にすらならなかったかもしれない。

ともかく、この「事件」を境に、Linuxを取り巻く状況が一変した。それ以前からLinuxに関わっていた者からすれば、いや本当に、ありきたりの表現ではうまく伝えられないほどに、Linuxを取り巻く状況は大きく変わってしまった。それまでは「何だかよく分からない怪しいOS」とか「ハッカーたちのおもちゃ」ぐらいの認識だったものが、今では「未来を変えてしまうかもしれない可能性を秘めた原石」とまで言われ、持て囃されている。

それから今日までのLinuxの状況は、読者のみなさんがよくご存知の通りである。ほとんどのシステムメーカーがLinuxに対応したサービス(必ずしもサポートではない)を発表し、ソフトウェアメーカーも、自社製品のLinux対応を検討するところが増えてきている。もはやLinuxは、「ハッカーのおもちゃ」というような理由で片づけてしまうことは許されない存在なのである。

しかし、いったん、当たり前のように受け入れられてしまうと、今度は、それが「ある」というだけでは、誰も振り向くことはない。ちょっと前までのLinuxは、まさにそんな状況で、もはや、Linux対応というだけでは、世間の耳目を集めることはできない。

それでも、今、再びLinuxは大きく注目されている。その引き金を引いたのは、Linuxにとって歴史的なあの「1998年9月29日」に主役を演じたRed Hat Softwareで、同社は、Linux関連企業としては初めてのケースとなる株式公開の意向を明らかにした。続いて、LinuxのディストリビューションベンダとしてRed Hatとはライバル関係にあるCalderaSuSEも、株式の公開に向けて準備を進めていることを明らかにし、腹の足しにはならない話題だけが先行していたLinuxのブームが、にわかに「生臭さ」を漂わせ始めたのである。

私は証券アナリストではないので、マネーゲームとしての株式公開については何ら説明できることはないが、これまで割とLinux世界に近しいところにいた経験からすると、LinuxというOSを取り巻く状況が、また再び、大きく変わろうとしているのかもしれないという気がしている。それは一言でいえば、「フリーソフトウェアであるLinuxが、『ビジネス』という異質の世界と、どう折り合いをつけるか」ということの結論(あるいは結論への道筋)が、そろそろハッキリとし始めているということでもある。

これは何も、上に挙げたような海の向こうのことだけではない。たとえば、3月にBob Young会長が日経BP記者のインタビューで「近いうちにやる」とは言ったものの、なかなか結論が出ない「Red Hat Software社の日本進出」も、そろそろ大詰めを迎えている。その結果次第では、「Red Hat Software」も、「やっぱり普通の会社だったか」(日本進出に際して「過ち」を犯した外国企業は数多い)と言われるかもしれないし、そうなればLinuxについても、「やっぱり単なる『飯(ビジネス)の種』の1つでしかなかった」と陰口を叩かれるかもしれない。

というわけで、やっぱり今、Linuxは大きな注目を集めているのである。

(風穴江)

風穴 江/かざあな こう

プロフィール

風穴江

「月刊スーパーアスキー」誌(1998年7月号で休刊)にて1993年ごろからLinux連載を担当。1998年3月からフリーに。1999年4月1日からは「月刊Linux Japan」(LASER5出版局)の編集長も務める(エイプリルフールではない)。1967年、青森県生まれ。青森県立八戸高校卒。

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