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連携失敗の本質とは? 上場企業が持つスタートアップに対する根本的な「誤解」

スタートアップ買収とスピンアウト取引、失敗の構造を解き明かす――その1

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 シード投資のスタンダード「J-KISS」を開発するほか、さまざまな有識者会議でスタートアップ政策やオープンイノベーション、知財・データ・デジタル政策などを提言してきた弁護士・弁理士の増島雅和氏による寄稿連載。

 大企業によるスタートアップ買収とスピンアウト取引に焦点を当てて、日本企業に典型的にみられるスタートアップに対する根本的な誤解を指摘し、その誤解から生じるスタートアップ買収とスピンアウト取引の典型的な失敗パターンとその構造を解き明かす。そのうえで、この構造的に発生してしまう失敗パターンから脱出するための「思考のメカニズム」を提示する。

 スタートアップとの連携を叫ぶ上場企業が典型的に陥る特に悲惨な失敗が、スタートアップを理解せず、最初からボタンの掛け違いをしている事例です。このような勘違いは入口から間違っていますので、そのあとに何をどうやっても成功にたどり着くことはありません。初めから失敗が確約された取組みをしないためには、まず「スタートアップとは何なのか」について正確に知る必要があります。

はじめに

 世界知的所有権機関(WIPO)が毎年公表している「グローバルイノベーション指数(GII)」2022年版によると、日本のGIIランキングは世界13位と低迷し、世界の主要国(米国2位、英国4位、ドイツ8位、フランス12位)の後塵を拝しています。アジア諸国の中でも、2011年には韓国に、2019年には中国に順位を逆転されました。

 2023年6月9日に公表された「知的財産推進計画2023」は、日本のイノベーションの低迷ぶりが構造的な要因に起因するとして、競争力や新たな価値創出に結実する包括的な知財戦略の必要性を強く訴えるものとなりました。とりわけ、多くの知的財産を持つはずの日本企業がこれを競争優位の維持・強化につなげられていない原因として、自前主義にこだわり、M&Aやオープンイノベーションが不十分であることが挙げられています。オープンイノベーションを通じて無形資産を活用し、企業価値を具現化することで利益率を上げ、これを成長と分配に振り向けて経済を発展させる好循環の軌道に乗ることに成功していないというのです。

 無形資産時代の企業成長にとって不可欠なオープンイノベーションの取り組みが低調であることと、リスクの高い研究開発に十分に取り組めていないこと、スタートアップの買収やスピンアウトが低調であることは、どれも同じ問題に根差している日本企業の「病理」です。

 筆者は、米国シリコンバレーをはじめとする世界のオープンイノベーション活動を支援し、関係者と交流を図る中で、日本のオープンイノベーションが抱える根本的な問題点をこれまで指摘し、政府の政策立案や個別企業のアドバイスを通じて対策を指南してきました。

 本シリーズでは、大企業によるスタートアップ買収とスピンアウト取引に焦点を当てて、日本企業に典型的に見られるスタートアップに対する根本的な誤解を指摘し、その誤解から生じるスタートアップ買収とスピンアウト取引の典型的な失敗パターンとその構造を解き明かします。そのうえで、この構造的に発生してしまう失敗パターンから脱出するための「思考のメカニズム」を提示します。

スタートアップに対する根本的な「誤解」

 このところ、多くの上場企業がスタートアップとの連携を掲げるようになってきました。中期経営計画にも新規事業の創出を掲げるのが流行しており、そのための具体的な打ち手としてオープンイノベーションやスタートアップ投資を持ち出すことが増えているようです。

 この動きは当初は通信事業者や、金融業や放送業をはじめとする情報流通・処理を生業とする大企業で盛んでしたが、いわゆるDeepTech(ディープテック)など医療ヘルスケア以外のフィジカル領域でも、情報通信技術を活用した研究開発型スタートアップの可能性に注目が集まったことから、製造業や小売業を中心とする日本の典型的な上場企業(いわゆる経団連企業)までも、スタートアップ連携を一斉に唱え始めている感があります。

 スタートアップと連携したオープンイノベーションを経営戦略として指向する上場企業のすそ野が広がれば広がるほど、スタートアップがどのような生態なのか、これまで付き合ってきた中小企業と何が異なるのかといった、スタートアップと正しい関係を築くためのイロハの「イ」にあたる事柄を知らずに、スタートアップと対峙する上場企業が増えてきています。

 上場企業が典型的に陥る特に悲惨な失敗が、スタートアップを、これまで上場企業が付き合ってきた未上場の中小企業と同じであるとひどい勘違いをして、最初からボタンの掛け違いをしている事例です。このような勘違いは入口から間違っていますので、そのあとに何をどうやっても成功にたどり着くことはありません。初めから失敗が確約された取組みをしないためには、まず「スタートアップとは何なのか」について正確に知る必要があります。

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