イノベーションを理解する練習問題
── この本は、いろんな意味で大変にタイムリーだったのではないかと思います。例えば、昔からコンピュータをやっている人からすると、今というのは、夢だったことが実現してきたみたいな時代です。
個人が、本当に世界に向かって発信していたり、地球の表面を自由に見てまわったり、ロボット工学なども進んでいる。“セカンドライフ”なんかは、ネットの中で夢が現実になってきたので、その勢いで注目されているようなところがありますよね。
そういう大変に前向きな時代に、日本もいろいろやれるはずなんです。そういう意味では、この本は、本当に読んでもらうべき人に読んでもらわないといけない。
【坂村氏】 コンピュータの話も出てくるけど、そうでない話のほうが多い。そういう意味で、多くの方に読んでほしい。
── 制度や仕組みのイノベーションが日本には必要であることを、さまざまな事例を引いてきて書かれています。
YouTubeみたいなビジネスがなぜ米国で可能なのかという“硬く考えないビジネスモデル”の話や、シンガポールが国内にある全自動車にETCを義務づけたことで逆にシステムがシンプルになったという“思考停止する日本”の指摘もありました。いずれも、いまの世の中の実際の動きを受けた発想法のトレーニングみたいな気がしました。
【坂村氏】 これからの変化がすべて予測できるわけじゃないから、練習問題のような形で示したのですよ。
── “オープン”とか“ユニバーサル”とか“ベストエフォート”といったキーワードは出てきますが、ケーススタディの中から汲み取っていく訓練が必要ということでもありますね。
さきほどの“休み”の意味というのが、なるほどなあと思ったのですが、“自分の番”という発想がないとダメですね。
【坂村氏】 この本を読んで、そういう発想で活躍する人が増えたらうれしいと思います。
遠藤 諭(えんどう さとし)
(株)アスキー取締役。1991年より『月刊アスキー』編集主幹。日本のモバイルやネットのこれからについて、業界での長い経験を生かした独自のスタンスで発信している。著書に『新装版 計算機屋かく戦えり』や 『遠藤諭の電脳術』など。ブログ“東京カレー日記”も更新中。