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セールスフォース・ドットコムが日本で初めてハッカソン主催、選抜6チームが提案を競う

「Salesforceを使って保育園の課題解決を」ハッカソン開催

2022年01月05日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 「Salesforceで保育園の課題を解決してください」。こんなお題にチームで取り組むハッカソンが、2021年12月11日、12日に開催された。主催はセールスフォース・ドットコムで、賞金総額は100万円。同社が日本でハッカソンを開催するのはこれが初めてだという。はたしてどのようなソリューションが生まれたのだろうか?

「Salesforceハッカソン2021」の告知ページ(Salesforce Developer Japan Blogより)

保育園の課題解決を「アイデア/技術/プレゼンテーション/楽しさ」で競う

 今回開催されたのは「Salesforceハッカソン2021」。そのコンセプトは「楽しむ/学ぶ/繋がる/還元する」とセールスフォースらしいもの。参加各チームが取り組む課題は1日目の8時に発表され、開会式を経て10時からスタートとなった。1日目は10~18時、2日目は9~15時の合計29時間の中で、アプリケーション開発とプレゼンテーションの準備を行うことが要求された。

 冒頭で触れたとおり、今回のお題は「保育園の課題」だ。参加者は架空の保育園“クラウド保育園”事務員として、園長から命じられた「Salesforceを使うとどんなこと(課題解決)ができるのか、調べて見せてほしい」というミッションに挑む。ちなみに「園長は売上を伸ばすことには興味がなく、予算も気にしなくてよい」という設定であり、あくまでもソリューションの内容が評価対象となる。

 クラウド保育園が抱える課題を知るヒントとして、関係者6名(園長、保育士、栄養士、看護師、保護者、園児)がそれぞれの立場で語ったインタビューテキストも渡された。たとえば保護者は「行事の出欠確認、毎年行われる家庭環境や経済状況の調査申告など、あらゆる申請や連絡が紙ベースである」ことを、保育士は「登園ラッシュの時間帯には保護者と会話ができず、必要な情報を受け取れないことがある」ことを課題だと感じている。このインタビューテキストに加えて、保育園に関する各種基本情報(保育士の一日、年間行事、年齢別クラス人数と保育士数、施設の見取り図)も提供された。

 アプリケーションの開発環境は、Salesforceの「Developer Edition」または「Developer Editon with Tableau CRM」が指定された。またアプリケーションは「Lightning Experience UI」および/または「Experience Cloud」で動作することが条件となった。開発をノーコードで進めるか、コーディングありで進めるかは参加者自身で判断してよい。

 今回のハッカソンには30チーム近くの応募があり、そこから事前選考を通過した6チームとエキシビション参加1チームの合計7チームが参加することとなった。所属企業も役割もバラバラという「チーム寄せ鍋」、ADX Consultingのコンサルエンジニアで構成される「ADX Consulting」、NTTデータでSalesforce経験年数の浅いメンバーが集まった「Raccoooon!」、ロート製薬のシステム管理者と同社システムを構築するSIベンダーメンバーによる「ロートの愉快な仲間たち」、富士通Salesforce部門の上級者メンバーで構成される「FiSH ~FujItsuSalesforceHackathon~」、池袋を拠点とするセールスフォース大好きチーム「池袋ベアリスタ」、そしてセールスフォース社員によるエキシビション参加チーム「けんちゃなよ~」という構成だ。

 成果発表のプレゼンテーションは、各チーム持ち時間10分、質疑応答3分という構成で行われ、審査を経て「最優秀賞」「テクニカル賞」「アイデア賞」各1チームが発表された。賞金は最優秀賞が60万円、テクニカル賞は30万円、アイデア賞は10万円。審査員はRECEPTIONIST 代表取締役CEOの橋本真里子氏、セールスフォース・ドットコム CTOの及川喜之氏、同社 カスタマーサクセス統括本部 本部長 専務執行役員 宮田要氏の3名。

 審査では「アイデア/技術/プレゼンテーション/楽しさ」という4項目に15点ずつ配点され、審査員による評点の合計が競われた。プレゼンテーションを見ると、6チームとも「紙ベースの業務をデジタル化する」という点は共通していた。また、プレゼンの中で園長を演じたり園児を演じたりと、ちょっとした寸劇を挟んだチームも多かったのは、ハッカソンのコンセプトや審査基準に「楽しむこと」を加えた成果だろう。

最優秀賞・FiSH:関係者全員がハッピーになれるアプリを提案

 6チームの中で最優秀賞に選ばれたのは、「つながる保育園“いくこね!” 」というアプリを開発したFiSHチームだ。

最優秀賞を獲得したFiSHチーム「いくこね!」のプレゼンテーション。課題とソリューションを「Before/After」で示した

 このアプリを使えば、保護者は登園前に、体温やお迎え時間、連絡事項などを連絡帳(Experience Cloudで作成)に登録でき、保育士とのやり取りを効率化できる。また、保育園到着後にQRコードリーダー(LWC:Lightning Webコンポーネントのべータ版で開発)を使って登園を登録するとデジタルバッヂがもらえるなど、保育園の業務効率改善と同時に園児がハッピーになる仕掛けも用意した。園児がデジタルバッヂに飽きないように、ときどき“レアキャラ”が出るなどの工夫もあるという。

 一方、保育士向けの画面については日報作成などのデモを見せた。忙しい保育士がストレスなく使えるように、園児カルテは細かい文字を使わず一目でわかるUIになるよう心がけたそうだ(Omnistudioで開発)。

 FiSHチームでは「保育園内の事務作業効率化を進めることで、保育士を魅力的な職業にしたい」と語って、プレゼンテーションを締めくくった。

「いくこね!」システムの全体構成イメージ

 審査員の宮田氏は評価ポイントについて「(園長、保育士、児童、保護者と)全体を見た視野の広いプレゼンだった」と語った。中でも保育士にフォーカスした点を賞賛し、「(デジタルバッヂにより)園児が行きたくなり、保育士もハッピーになる。素晴らしい発表だった」とコメントした。

 FiSHのメンバーは、「(Salesforceの)ハッカソンが初開催されると聞き、狙うなら“初代チャンピオン”だと思った」と参加動機を明かす。一方で、「時間に追われながら開発した。Experience CloudでLWCを使ったことがなく“ぶっつけ本番”でやったが、結果として技術力も上げることができた」というメンバーも。賞金60万円の使い道は「A5ランク和牛を食べにいく」だという。

テクニカル賞・ロートの愉快な仲間たち:園児の位置情報

 テクニカル賞には、ロートの愉快な仲間たちチームが選ばれた。テーマは「保育園のバーチャル運営構想」。Experience Cloudを使い連絡帳のやり取りをデジタル化することで透明性のあるサービス向上を、またService Cloudで働き方改革を進めるという。

 園児にデバイスを装着してもらうことで位置情報を取得。プレゼン中、実際に黄色い帽子をかぶって園児を演じたメンバーが移動すると、その情報が園内の見取り図上に表示されるという様子も見せた。また園児が登園すると自動で記録が生成され、保育士や調理師など関係者がその情報を見ることができる。保育士は「昼寝をした」「食事を食べた」といった記録をスマートフォンから入力できるが、こだわったのはその操作性だという。ワンタップ入力、一斉入力も可能にした。

ロートの愉快な仲間たちチーム。デモではメンバーが実際に園児役を演じ、位置情報を取得する様子を見せた

 さらに園長向けにはダッシュボードを用意し、保育士の残業時間、体調不良の園児数の推移など、園の重要な情報を把握できるダッシュボードを用意した。

 審査員からは、GPSによる位置情報について技術的な補完の余地があること、プライバシーの観点から実現にはハードルが高いことなどの意見も上がったが、便利さや効率性の面では高く評価されたようだ。タップ数の少なさも「重要なポイント」と高得点につながったようだ。

ロートの愉快な仲間たちのソリューション図

アイデア賞・池袋ベアリスタ:具体的なKPIを定めて解決策を提示

 アイデア賞を受賞したのは池袋ベアリスタチームだ。フォーカスしたのは「外出が多い園長との連絡」「登園ラッシュ時に保護者と保育士がやりとりに時間をかけられない」「出欠数や給食不足数の集計など長時間に及ぶデスクワーク」という3つの課題だという。

 Salesforceを利用することで、園長が園で起きているトラブルを一覧形式で把握し、職員の判断を承認するなどの指示ができるようにした。また保護者と保育士とのやり取りにはデジタル連絡帳を用いることで、双方で隙間時間を使って相談事項の入力や回答ができるようにした。さらにやり取りの記録だけでなく、園児の成長の記録も残すことができるようになっている。デスクワークの削減では、保護者が連絡帳に入力した内容をそのまま活用して自動集計を行うことで、集計業務をほぼゼロにした。

現在の課題に対するソリューションをわかりやすく提示した池袋ベアリスタチーム

 このソリューションにより改善できるKPIとしては、トラブル件数、平均対応時間、保育への満足度、職員の残業時間など。これにより「園児に向き合うことに時間を割くことができる」と訴求した。

 審査員からは、権限設定に高い評価が出た。また、プレゼンでKPIに触れている点も好評価につながったようだ。橋本氏は「自分たちが園長であるというスタンスの考察が入っていた」と評価した。

園児の成長の様子もわかる

* * *

 数年前まで子供が保育園に通っていた筆者としては、「あのときこういう仕組みがあれば!」と思わせるアイデアも多数あり、社会課題の解決に貢献したいと考えるセールスフォースならではのハッカソンだったと感じた。

 なお、各チームによるプレゼンテーションの模様はオンデマンド視聴できるようになっている(下記関連サイト「結果発表」ページを参照)。また、次回の開催も検討中としており、今から楽しみだ。

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