ちなみに「EVD」という規格が中国にはあります
そしてもちろん、プレーヤー普及のキモとなるのがコンテンツだ。中国ではCH-DVDから遡ること2002年、DVDメディアにハイビジョン映像を詰め込み、コピー防止技術を盛り込んだ「EVD」(Enhanced Versatile Disk)をリリースしている。EVDは発表当時でこそそれなりに先進的であったが、今や松下電器産業がリリースしたBlu-rayレコーダーにはDVDメディアにハイビジョンで録画する機能「AVC Rec」があり、すなわち家庭でEVDディスクのようなものができてしまう状況にある(しかもEVDはリードオンリーで書き込みは不可)。
そんなEVDだから、現在新しいコンテンツがほとんど出ていない状況だ。発売から2~3年はEVDのリーダー的なメーカーの時代今典というメーカーが、さまざまなコンテンツベンダーからライセンスされたEVDを発売していたが、今や時代今典ですら、沈んだEVDなる船から脱出してしまっている状況だ。EVDのコンテンツは中国映画がほとんどだったが、ハリウッドがBlu-rayに移行したので、HD DVDもまた中国映画ばかりになるのだろうか。
また、現在中国におけるCDやDVDを扱う実店舗でもネット店舗においては、「CD VCD SVCD※1 DVD HDVD※2」という文字は並んでも「EVD」という文字はない。EVDのコンテンツはもはやほとんどの店舗で「置かれてもいない状況」なのだ。それにも関わらず時代今典のお偉いさんは今年に入って「HD DVDは終わった! これから中国ではEVDとBlu-rayが共存する!!」なんて強気のコメントを出している。
※1 大雑把にいえば、CDメディアにDVDクオリティの映像を放り込んだVCDの上位規格
※2 またまた大雑把にいえば、DVDメディアにVCDクオリティの映像を放り込んだ中国国内で知られるDVDの下位規格。中国ではテレビドラマやアニメの全話を詰め込むだけ詰め込んだHDVDが海賊版ショップの店頭で販売されている。
EVD陣営の根拠のない自信は実に中国人らしいと思う一方、東芝のHD DVDからの清い撤退は実に日本らしいなと思う次第。
そもそも「画質に高いお金を払わない」のが中国流
あまつさえ、現在中国のハイテクを使いこなす人民の環境にはADSL環境が当たり前のようにある。高速回線を利用して、中国向け動画共有サイトだの、P2Pサイトだのを利用して、映画のようなファイルサイズの巨大なものですらタダ見するのが、中国のネット利用者にとっては当たり前となっている。
HDVDやMP3ファイルを詰め込んだCDが中国でよく売られていて、ネットで動画を見ることがネット利用者の基本となれば、どうも「画質はどうでもいいからタダで見たい」という気持ちを中国人は強く持っているような気がしてならない。そういえば、中国ではゲーム市場において、海賊版ソフトが入手しやすいハードが支持されたことから、中国のゲーム史は「ファミコン」→「メガドライブ」→「プレイステーション」というスーパーファミコンの抜けた特異なゲーム史となっている。
CH-DVDは中国で成功できない要素が多すぎる。だからCH-DVDは不発となる。それどころか、いまだに「VCDが現役」の家庭も多く、Blu-rayすら微妙だろうというのが筆者の考えだ。
中国でCH-DVDをはじめとした独自規格を立ち上げることで、そのライセンス料を払わないようにする中国の国策を脅威と見る人がいると聞く。
だがCH-DVDの規格を立ち上げるにあたり、まさか東芝が中国にタダで技術提供したとは思えないし、またCH-DVDが市場で売れなければライセンス料の徴収も何もない。そういった意味では、昨年中国側にHD DVDの技術を提供した東芝の行動は正解だったのかな、と思う。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。ブログ「中国リアルIT事情」もよろしく!