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「会議は1日2時間まで」など“労働は量より質”を提言、AIの生産性向上効果はまだ実感が薄いことも指摘

「プレッシャーを感じて残業する人」は生産性が20%も低下 ― Slack調査

2023年12月22日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 労働生産性の水準において世界に誇れるとは言いがたい日本。労働時間が長く、時間外労働も多いと言われるが、「時間外労働(残業)は生産性に結びついていない」という調査結果が明らかになった。Salesforce傘下のSlackが2023年12月20日、働き方についての最新調査「Slack Workforce Index」を発表した。

 SlackのWorkforce Indexは、未来の働き方に関するグローバル調査。今回の調査は日本を含む6カ国で2023年8月24日から9月15日に調べた。日本からは1075人、6カ国合計で1万333人のデスクワーカーが調査に参加している。

「Slack Workforce Index」の調査結果より。時間外労働が常態化しているデスクワーカーの半数以上は、自らの意思ではなく「プレッシャーを感じて」残業している

Slack ユーザーインターフェース/ ユーザーエクスペリエンス担当SVPでWorkforce Lab担当のクリスティーナ・ジャンザー(Christina Janzer)氏

調査で明らかになった、生産性の高い労働は「量(時間)より質」

 Workforce Lab担当のクリスティーナ・ジャンザー氏は、今回の調査結果について「(1)時間」「(2)生産性」「(3)AI」という3つのテーマに分けて説明した。

 (1)時間と(2)生産性についての結論を端的に言うと、「労働は量(時間)より質」ということになる。

 今回の調査では、デスクワーカーの5人に2人が「時間外労働が常態化している」と回答。そのうちの50%以上が、「自らの選択ではなく、プレッシャーを感じて残業している」と述べている。

 このようにプレッシャーを感じて残業しているデスクワーカーは、1日を通じて「全体的な生産性が20%低下している」という。つまり、生産性が高くない状態で長時間労働していることになる。ちなみに日本単独の結果を見ると、生産性は平均で「37%低下」と、世界平均よりもさらに生産性が低下している。

 このほかにも、プレッシャーを感じている人はそうでない人よりも「仕事関連のストレス」が2.1倍悪化しており、「満足度」は1.7倍低下、「燃え尽き症候群」も2倍多いという結果となった。

 なお同じ残業でも、自らの意思で残業を選択している人の場合は「生産性が若干高くなっている」という結果も出ている。

「プレッシャーを感じて残業している」回答者は、生産性が20%低下した状態で一日中仕事をしている

 残業が発生する理由は、時間が足りないからにほかならない。時間外労働が常態化している回答者の50%は「優先事項があまりに多い」と回答している。4人に1人は「会議に時間を使いすぎている」、同じく4人に1人は「メールに時間がかかりすぎている」と考えているという。

 さらに、忙しいデスクワーカーは休憩を取る暇もないようだ。休憩を「PCから15分間遠ざかる」ことと定義して、勤務時間中の休憩について尋ねたところ、50%が「勤務時間中にほとんど/まったく休憩を取らない」と回答した。日本の労働者はさらに忙しく、63%がほとんど/まったく休憩を取らないと答えている。

デスクワーカーの半数(日本は63%)は「休憩をほとんど/まったく取らない」

 休憩を取らないことは、生産性に良い影響を与えない。休憩を取らずに働くデスクワーカーは、そうでない人よりも1.7倍高い割合で「燃え尽き」を経験している。また、定期的に休憩を取るデスクワーカーは生産性が13%高く、ワークライフバランスは62%、ストレス管理能力は43%、それぞれ休憩を取らない人よりも優れているという。全体的な満足度も43%高い。

 「(デスクワーカーが休憩を取るのは)アスリートが休息を重要なルーティンとしているのと同じこと。ダウンタイムは生産性を増加させる」(ジャンザー氏)

休憩を取ることは生産性、ワークライフバランス、ストレス管理能力、そして全体的な満足度に好影響を与える

 働く時間帯については、デスクワーカーの4人中3人が作業をしている15時~18時を「午後のスランプ」と結論付けている。この時間帯の生産性が高いと考えているのは、4人中1人に過ぎないという。

 これらの調査結果から、生産性を維持するためのポイントとして「集中して仕事をする理想的な時間は1日平均4時間程度」「会議は2時間まで、それを超えると時間を費やしすぎ」といった提言を行った。

労働生産性を維持するためのポイントを3つ挙げた。長時間労働よりも、短時間で質の高い労働をすべきという結論だ

「優先順位や時間配分を自分で決められる仕事環境が重要」

 もうひとつのテーマ「(3)AIツール」では、AIと生産性の関係を調査した。

 今年に入り、生成AIを中心としたAIツールが、さまざまな業務の中で普及の兆しを見せつつある。ただし、実際に「仕事にAIを使用したことがある」デスクワーカーは5人中1人にとどまり、AI利用者の80%が「AIツールで業務の生産性は向上していない」と回答した。

 ただし、リーダー層は生産性改善のツールとしてのAIに大きな期待を寄せている。94%のリーダー層が「AIツールを取り入れなければと危機感を感じている」と回答している。

 ちなみに日本では、100%のリーダー層が「危機感」を感じる一方で、AI利用者の91%(調査対象国中で最多)が「生産性は向上していない」と回答しており、意識の隔たりが大きい。

リーダー層は生産性向上を目指しAIツールの導入を急ぐが、デスクワーカーではまだ生産性向上の効果が実感されていない

 デスクワーカーはAIをどんな業務に適用したいのか。世界のトップ3回答は「会議の議事録作成」「文書作成の補助」「ワークフローの自動化」、日本では2位が「情報の要約」、3位が「文章作成の補助」だった。なお、「情報の要約」がトップ3に入ったのは日本だけだという。

 最後にジャンザー氏は、「労働により多くの時間を費やすという考え方から、よりスマートに(賢く)時間を費やすという考え方に切り替える必要がある」「自分がどのような優先順位や時間配分で仕事をするのかを決められる環境、信頼のある環境が重要」だとまとめた。

 なおOECDのデータによると、日本の年平均労働時間は1607時間、世界28位だ。GDPが日本と近いドイツは、年平均労働時間1341時間で、38の加盟国中で最短となっている。

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