このページの本文へ

エリック・レイモンド氏の京都講演

「セキュリティー性を選択するのもユーザーの知恵の1つ」

1999年06月02日 00時00分更新

文● 野々下裕子

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

オープンソースのエバンジェリスト(伝道師)として脚光を浴びているエリック・レイモンド氏の講演“オープンソース革命”が、5月28日、京都産業大学・神山ホールにて行なわれた。今回の講演は、レイモンド氏自身の「地方でも講演を」との希望に端を発している。関西の人々が呼応して手をあげ、Eric Raymond京都講演実行委員会が結成されて、実現された。壇上に姿を見せたレイモンド氏を200名を越える参加者が熱狂的な拍手で迎え、2時間にわたる講演が始まった。

「質問はいつでも受け付けるからね」--講演はオープンなスタイルで始まった

前半、レイモンド氏はオープンソースの成立について、自身の論文『伽藍とバザール』の内容に触れながら語った。

「ソフトウェアの開発プロジェクトなどを進める場合、その複雑さに伴って管理等の手間が開発者数の2乗で増えることを“ブルックスの法則”と言う。しかし、オープンソースはその法則を覆し、驚くほどの効率を上げている」

「例えば、ソフトウェアのバグは本来取り除ききることのできないものと言われているが、ソースを公開することによって早く、効率的にバグを取り除くことができる。この“ピアレビュー”という方法は、研究者たちによる理性的なチェック機構とでも言えばいいだろうか。つまり“目玉の数だけバグを取り除ける”これを私は“リーヌスの法則”と呼んでいる。また、レビューする人たちのものの見方の違いや創作性をも助けると考えている」

講演の後半はソフトウェア経済の中で考えられる8つのビジネスモデルのうち、6つを解説。クローズド市場の中で新しい地位を生み出したネットスケープのような“マーケットポジション”や、Mac OS Xサーバーのようにガジェットを売るためにソフトを付ける“ウィジットホステリング”という考え方や、Linuxのようにサービスで市場を開拓する“レーザー(かみそり)モデル”などが紹介された。現段階ではまだ検証されていないが、Red Hat Softwareやパシフィック・ハイテックのように、販売そのものより2次利益に期待する“スタッフテトラサービス”も有効に作用しつつあるということだ。

講演中はレイモンド氏のオープンマインドに触発されて、質問が多数寄せられた。質問はオープンソースを採用した場合の問題性を問うものや、今後の市場性についてなど多岐に渡った。

講演中も会場からの質問がどんどん寄せられた

回答の1つでレイモンド氏は「すべてのソフトにオープン性を求めているのではない。場合のよってはクローズドもあり得る。ただし、暗号技術の開発者たちはクローズドな環境では致命的なバグが発見できないことを知っている。綿密なピアレビューがそれらを助けるのである。セキュリティを選ぶのもユーザーの知恵である」と改めて自身の考えをきっぱりと語った。

「複雑化の臨界点は明日にでも達するかもしれない。この状態を解決するにはクローズドな環境では太刀打ちできない。Linuxは日々更新され、成長している。一方で、Windows 2000のようなソフトはすでに行き詰まっており、力があることがかえって状況を悪化させることになっている。高層ビルを建てるぐらいなら、建物を地下に掘り下げて地下鉄で行き来させる。そんな横の連結をもたせるほうが現実的な環境といえるのではないだろうか」(※1)

レイモンド氏の講演後いみじくもマイクロソフトがWindowsのソースコードの公開を検討していることを明らかにしたのは、やはり時代の流れがオープンソースに向かっていることを物語っているといえるだろう。

※1 この発言の意図は、次のようなものである。高層ビルをどんどん高くしていくと、下の階では、エレベーターシャフトの面積がどんどん広くなって、フロアの面積がとれなくなってしまう。この問題を避けるために、低いビルをたくさん建てて、地下鉄で横の連携を高めるという手がある。ソフトウェアにおいても、巨大ながっしりしたOSよりも、Linuxのようなモジュールの横の連携というアプローチの方が、問題解決に向いているのかもしれない。

カテゴリートップへ