成功の秘訣は「トップダウン」「情シスと業務現場の連携」「ベンダーのサポート」

中小企業のRPA活用ポイントは「短時間業務の自動化」の積み重ね

文●大谷イビサ 編集●ASCII

提供: ユーザックシステム

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 昨年11月、ユーザックシステムは同社のRPAで業務の自動化を進めている昭和電機を招いた「RPA課題解決セミナー」を開催。経営管理部 ICTシステムグループ 栗山 隆史氏はユーザー目線でRPA導入のメリットや導入の勘所を説明した。

昭和電機 経営管理部 ICTシステムグループ 栗山 隆史氏

セミナーに参加した管理部長の一声が導入のきっかけ

 1959年創業の昭和電機は、電動送風機や集塵機、ミストレーザー(送風によって油煙をとる機器)、健康リハビリ機器などを手がける製造業だ。大阪(大阪府大東市)、伊賀(三重県伊賀市)、滋賀(滋賀県高島市)の3つに工場を持つ。SDGsへの取り組みとしては、目標3の「保健」(すべての人に健康と福祉を)、目標8の「経済成長と雇用」(働きがいも経済成長も)に特にフォーカスしており、手当や休暇の充実、健康推進などを積極的に行なっている。

昭和電機 大阪本社工場と製品紹介

 今回登壇した昭和電機 経営管理部 ICTシステムグループの栗山隆史氏は、1980年に昭和電機に入社以来、長らく営業畑を歩んできたが、1996年に全社統合システムの開発プロジェクトのリーダーを務め、2016年にはその全社システムの更新を担当してきた。「けっこういろいろな部署を渡り歩いてきたのが、RPAの展開に役立っているのかなと思っています」と栗山氏はコメントする。

 現時点で同社が利用しているRPAツールは、NTTデータの「WinActor」とユーザックシステムの「Autoブラウザ名人(現:Autoジョブ名人)」「Autoメール名人」の3つ。専任担当は2名おり、週に45時間程度を開発や維持管理の業務に当てているという。

 同社がRPA導入を検討し始めたのは、今から約5年前。管理部長がセミナーを聞いてきた翌日に「RPAをやるぞ!」と言いだしたのがきっかけ。情報システム部のメンバーはRPAを知らなかったので、ネットで情報収集し始めたという。ユーザックシステムに関しては、工場の送り状作成の効率化のため、「送り状名人」を導入することになっていたため、つきあいがあったという。

基幹システムとの相性や自社での開発を前提にRPAを選定

 同社がRPAを導入する目的として栗山氏が挙げたのが、労働時間の削減だ。定時退社によって社員の健康を維持しつつ、法令を遵守し、残業のコストも抑制するというもの。その他、定型作業のロボット化によるミスの防止、業務手順の見える化と改善、そして人的作業の見直しによる新たな業務の創造などが目的として挙げられた。

 とはいえ、当時はまだRPAがなにかもわからない状態だったため、正直絵に描いた餅であり、カタログを見ながら企画書に書いていただけに過ぎなかったという。セミナーに参加すれど、英語が多くて四苦八苦。「PoCってなんやねん」(栗山氏)というところから始め、現状や課題の確認、実証実験、実行可能性の検討のフェーズでRPA導入を進めていくことにした。

 大事なのはまさにそのPoCだった。コストはかかるが、開発費用の一部としてPoCは実施すべきだという。「1~2つの業務を元にベンダーに作ってもらい、動かすことで 横展開がうまくいくはずだと考えた」と栗山氏は振り返る。実際にPoCで作った結果、実行可能性の検証フェーズでは当初導入を予定していた製品が候補から漏れ、WinActorとAutoブラウザ名人、Autoメール名人になったという。

 ユーザックシステムのRPAを採用した理由の1つがRPAの安定性だ。RPAはユーザーのGUI操作を自動実行するプログラムであるため、操作をどのように指定するかが鍵になる。画面や座標で認識する場合、表示位置の変化やディスプレイの違いだけで、誤動作が起こりやすい。画面のポイント&クリックではなく、キーボード操作を実行するという方法もあるが、画面表示とキー操作のタイミングがずれると誤操作になる。その点、ユーザックシステムのAutoブラウザ名人はHTMLタグやUIタグを指定して動作するため、確実な項目指定が可能になるという。

 前述した通り、昭和電機ではサブスクリプション前提で1年間やってみて、ダメなら変えると決め、2社のRPAを導入した。費用、操作性、教育、拡張性、安定動作、エラー処理、情報の取得性、Excel対応を比較し、Autoブラウザ名人とAutoメール名人、WinActorを選定した。Autoブラウザ名人を採用したのは、Webブラウザベースで動作する同社の基幹システムと相性がよかったからという。

情シスが現場部門にヒアリングし、いっしょに仕上げる

 2017年9月に導入開始し、まずは週報の集計と再発信、勤怠の未入力者への注意喚起メールをRPA化した。これらの作業には、Excelやブラウザの操作、表作成、ファイル操作などが含まれているため、RPA開発の参考になると考え、ユーザックシステムに開発を依頼したという。その後、11月には各部署にヒアリングをかけ、全部で46もの業務を抽出。そして、2018年9月には23業務のロボット化が実現している。

 昭和電機のRPA開発工程としては、まず情報システム部が現場にPCを使った業務のヒアリングを行ない、RPA制作の難易度と導入後の効果を検討し、開発の優先順を付ける。次に情報の入力であるインプットと操作後のアウトプットを考える。「アウトプットとしては、ファイルとして置いたり、メールで送ったり。社長からペーパーレス化を強く指示をされていることもあって、基本的に印刷はない。デジタルをアナログにするのはナンセンスなので、ほぼないです」と栗山氏は説明する。

 こうした過程を経て、情シスとRPAのベンダーといっしょにロボット(スクリプト)を作っていく。「このときRPAベンダーがどこまでサポートしてくれるかによってできることが変わってくる」とのこと。こうして作ったロボットのアウトプットは現場担当者に評価してもらい、改善点を聞き取って、修正ししていく。スクリプトの約8割を情シスで作ってみて、あとは現場を巻き込んで完成まで仕上げていくというわけだ。

 昭和電機では、稼働中のRPAの画面をユーザーに見てもらっているという。「ユーザーに見せることで、『うちのこの業務はRPA化できるのでは?』と思ってもらえる。RPA化できるのかと不安がっていた上層部も、画面を見せることで安心してくれました」(栗山氏)。

 栗山氏は、RPA導入可能な業務の洗い出し例を披露した。業務の内容や人手でかかる時間、RPAで実現できるパーセンテージ、そして削減できる時間をスプレッドシートにまとめた。営業部、総務・管理部、生産管理などRPA化した業務は57にのぼり、人手を削減できた時間の総計は487時間31分/月におよんでいる。

自動化やDXを阻むアナログな受注と顧客の要望

 これらRPA化した業務を分析すると、約1/4が「レポート作成」、約1/4が「異常な状態のアラーム発信」になっており、続いて「定期的に情報を通知」「情報を照合する」「台帳の作成」などとなっている。ただし、基幹システムへの入力業務はまだ1件もない。「私たちの受注形態が、FAXや電話など全部アナログなんです。メールで来ることもありますが、ものすごくあいまいなメール。一つひとつお客さまの対応が必要な部分になるので、ここはRPA化できていない」と説明した。しかし、今後EDIや電帳法への対応が進むとともに、こうしたアナログな業務も少なくなっているとみている。

 続いてRPAで置き換えた作業時間のグラフを取り上げた。意外なことに、5分以下の業務が全体の32%を占めており、10分以下が12%、30分以下が25%と短い作業時間の業務を自動化している。大手の保険・金融機関のように終日行なっている同一業務をRPA化しているわけではなく、一人ひとりが行なっている細かい業務をRPA化しているというのが中小企業らしいと言える。

 栗山氏は、自動化した業務の事例をいくつか披露した。例えば、基幹システムから納期回答一覧表を出力し、お客さまや担当者ごとに回答表を1日約600件分作ってくれる納期回答ロボット、営業活動で不足しているデータを洗い出して担当者に通知してくれる出力ロボットのほか、シフト予定と勤怠システムの実績を照合するアルバイトの勤怠確認ロボットもある。

昭和電機でRPA化した営業部の業務

 さらに栗山氏は「RPA化した業務で一番削減時間が多い」という、出荷業務の自動化について紹介した。出荷の際、納品書は封筒に入れ、各運送会社の送り状に添付し、その送り状をスキャンして各営業所にFAXしていた。ここで使っていたのが、ユーザックシステムの送り状名人だ。受注データを取り込み、送り状ナンバーを自動採番し、送り状を作っていたという。

 この送り状作成とFAX送付業務にRPA(Autoメール名人)を組み合わせ、効率化を実現した。Autoメール名人は、送り状ナンバーを含む納品書をPDF化し、営業担当者にメールで送り、フォルダにも登録するという、一連の業務を自動化できる。営業担当者はそのデータを取得し、顧客が要望する方法で送付するということだ。FAXでの送付については、NTTコミュニケーションズの「BizFAX」というサービスとRPAを組み合わせて効率化。出荷時に、迅速に納品情報を届けることができるので、顧客や販売代理店からの問い合わせは、ほぼなくなったという。

「定石」ばかりではない RPAに着手してわかったこと

 同社ではRPAを推進することで単純労働を削減し、空いた時間で今まで手つかずだった『企業競争力強化(DX)につながる業務』を実施できるようになったという。

 栗山氏は、「個人の意見」「諸説あります」と断った上で、RPAに着手してわかったことを説明。「トップダウンでの推進が必要」「身の丈に合ったRPAソフトから」「情報システム部門から現場にヒアリング」「短時間の作業も、ちりと積もれば山となる」「業務改善よりも今の作業をロボット化」「100%のロボット化を目指さない」などを挙げた。

 特にフォーカスしたのは、「短時間の作業も、ちりと積もれば山となる」というポイントだ。前述したように、昭和電機でRPA化した業務の中には5~10分のものも多いが、10の営業所で同じ作業をやっていると考えれば、効率化の余地は大きい。短時間の業務だと現場部門からは「わざわざRPAにしなくとも」という反応も出てくるが、トップダウンで推進すれば、現場も協力してくれるようになるという。

 また、「業務改善よりも今の作業をロボット化」というポイントについては「業務改善をしてからという話はよく聞くが、改善している時間がない。改善活動は今まで山ほどしているので、現場からは『もうええわ』と言われる。だったら、業務をそのままRPAやらせればいい。人で10分かかるところ、RPAで1時間かかったとしても、その業務からは手が離れる」と栗山氏は語る。

 さらに「RPA前提で新たな業務設計をする」「RPAは見えない効率化を生む」「RPAは止まることを前提に」などもあわせて指摘。最後に必須項目として強調したのは「サポート体制のよいところを選ぶ」というところ。「RPAを作って、うまく動かないこともでてくる。こういうときに、すぐ聞けて、すぐ返事がくるベンダーでないと、RPAを作るのは難しい。『この業務をRPA化したい』と気軽に相談できるところがよい」と栗山氏は語る。

 今後の展望として、EDIシステムへの販売データの転送、会計システムへの伝票データの転送、インボイス制度で必要な適格請求書発行事業者の登録番号チェックなどをRPAで進め、DXの波に乗っていきたい、と締めくくった。

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