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「完全仮想化されたIPv6対応ネットワークで5G市場を牽引する」

楽天モバイル、シスコのSRv6とRouted Optical Networkingで5G基盤強化

2021年07月19日 07時00分更新

文● 谷崎朋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 5G(第5世代移動通信システム)普及に向け、国内の移動通信事業者における取り組みが活発化する中で、世界初の完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク「Rakuten Communications Platform(RCP)」を構築、運用する楽天モバイルが、5Gのビジネス利用における市場競争力を高めるべく、シスコシステムズのソリューションを導入してネットワークの本格的な強化に乗り出した。

 「2018年に米シスコ本社でRCPの構想を明かしたとき、みんなにぽかんとした顔をされた」。楽天モバイル 代表取締役副社長 兼 CTOのタレック・アミン氏は、当時をこのように振り返る。5Gのビジネス利用で企業ニーズに応えるための鍵は、コアネットワークを含むプラットフォーム全体の仮想化だ。仮想化することで、拡張性や弾力性に優れた、オープンかつフラットなネットワーク基盤が実現する。

楽天モバイル 代表取締役副社長 兼 CTO および 楽天グループ 副社長執行役員 CTOのタレック・アミン (Tareq Amin) 氏

 2021年6月25日に楽天モバイルが導入を発表したのは、シスコのSegment Routing over IPv6(SRv6)ソリューションと「Cisco Routed Optical Networking」だ。

 SRv6は、IPv6ネットワーク上のセグメントルーティング技術である。ルーター/ノードと隣接関係をセグメントと定義し、ステート情報をパケットのヘッダに書き込むことで、セグメント内で効率的な経路を選びながら転送できるようにする仕組みである。さらにこのヘッダには、ファンクション情報も付加できる。たとえば、ネットワークスライシングをファンクションとして追加すれば、「大容量通信」や「多数同時接続」などの要求別のサービスを重畳して提供できるようになる。しかもIPv6に統合できることで、IoTからモバイル端末、データセンターのサーバーまで総合管理が可能だ。

 楽天モバイルは、プライベート5GやオープンRANを見据えて、基地局などの無線アクセスネットワークをサポートするべく、中央データセンターを主軸に約50の地域データセンター、4200超のエッジロケーションを展開している。

 「この規模感で、クラウドネイティブな完全仮想化されたIPv6対応アーキテクチャが構築できるのは、シスコとパートナーシップを組めたから」とアミン氏は語る。特にIPv6に完全対応することで、複雑性が排除されたフラットなネットワークが完成し、運用効率も高まると期待を寄せる。

通信インフラの経済性を変えるCisco Routed Optical Networking

 もうひとつのCisco Routed Optical Networkingは、IPと光伝送ネットワークを融合する、シスコが提唱する概念だ。

 「現在、世界で30億人以上がインターネットを利用できないか、十分な通信が確保できていない。原因のひとつは、通信事業者の収益性だ。一般的に通信設備は高額なものである。その結果、利用者が多い都市部などの人口密集地であれば通信インフラを整備しても利益は期待できるが、人口過疎地はそうはいかないのでインフラ敷設に至らない。シスコでもこの課題を重視しており、コスト感を何とかできるか取り組んできた」。シスコのジョナサン・ダビッドソン氏は、同概念が生まれた背景をこう説明する。

シスコ マススケール インフラストラクチャ グループ担当 EVP 兼 GMのジョナサン・ダビッドソン (Jonathan Davidson)氏

 そこでシスコが着手したのは、インターネットのアーキテクチャに対する抜本的な改革だった。

 「インターネットのアーキテクチャは30年以上変わっていない。非常に複雑で、サイロ化されたテクノロジーが複数レイヤーに分かれて、つなぎ合わされているような状態。たとえば、IP網と光網との間で電気信号と光パス信号をうまくやり取りするには、IPルーティングとOTN(光トランスポートネットワーク)、オプティカル(ROADM)の階層間を多数の機器でつながないといけない。これを再構成するのが、Cisco Routed Optical Networkingの考え方だ」(ダビッドソン氏)

 これに対応するため、シスコはプラガブルな統合型SDNトランスポートを設計。ルーターに直接実装することで、これまで必要だった中間の機器を一気に取り除くことができ、複数ネットワークを共通インフラに集約可能になる。これにより、CapExは最大35%削減、OpExは57%削減、TCOは最大46%削減可能となり、「インターネットの経済性を大きく変える」とダビッドソン氏は述べる。

インターネットのアーキテクチャから複雑性を排除する

Cisco Routed Optical Networkingの実現によりCapEx、OpEx、TCOを大幅に削減できるとする

 もうひとつ、シスコが取り組んだのはネットワークシリコンアーキテクチャの開発だ。同社は2019年にネットワーキングシリコンアーキテクチャ「Silicon One」を発表。5G時代のスピードやキャパシティに対応したIPルーティング特化のプログラマブルな同アーキテクチャは今年、Webスケールのスイッチング市場にも対応したネットワーキングチップに進化した。

 「移動通信事業者のネットワーク設備投資の7割は、ワイヤレス通信関連。専用ハードウェアのため世代交代するにも多額の予算がかかっている。そんなものだと誰もが疑わず、長年手を付けてこなかった」。楽天モバイルのアミン氏はそう述べて、ハードウェアとソフトウェアを分離して仮想的に相互運用性を確保する5Gコアネットワークの実現には、既存の概念を取り払わなければならないと指摘した。スピードとアジリティを持って革新し続ける文化がまだ根付かない移動通信業界において、5Gがパラダイムシフトになることを期待しているという。

 アミン氏はシスコの両ソリューションを導入することで、「既存のIPネットワークを世界クラスの5Gネットワーク実現のプラットフォームへと引き上げて、やりたいことを何でも叶えられる自信を与えてくれる」と評価する。

 エンタープライズIT領域に強いシスコにとっても、ダビッドソン氏は「プライベート5Gを企業が敷設する場合、大半のケースでは移動通信事業者を介することになると思う。その意味で、楽天モバイルのような事業者と連携できることは大きな意味がある」と述べている。

※お詫びと訂正:掲載当初、楽天モバイルの展開規模について「中央データセンターを主軸に58の地域データセンター」としておりましたが、上記のとおり「約50の地域データセンター」が正確な数字となります。お詫びのうえ訂正いたします。(2021年7月19日 18:00 編集部)

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