このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

プロダクトマーケティングディレクターに話を聞く30年の強み、重み

PDFはデータの死に場所じゃない データ活用時代のAcrobatの価値

2023年07月24日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 先月30周年を迎えたAdobe AcrobatとPDFについて、アドビでDocument Cloud プロダクトマーケティングディレクターを務める山本 晶子氏に話を伺った。30年かけて培ってきた機能と実績だけでなく、データ活用を前提としたPDFの可能性、AIやAPIを充実させている最新のAcrobatの実力、そして北米でのDX・デジタル化の動向まで幅広く聞いた。

アドビ Document Cloud プロダクトマーケティングディレクター 山本 晶子氏

サブスクへの移行は至難の業だった でも追い風はあった

大谷:30周年おめでとうございます。まずは山本さんのプロフィールからお願いします。

山本:グローバルのDocument Cloud事業部のプロダクトマーケティングのうち、エンタープライズ領域を担当しています。プロダクトマネジメントやフィールド、サポートなどのメンバーと連携し、今後の製品の方向性、Go To Market戦略、ポジショニング、差別化要素などを固め、お客さまへのメッセージングやトレーニングなどに活かしています。

大谷:Acrobatの担当は長いのですか?

山本:はい。1999年に入社して、Adobe Premiereを担当し、2年後にAcrobatに移っています。当時は会社もまだ小さかったのですが、ECサイトやCRMを立ち上げるためのビジネスアーキテクトを担当しました。ほぼ2年間くらい、どういうEC事業者を選定すればいいのか、ビジネスでどのように情報が流れていくのかなどを学んでいたので、会社におけるビジネスドキュメント、ワークフロー、プロセスなどの理解は深まりました。このときの経験は今でも役に立っています。

その後、Acrobatのプロダクトマネジメントにも関わることになりました。当時のアドビはいわばPhotoshop Companyだったので、Acrobatの存在感はまだまだ低かった。特に日本は独特のニーズがある日本市場への対応も重要でした。そこで、プロダクトマネジメントとプロダクトマーケティングを兼ねる形で、ビジネスを拡げてきました。だから、デスクトップ版がクラウドサービスになり、箱売りがサブスクリプションになり、EchoSignを買収して、Adobe Acrobat Signとして製品に組み込むまでのこの10~15年くらいの変革は一通り経験してきました。

大谷:当事者から見て、その変革はどうでしたか? 以前、営業の方にインタビューしたときは、みなさんが口を揃えてサブスクリプションは大変でしたと言っていたのですが(笑)。(関連記事:パーペからサブスクへ アドビの営業が見たソフトウェア販売のリアル

山本:はい。すごく大変でした(笑)。アドビって、ソフトウェアベンダーの中では、かなり早い段階でサブスクリプションに進んでいます。ライバルからも大丈夫?と言われる中、今のトップであるシャンタヌが「大変だけど、やっていこう」というビジョンを持って全社一丸となって、サブスクリプションへ移行しました。

確かにAcrobatからすると、いとこにあたるCreative Cloudが先にサブスクリプションへの道に進んでいました。でも、「買ったんだから、自分のものだ」という抵抗感は北米でも大きかった。CDを持っているのに、毎月お支払いがあるという点を理解してもらうのは、かなりハードルが高かったです。

料金体系も、契約書も、支払い方法も、変わる。製品自体に関しても、買い切り版(パーペチュアル)とサブスク版の機能差がどんどん出てきます。そこらへんを理解してもらうために、お客さまやパートナーにひたすら説明していました。あっという間に10年です。でも、データセンターも国内にできましたし、みなさまが安心して利用できるようになってきているのではないでしょうか。

大谷:一方で、時代もどんどん変化したじゃないですか。追い風になったのは、なんでしょうか?

山本:テクノロジーの進化のスピードですね。昔、PCの切り替えって、5年に1回ですが、今では2~3年に1回です。だから、ハードウェアも、アプリケーションも、つねに最新のものを使うためには、やはりサブスクリプションのような形が最適なんだと思います。

シリコンバレーのほかのIT企業に話を聞くと、彼らから見てアドビはサブスクリプションを牽引したベンダーなんです。渦中にいた私たちはとにかく必死だったので、あまりピンと来ていないんですけど(笑)。

有償版か、Acrobat Readerかだけの選択肢だけじゃない

大谷:最新のAcrobatって、デスクトップ版のクラウド化、モバイル化を進めている状況だと思います。こちらの現状について教えてください。

山本:正直言って、デスクトップアプリがなくなることはないと思っています。Adobe Acrobat Signのようなクラウドネイティブなサービスは増えていますが、企業のお客さまに関しては、すべての文書をWebクライアントで作成・管理するというのはまだないのかなと思っています。

ただ、どのデバイスからも同じ作業ができるという環境は目指しています。Acrobatのフルセットをスマホやタブレットに持ってくることはないと思いますが、モバイルで作業の続きはできるようにしたい。手直しだったら、スマホからささっとできるし、コラボレーションだったらクラウドの方が絶対に使いやすい。ここらへんはMicrosoft Officeに志向が近いです。デスクトップ版とクラウド版は当分併存すると思います。

大谷:ある意味、適材適所なんですね。ライトな作業はモバイルで、ヘビーな作業はデスクトップでみたいな感じで。

山本:はい。ただ、デスクトップという概念を持っている層はどんどん年齢が高くなっており、若い世代はモバイルが前提になっているのも事実。そうなると、デスクトップとモバイルの逆転が起きるかもしれません。

大谷:Acrobatって歴史が長いこともあり、機能的にもリッチです。一方で、ここまでの機能は要らないというユーザーが多いのも事実です。それでも、無償のAcrobat Readerか、有償のAcrobatかという二者択一になるのでしょうか?

山本:それに関しては、有償版のAcrobatの機能をスポット利用してもらえるWebサービスを用意しています。無償版と有償版の中間に位置するイメージです。

私たちはAcrobat Readerを無償で提供しており、コメント機能なども利用できるようになっていますが、そこからAcrobatのWebサービスへのアップセルは非常に多い。これは日本だけではなく、グローバルでも同じです。まずは試してみて、使い心地が良ければ、有償サービスに移行する。こうしたPLG(Product Led Growth)という流れが加速しています。

あとはAdobe Expressですね。Adobe Expressはデザインツールではあるのですが、PDFタスクというAcrobatの機能が搭載されているので、ターゲットである企業内のコミュニケーターにAcrobatのよさを理解してもらいたいと思っています。

大谷:ユーザーにとっては同じAcrobatでも選択肢が増えるということですね。

山本:将来的には、Acrobat ReaderとAcrobat Standardの間には、今後中間に位置するサービスやプロダクトは出てくるかもしれません。ただ、官公庁や規制業界は文書の比較や墨消しなどの機能をヘビーに使うので、Acrobat Proで統一されるところがほとんどです。全世界で見ても、割合はStandardよりProのお客さまの方が多いんです。やはりProでしか実現できない機能も多いので。

大谷:とはいえ、Acrobat Proの1980円(年間プラン・月々払い)という価格は、素直に高いと思います。まして、競合となるPDF編集ツールは、世の中かなり出回っていますし、

山本:価格に関しては、やはりいくつかセグメントがあります。1本、2本をAdobe.comや量販店で購入される方もいますが、私たちで一番大きいのはB2B。数百人単位から数万単位という規模で購入されるお客さまにはやはりボリュームディスカウントが効きますので、ネットで掲載されている価格でご購入されているわけではないです。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

ピックアップ