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「GET IN THE RING OSAKA 2023 -Health Tech-」ピッチバトルレポート

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 2023年2月17日、大阪市が開設したイノベーション創出支援を行う組織「大阪イノベーションハブ」が主催のピッチイベント「GET IN THE RING OSAKA 2023 -Health Tech-」が開催された。「GET IN THE RING」は2012年にオランダで始まった起業8年以内のスタートアップによるピッチコンテストで、世界100ヵ国でその予選が開催されている。各国予選を勝ち抜いた企業は2023年夏に開催が予定されている世界大会への出場権が授与され、スタートアップにとっては飛躍への大きなチャンスを得ることができる。

「GET IN THE RING OSAKA」の特徴はそのピッチスタイルにある。ボクシングリングを模したステージで、2つの企業によるバトル形式でピッチが行われる。ステージにはボクシングにおけるレフェリーのようなリングマスターも登壇しており、自社紹介と5ラウンドに分割されたピッチの合間合間にリングマスターのコメントが入る。登壇者は自分のスピーチだけでなく、相手のスピーチも(今回はオンラインによる開催だが)目の前で聞くことになり、そのプレッシャーは通常のプレゼンの比ではない。

「GET IN THE RING OSAKA 2023」ピッチバトルフォーマット

「GET IN THE RING OSAKA 2023」は企業評価金額(投資額・純利益・成長率等を元に判定)によって3つの階級に分かれている。50万ユーロ以下の企業はライト級、50万ユーロから250万ユーロがミドル級、250万ユーロ以上がヘビー級にエントリーされる。今回はヘルステックをテーマとしており、バイオ、医療のDX化、メンタルヘルス・介護分野などのスタートアップによる応募が行われた。

 各企業からのエントリーは事前に審査され、数社がオンライン予選会に招かれる。そこで選ばれた各級2社だけが公開で行われる決勝バトルへと進むこととなる。

 決勝バトルに進んだ企業は2社ずつがモニターを通じてリングに登壇する。最初に1分間で自社の事業内容、サービスや製品について紹介を行い、続いて各30秒合計5ラウンドのピッチを行う。ピッチは各ラウンドごとに順番を交代し、目の前で相手企業の話を聞くことになる。

■Round 1 : Team(30秒)
チーム編成を紹介し、メンバーの多様なスキルや経験など、なぜこのチームが素晴らしく、成功できるかをアピールする。

■Round 2 : Achievements(30秒)
プロトタイプ、営業実績及び収益、カスタマー数、また他コンテストでの受賞歴など、今までに何を成し遂げたのかアピールする。ここで述べるのは「何を得たいか」ではなく、「何をすでに獲得したか」であることに注意が必要。

■Round 3 : Business model & Market(30秒)
ビジネモデルや市場について、どのようにして市場シェアや収益を獲得していか、自社の戦略を説明する。

■Round 4 : Financials & Proposition(30秒)
財務状態と、どれくらいの投資を求めているのか、資金以外に何が必要なのかについて説明する。3年後、5年後を見据えてのアピールも求められる。

■Round 5 : Freestyle(30秒)
最後に自分が特に伝えたいことを自由に熱量をもってアピールする。なぜ他社ではなく自分たちに投資をするべきなのかを投資家に納得させることが目的。

 登壇した2社によるピッチが終了すると、3人の審判員による質疑応答が行われる。そしてその後すぐに勝者が決まる。このスピード感が「GET IN THE RING OSAKA 2023」の真骨頂といえる。

 決勝バトルの審査はこれまでに数多くのスタートアップの発掘・育成に関わってきた3名の審判員によってなされる。

ブライアン・リム氏:Head of Startup Programs – APAC, Rainmaking Innovation Japan LLC.
井上 加奈子氏:NEXTBLUE 代表パートナー
橋本 遥氏:株式会社Convallaria 代表取締役

ブライアン・リム氏

井上 加奈子氏

橋本 遥氏

 司会進行を担当するリングマスターはブライアン・エス・ネイソン氏。ITコンサルタント、テレビ司会者、ラジオDJとしての顔を持ち、「GET IN THE RING OSAKA」の司会を7回連続で務めている。

ブライアン S ネイソン氏

ライト級ピッチバトル決勝

 ライト級ではSmart Tissues株式会社と大阪ヒートクール株式会社の2社が本選に進んだ。

 Smart Tissuesはバイオプリンティングに用いられる様々な技術開発を行っており、現在は世界初の抗菌性、汎用性のあるバイオインクの開発に取り組んでいる。バイオプリンティングとは、3Dプリンターのように印刷技術を用いて生体細胞を作成する技術で、ドナーによる臓器提供に依存している移植手術に利用できる臓器を作ることを最終目標としている。

 同社はメディカル、エレクトロニクス、新素材など多様なバックグラウンドを持つ4人のメンバーで創業した会社で、特に代表のDenise Zujur氏は医薬品業界でのR&D経験を持ち、この業界のニーズを熟知している。既にいくつかのアクセラレーションプログラムで賞に輝いており、非常に高い技術力を持つスタッフにより構成された組織を持っている。大学との共同開発により抗菌性を持つバイオインクの開発に成功し、その特許申請も進めている。

 Smart Tissuesの開発するバイオインクは通常のプリンターのインクと同様に、バイオプリンターの普及が進めば自然と収益も伸びていく。まずはバイオプリンターの製造販売業者に対してB2Bで販売をしていくが、アカデミアや医薬品業界に対しては自社での販売も検討していくとしている。

 バイオインクの製品化とそのR&D領域での販売のために100万ドルの資金調達を目指している。また同時に日本発のバイオプリンティングサービスを提供する施設を作り、バイオプリンティングの臨床応用への道筋を付けたいとしている。

 現在臓器移植を待つ患者は世界に数百万人いるとされており、バイオプリンティングによる臓器の生成が実用化されれば、多くの命が失われずに済むことになる。Smart Tissuesの技術は巨大なポテンシャルを秘めていると言える。

Smart Tissues株式会社CEO Denise Zujur氏

 大阪ヒートクールはかゆみ問題の解決に取り組んでいる。アレルギーやアトピーなどによって世界で3億人以上の人々が悩まされているかゆみは、それを抑えるために掻いてしまうと皮膚を傷つけてしまい、さらに症状を悪化させてしまう。そこで同社は皮膚に温冷刺激を同時に与えることにより、掻かずにかゆみを解消するデバイスの開発を行っている。

 同社は熱設計や回路設計など、異なる専門領域を持つ5人の大学教授によって設立された。ハプティクス技術(触覚技術)を応用してかゆみを始めとする様々なペインの解決を目指している。

 かゆみの解消を行うためのプロトタイプデバイスの開発を進めており、既に基礎技術は確立できた。最新のプロトタイプを1000人以上の被験者に試験利用してもらったところ、非常に公表であり、製品ができ次第購入したいと言っている患者も100人以上いる。量産化に向けてまず100万ドルの資金調達を行いたいとしている。

 皮膚病の市場は140億ドルの市場があるとされており、同社はその中でもかゆみ除去機能を持つデバイスの市場は2億ドルあるとみている。また、機器の販売だけでなく、製品をカスタマイズするためのアプリ開発も行い、そこからコンスタントな収益を上げるとともに、顧客との継続的なコネクションを獲得する。

 かゆみはグローバルな課題であり、試験利用の際には多くの患者から実用化に対する強い期待が感じられた。大阪ヒートクールの製品だけでは皮膚病を治すことはできないが、世界の患者の精神の安静に貢献したいとしている。

大阪ヒートクール株式会社 代表取締役 伊庭野 健造氏

 以上の2社によるピッチバトルの勝者はSmart Tissues株式会社となった。審査員からは新薬や化粧品の開発においても動物実験が忌避される傾向が出てきており、そういった面からも非常に注目される技術であることがコメントとして挙げられていた。

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