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印南敦史の「ベストセラーを読む」 第19回

『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒栁桂子 著、朝日新聞出版)を読む

「コロッケが爆発しました」刑務所の受刑者たち、“クサくないメシ”作りに奮闘

2024年01月04日 07時00分更新

文● 印南敦史 編集●ASCII

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 なんでも巷ではいま、「横浜刑務所で作ったパスタ」がたいへん売れているらしい。食べたことはないけれど、まあ理解できる話ではある。いわゆる「刑務所作業製品」は、質が高いということで昔から人気だったからだ。

 とはいえ刑務所内の工場でつくられるもののなかには、パスタみたいに簡単には買えないものだって存在する。最たるものが「給食」だ。だいいち塀の向こうの給食事情は、私たちにとってあまりに縁遠いものである。

 だから、『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒栁桂子 著、朝日新聞出版)の冒頭に出てくる以下の記述にも、いささか興味深いものを感じるのだ。

ほとんど知られていないことだろうが、刑務所で受刑者たちが食べる給食は彼ら自身が作っている。管理栄養士である私の仕事は、毎月のメニューを考えて、週に1〜2回は受刑者と一緒に炊場(炊事工場)に立ち、彼らに調理指導をすること。(「はじめに クサくないムショメシをめざして」より)

 人ごととして考えれば、なかなか緊張感のありそうな職場である。著者自身も最初は、「ヤクザ映画で見るような眼光鋭い荒くれ者が勢ぞろいなのだろう」と想像していたらしい。しかし実際の受刑者はごくごく普通の男子たちばかりで、生まれもっての悪党なんかじゃないと思わせる瞬間も少なくなかったという。

私がこの仕事にやりがいを感じられるのは、彼らの「ウマかったっス」という言葉があったからだ。職員と受刑者という立場でありながら、あるときは同じ釜の飯を「食う」ならぬ「作る」仲間であり、またあるときは料理を教える先生と生徒、そしてまたあるときは調子に乗った言動に説教する母親と息子、そんな場面をいくつも過ごしてきた。(「はじめに クサくないムショメシをめざして」より)

Image from Amazon.co.jp
めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります

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