ICTエバンジェリスト・若宮正子さん/いつだって何にだってなれる。自在な生き方が注目を集める88歳

文●高尾真知子/撮影 伊東武志

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 人生100年時代といわれる昨今、自分らしい働き方や暮らし方を模索する女性たちが増えている。そんな女性たちに役立つ情報を発信するムック『brand new ME! ブランニューミー 40代・50代から選ぶ新しい生き方BOOK vol.1』(KADOKAWA刊)から抜粋してお届けするシリーズ。今回は、IT活用の伝道者として国内のみならず世界を股にかけ活躍している若宮正子さんの言葉からライフシフトの極意を学ぶ。

講演会などで全国を飛び回る日々のため日課は作らない。家にいる時もオンラインで取材を受けたり、原稿チェックなど多忙のため、スケジュールは常に最新の状況を把握できるよう、Googleカレンダーの更新を欠かさない。

自由に行ったり来たりできるのが新時代のライフシフト

 世界中の国のIT活用法について、現地で知見を広げている若宮さん。

「エストニアの大学の卒業式には子連れで出席する人も普通にいるし、オックスフォード大の医学部では勉強だけじゃまともな医者になれないから休学して現場を見てこいと言われた日本人留学生がいました。現代のライフシフトとは、脱サラして開業するといった人生を90度曲がるようなことではなく、行ったり来たりいろいろなことをやりながら生きていくことじゃないかしら」

   58歳のとき、自身の退職金を当てに、当時まだまだ高額だったパソコンを購入。

「新しいもの好きの私は初めてのパソコンに夢中になりました。パソコン通信が面白すぎて、自宅で介護をしていた母親におやつをあげ忘れたりすることも(笑)。私みたいにいい加減な“不良介護人”でも、母は100歳まで生きました。介護のせいで何もできないと、狭い常識や周りの目にとらわれすぎる必要はないんです。老後=自分の時間を精一杯楽しまなくっちゃ」

打席に立たなきゃ、どんな球だって当たらない

 毎年のように海外へ旅をし、英語でのスピーチもこなす若宮さんだが、英会話は不得意だとか。

「ゲームアプリを開発したら、CNNから英語で取材依頼のメールが届いたんです。2時間で返信しろと書いてあるので、Google翻訳を使って英語の回答を作りメールにコピペして送ったら、30分後にはニュースになって世界中に配信されていました(笑)」

   81歳でプログラミングに初挑戦した若宮さんは「よくやろうと思いましたね」と言われることが多いそう。

「パソコン1台あればできるし、無料のソフトもあります。誰に迷惑をかけるわけじゃなし、挑戦することになぜ勇気や決断が必要なのでしょうか」。上手くいかなかったらいつでもやめられるのだし、やる前から臆病になることはないという若宮さん。「野球だってせいぜい2割5分打てば上々です。まずはとにかく打席に立つことです」

ただ長生きしたってしょうがない。アクティブでいなくっちゃ

   若宮さんは日本では精神的な自立ができていない女性や若者が多いことが気になると言います。

「自立している女は可愛げがないという発想は今でもありますよね。それに歳を重ねるといろんなことを諦めてしまう人も多いです。私はいわゆる独居老人で、結婚もしていません。昔は変人と言われたけれど、時代が変わったら注目されるようになりました。自分で自分にとらわれず、他人と比較せず、自分の成長を大事にすれば個性ある生き方につながります」

   ご自身のことを超ポジティブ人間だと表現する若宮さんは、アクティブに生きることこそが楽しい人生だと説きます。

「失敗しないように慎重すぎる生き方を送っていてはつまらないじゃないですか。自分には無理だなんて決めつけないこと。誰に何を言われても気にせず、大いにやってみることが大事ですね」

   やりたいことはとっておかずに、思い立ったらすぐ行動するのが若宮流。

「これまで真面目で慎重な人が尊重されてきた世の中だったのが、これからは変わらないでいることの方がよっぽどリスクになっていく時代です」

   人生100年時代と言われる今、いくつになっても、いつでもやろうと思ったことがすぐできるように、能動的に世の中の変化を注視することで自分をアップデートするのが良いと、若宮さんは勧めています。

近著『昨日までと違う自分になる』(KADOKAWA)/常識にとらわれない生き方のヒントが詰まった痛快エッセイ。

Profile:若宮正子

わかみや・まさこ/デジタルクリエーター、ICTエバンジェリスト。1935年、東京都生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行に入社。58歳の頃に好奇心でパソコンを買う。エクセルと手芸を融合した「エクセルアート」創始者。2016年にはアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待されるなど世界的に活躍中。シニア向けサイト一般社団法人「メロウ倶楽部」理事。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。熱中小学校教諭。ハンドルネームは「マーチャン」。

この記事の編集者は以下の記事もオススメしています

過去記事アーカイブ

2023年
07月
09月
10月
11月
12月