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「ライブ配信メディア完全解剖 〜過去と今、そして未来へ〜」 第14回

東日本大震災でのNHKの英断が与えたライブ配信メディアへの影響

2016年11月10日 17時00分更新

文● ノダタケオ(Twitter:@noda

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NHK NEWS WEBサイトより

 テレビやラジオではなく、ネットを通じて「いま何が起きているのか?」をパソコンやスマートフォンで情報の第一報を知る機会が増えた、と感じる人は多いのではないでしょうか。

 この5年ほどの間にいわゆる「放送と通信の融合」が進みました。

 それは特にラジオ放送が顕著です。

 ラジオ局から地上波で放送されている番組がIPサイマルラジオサービス「Radiko」によってネットを通じて(ほぼ)リアルタイムに、そして、近年では「エリアフリー」によって(月額有料であるものの)全国どこにいてもお気に入りのラジオを聴くことができるようになりました。

 テレビも同様で、このほどの「アメリカ大統領選挙」「博多駅前陥没事故」「天皇陛下お気持ち表明」「熊本地震」など、事件事故・自然災害や特別な出来事が起きた時、テレビ局から地上波で放送されている特別編成の番組をそのままリアルタイムに見ることもできるようになっています。

「放送と通信の融合」のきっかけは東日本大震災とライブ配信メディア

 いまではテレビ局やラジオ局から放送されるものを当たり前のように見える(聴ける)ようになったのは、2011年に発災した東日本大震災とライブ配信メディアがそのきっかけのひとつだったと考えています。

 東日本大震災が発災したこの頃は、同時に「ライブ配信メディアの黎明期」でもありました。

 発災直後、被災をし、停電によってテレビ局が伝える津波の情報を得ることができない人に向け、広島県に住む14歳の学生が手元にあったスマートフォンでテレビ画面を撮り、ライブ配信メディアのひとつである「Ustream」で配信をしました。

 この時(自宅や職場に備えがあったとしても)ラジオを移動中に持ち歩く人も多くありませんし、なにより、停電となりテレビをつけることができなくなった地域も多かったはずです。

 スマートフォンは常に手元にある人が多く、また(これまでの災害における教訓から)携帯電話事業者の努力による通信インフラの整備で、輻輳によって通話は難しいものの、データ通信は可能というケースが増えていたことから、「Ustreamでテレビ局が伝える情報を知ることができる」という情報は瞬く間にソーシャルメディアを中心に広がっていきました。

 ただ、従来であれば、この行為は「著作権の侵害」として運営サイド側で配信停止されるのが通例です。

 しかし、Ustream(を運営していたUstream Asia)は「停電などでテレビを見ることができない人の貴重な情報源」であることを認識し、自身の判断で配信を停止せず、経過をしばらくの間見守ると同時に、NHKへ対して、個人の再送信の許可とNHKが公式にネット配信すべきと打診をし、再送信の許諾を得ると同時に、公式な配信の準備が進んでいきました。

 この出来事のなかでもっとも注目すべきは、「UstreamでNHKのテレビ放送が見れる」ということをTwitter上で知らされたNHK広報部の公式アカウント(@NHK_PR)

「停電のため、テレビがご覧になれない地域があります。人命にかかわることですから、少しでも情報が届く手段があるのでしたら、活用して頂きたく存じます(ただ、これは私の独断ですので、あとで責任は取るつもりです)」
https://twitter.com/NHK_PR/status/46128437441736704

 として、「UstreamでNHKのテレビ放送が見られる」ことを自らソーシャルメディア上でシェア(リツイート)したことでした。本来であれば、こうした配信を容認することは難しいことです(おそらく後にも先にも同様のケースはもう起きることはないでしょう)。

 しかし、テレビを見ることができない人がいるかもしれない、という状況を踏まえ、ソーシャルメディア上で発言した「伝説のつぶやき」は、ライブ配信メディアの世界で起きたとても大きな英断ある出来事として、いまでも多くの人の印象に残っていることだと思います。

 その後、NHKは公式の「サイマル配信(テレビ放送と同じ内容のものがネット上でも配信)」をスタートさせ、これと前後して、フジテレビ、TBS、テレビ朝日など在京のテレビ局においても、震災当日の夜からサイマル配信が次々に始まっていきます。

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