ASCII倶楽部で人気連載だった せれろんやまだ が帰ってきた! 科学好きが高じてついに連載開始!
第1回目の記事はこちらから→ 量子コンピューターって何だよ
離れてても伝達するロマンチックな「量子」
テレポーテーション──超能力にあこがれたことがある方なら、心ときめく単語かもしれません。どこへでも一瞬でいける瞬間移動のことです。どれだけ遠く離れた惑星であろうが、近所のあの子のお風呂であろうが一瞬です。
この『量子テレポーテーション』という言葉だけを聞くと、「量子って瞬間移動もできるのか……ならば量子の集合体である俺の体も……」と思われそうですが、実は違います。量子の情報伝達している様子が、瞬間移動しているようにみえるってのが、量子テレポーテーションです。この瞬間移動風味の技術を使うと、前回ご説明した量子コンピューターがもっともっと速く計算できるようになるのです。研究者さんたちは、量子コンピューターを開発しながら、この量子テレポーテーションも同時に実験しているようですが、どうやら成功はしているようです!
んんん、これはエラーの回避や訂正の完成が待ち望まれますね! いくら速くても結果が間違っていると役に立たないですから……。
さて、この量子テレポーテーション、瞬間移動のようにみえる、という現象はどういうことなのか。ある物体が、今の位置から別の位置に瞬時に移動することを、一般的に瞬間移動と言っていますが、量子は移動しているわけではありません。
ここでまた、量子世界代表選手の「電子」に登場してもらいましょう。第1回で説明したとおり、量子である電子は、粒であり波という二面性を持っていますが、実はそれ自体が動いています。これを「スピン」といいます。このスピンの動く量は、私たちが考えている量(例えば、1分間に7200回転するとか)では測れません。量子なので「量子力学」、つまり私たちが考えられない力学がはたらいています。
そして、このスピンは2つの状態、例えれば「右回転」か「左回転」かの状態をもつことができるのですが、はい、量子である電子、右にも左にも回転している状態を同時にもつことができるんですねぇ。出ました、これが“重ね合わせの状態”です。
この量子を語るうえで絶対に外せない二面性と重ね合わせの状態、マクロ(大きい)世界で生きている普通の人間はなかなか理解に苦しみますよね……。普通の人間だけでなく、昔のスーパー頭いい物理学者たちもそれで大論争を繰り広げたくらいです。そもそも波として広がっている電子が、観測した瞬間1点(粒)にまとまり、そのまとまる場所は確率によるものだの、そもそも観測ではなく、人間が「あっ、粒だ」って認識した瞬間にその存在が確定するだの、いろいろな解釈が出てきました。
とくに有名なのがシュレーディンガーさんですね。議論がヒートアップする量子の振る舞いの解釈に対し、「ネコが生きてるかお亡くなりになっているか、我々が見た瞬間に決まるのか?」という、かの“シュレーディンガーの猫”のお話の人です。
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