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再エネで要注目。特許から見るリソースアグリゲーションの動向

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国内特許の紹介 2:新たな技術動向

 近年、東日本大震災における電力需給の逼迫を契機に、電力の需給バランスを意識したエネルギー供給が強く認識されています。このような需給バランスを意識したエネルギー供給として、例えば再生可能エネルギーを分散型電源とした、小規模分散型の電力網(マイクログリッド)の構築が注目を集めています。

 ここでは、リソースアグリゲーション関連の特許のうち、新たな技術動向であるマイクログリッド関連の特許について注目します。マイクログリッド関連の出願として、以下の検索を行いました。

検索システム:CyberPatentDesk(国内)
調査対象文献:公報種別、公開特許、公表特許、再公表、早期公表、早期再公表、特許公報、公告特許、早期登録情報
検索式:
[1]~[4] 同上
[5] 全文 [分散*電源]W3+[分散*エネルギ]W3+[小規模*電力]W3
[6] 全文 マイクログリッド+P2P+PtoP+PeertoPeer
論理式 T=1 *2 *(3 +4)*(5+6)

検索結果:554件

 今回の分析対象のうち、マイクログリッド関連の出願件数の推移を図8に示します。なお、図8において、グレーのグラフは前述したリソースアグリゲーション関連の出願件数に該当します。

図8 マイクログリッド関連の出願件数の推移

 図8に示すように、マイクログリッド関連の出願件数は、特に2011年以降から、全体として右肩上がりに増加していることが確認できます。また直近の10年間において、リソースアグリゲーション関連の出願件数に占める、マイクログリッド関連の出願件数の割合が増加していることが確認できます(2011年は18%→2020年は51%)。今後、再生可能エネルギーが、マイクログリッドを利用する形で普及し、個人間での電力取引が拡大する可能性を示唆しているものと考えられます。

 次に、マイクログリッド関連の特許について紹介します。マイクログリッドでは、P2P電力取引と呼ばれる需要家対需要家の取引が行われます。

 従来は電力会社が需要家に一方的に電気を供給していたのに対し、P2P電力取引では再生可能エネルギーの発電設備や蓄電池などの分散型電源を所有している個人(法人)が、別の需要家に電力を供給します。このようなP2P電力取引は、以下のメリットが期待されています。

<P2P電力取引に期待されているメリット>
・大型インフラ設備が不要になることでの社会コストの削減
・需要家の選択肢の拡大による競争力の向上
・自由競争の向上による取引参加者の経済的メリット
・再生可能エネルギー発電による地域コミニティでのエネルギーの自給自足の実現

 関連して、ここからP2P電力取引に関連する特許を3つ紹介します。

④特許第6829242号

発明の名称 電力取引システム
出願日 2018/12/28
出願人 株式会社エナリス

特許請求の範囲(メインクレーム)
電力の消費単位ごとに電力を制御及び管理する複数のユーザーシステムと、電力の売買を仲介する仲介サーバーと、電力取引トークンの発行及び消却に関するデータの少なくとも一部を記憶する保証システムとを通信ネットワークにより接続した電力取引システムであって、ユーザーシステムは、各ユーザーが各電力使用期間中に発電又は消費した電力量を測定して実績データを生成する実績データ生成部を備え、仲介サーバーは、実績データに基づいて、電力使用期間と電力量と対価量とを含む電力取引トークンを発行するトークン発行部と、実績データに基づいて、電力取引トークンを消却するトークン消却部と、保証システムと連携して、電力取引トークンの発行及び消却に関するデータを記録する連携部とを備え、保証システムは、ユーザーシステム及び仲介サーバーが生成したデータの少なくとも一部を記憶する複数のノードを備え、ノードは、記憶したデータを所定のタイミングで集約してブロック化し、該ブロックを用いてブロックチェーンを形成し、該ブロックチェーンを複数のノードで共有して分散台帳として記憶することを特徴とする電力取引システム。

課題・目的
多様化した電力価値が混在する電力取引市場において、電力の価値を適正に評価しつつ自由に供給元と需要先を紐付けて課金や売買を行える電力取引システムを提供する。

図面

(解説)
 分散型電源では、いつ、どこで、誰が、どのような発電方式で生成したかによって、発電コストや環境に対する負担が異なります。このため、蓄電による時間差や複雑な送電経路、電力の売買取引などによって、電力取引市場では電力の価値は多様化しそれが混在する状態となっており、その価値を適正に評価して課金や売買を行える仕組みの構築が必要となっています。この発明では、電力の発電時期や場所、発電方式に基づいて各種トークンを発行し、そのトークンを用いて、電力の売買取引や、対価の精算を行うことで、環境価値を考慮した取引、調整力を考慮した取引など、今後多様化する電力取引において、各取引単位で付加価値をトークンとして蓄積し配分することができます。
 完全自由化による多様化する電力取引を想定した発明と考えられます。

⑤特許第6797450号

発明の名称 電力取引支援システム、電力取引支援方法及びプログラム
出願日 2020/06/04
出願人 株式会社UPDATER

特許請求の範囲(メインクレーム)
複数の発電事業所と複数の需要者との間の電力取引を支援するシステムであって、前記発電事業所のそれぞれについて、前記発電事業所で発電される電力のうち所定の電力ネットワークに送電された供給量を取得する供給量取得部と、ブロックチェーンにおける前記発電事業所の第1アカウントに前記供給量に応じたトークンを発行するトークン発行部と、前記需要者のそれぞれについて、前記電力ネットワークから受電した需要量を取得する需要量取得部と、前記発電事業所及び前記需要者の組ごとに前記発電事業所から前記需要者に送られたとみなす送電量を決定する送電量決定部と、前記発電事業所ごとに、前記発電事業所と前記組となる複数の前記需要者の第2アカウントのそれぞれを送付先とし、前記第1アカウントを送付元とした、前記第1アカウントから前記第2アカウントのそれぞれに前記需要者ごとの前記送電量に応じた前記トークンの量を移転させる、前記ブロックチェーンに対する単独のトランザクションを発行するトランザクション発行部と、を備えることを特徴とする電力取引支援システム。

課題・目的
再生可能エネルギー電力のトレーサビリティを担保する電力取引支援システム、電力取引支援方法及びプログラムを提供する。

図面

(解説)
 複数の発電事業所と複数のユーザーをブロックチェーンのネットワークでつなぎ、発電事業者の発電量に応じてトークンを発行しています。ユーザーの電力の要求量に応じて発電事業者からユーザーにトークンを所定量、移動させています。これにより、トレーサビリティ(電源特定)を実現しています。

⑥特許第6803596号

発明の名称 電力取引システム、電力取引方法および電力取引プログラム
出願日 2020/10/15
出願人 デジタルグリッド株式会社

特許請求の範囲(メインクレーム)
拠点間の電力需給バランスを調整する電力取引システムであって、所定時刻までの全拠点の電力実消費量を取得する電力実消費量取得手段と、全拠点の電力実消費量に基づいて所定時間後の全拠点の電力需要予測量を算出する電力需要予測量算出手段と、所定の拠点における電力需要予測量と予め策定した所定の拠点における電力需要計画量とを比較する電力需給量比較手段と、該電力需給量比較手段による比較結果に基づいて各拠点の電力不足予測量と電力余剰予測量とを全拠点において調整して各拠点の電力需要計画量を全拠点において改新する電力需給量調整手段とを備えていることを特徴とする電力取引システム。

課題・目的
電源を特定したP2P取引における電力需給バランスの精度を向上させる電力取引システム、電力取引方法および電力取引プログラムを提供する。

図面

(解説)
 電源を特定したP2P取引における電力需給バランスの精度を向上するために、予め策定された電力需要計画量ではなく、電力実消費量に基づいて算出された直近の電力需要予測量によって拠点間の電力需給バランスを調整しています。

 こちらはブロックチェーン技術の適用については任意の構成となっています。

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