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ダイドードリンコは日本初、顔認証決済を飲料自販機に導入

現金、電子マネー不要の「顔認証決済の自販機」ニーズはどこに?

2020年08月28日 07時00分更新

文● ナベコ 編集●ASCII

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ダイドードリンコが、日本初となる顔認証決済自販機の実証実験をスタート

 ダイドードリンコは、日本電気(以下 NEC)の顔認証技術を活用して、日本初となる自動販売機(以下、自販機)で顔認証による購入が可能となる「顔認証決済自販機」の実証実験を7月3日からスタート。

 現在テスト的に、ダイドードリンコ本社、大同薬品工業関東工場、NEC本社などに顔認証決済自販機を設置。対応自販機において利用者は、スマホやタブレットなどで事前に顔画像やクレジットカード情報、パスコードを登録することで、自販機利用時に顔とパスコードの2要素認証により「手ぶら」「顔パス」で飲料を購入できる。

 自販機に顔認証機能が付くことによる利用者のメリットはなにか。ダイドードリンコの自販機営業企画部 古門義浩さんにオンラインでお話をお聞きした。

顔認証決済自販機のニーズはあるのか?

ダイドードリンコ 自販機営業企画部 古門義浩さんにオンラインインタビュー

――顔認証決済自販機の企画はいつからスタートしたのですか?

 ダイドードリンコは自販機による飲料の売り上げが全体の約8割と比率が高く、自販機でお客様にさらなる価値を提供したいという想いから「自販機のイノベーション」をずっと考えてきました。「そもそも自販機の価値とはなにか?」と立ち返ると、屋内や路上を問わずいろいろな場所に設置されていて、飲料を手軽に買えて"便利"なところ。さらに便利さを追求したいと考えた時に「手ぶら」が浮かび「顔パス」の顔認証決済にたどり着いたわけです。

 最初に社内で構想が立ち上がったのは2年くらい前。本来であれば今年開催される予定だった「東京2020オリンピック」はセキュリティーに顔認証が導入されるといった話もあったので、2020年の夏始動に向けて舵を切りました。

――2年も前から。残念ながら、コロナ禍と重なってしまいましたが、その影響は?

 実際的な問題としては、現状だとマスクを装着していると顔認証できません。購入の際にはマスクを外す必要があり、新たな課題となりました。マスクをしていても顔認証が可能な技術自体は存在しますので、顔認証決済自販機を本展開する際にはクリアできる問題だと考えております。

顔認証と4文字パスコードの二段階認証

顔認証後にパスコードを入力する

登録してあるクレジットカードで飲料が購入できる

――そもそも「手ぶら」「顔パス」で飲料を購入するニーズはありますか? 顔認証が必要なシーンをあまり想像できなくて……。

 今回の顔認証決済自販機をリリースして、やはりそのような質問はいくつかいただきました。小銭か電子マネーを持っていれば飲料を買うのに手間がかからない中、顔認証決済を取り入れることにそこまで意味があるのかと。

 我々としては、主に2つのロケーションにニーズがあるのではないかと想定しています。

 1つはオフィス内。オフィス内で会議室へ移動したり、ちょっとお手洗いに立ったりした時に、現金も電子マネーも何も持っていない「手ぶら」のことって意外に多いのではないかと思うのですよね。

 もう1つは工場内。製造の現場や薬品工場などは異物混入を防ぐため余計なものを一切持ち込めません。そんな現場で顔認証のみで飲料が買える自販機があれば、利便性高く活用していただけると考えています。

――確かに、様々な立場の人、多様なシーンをひとつひとつ考えると「手ぶら」の瞬間はけっこうあるかもしれませんね!

 おっしゃるとおりです。本展開の際にはまずは戦略的に先ほどの2つのロケーションを狙っていきたいと考えていますが、他にも顔認証決済が必要とされるシーンはあるはずです。例えば、海水浴場や、フィットネス、ジムなど。もちろん、普段の生活で現金や電子マネーを必ず持ち歩いていて「顔パス」は特に要らない、という方もいらっしゃるかと思いますが、様々なシチュエーションや可能性をふまえると、少なからず必要とされる機能である、そう確信しています。

顔認証がニュースタンダードとなるかも

――今回、NECと提携することで顔認証決済自販機を実現されましたが、実装にあたって障壁はありましたか?

 画像データ解析による顔認証のシステムはNECさんの技術ですが、これを自販機と結び付けるにあたって、タブレットに顔認証を搭載させ、さらにタブレットをハード的に自販機と連携させています。自販機内部のシステムとタブレットとの連携はダイドードリンコの特殊技術によるもの。もともと自販機のイノベーションを掲げて様々な技術開発を進めていた中で、タブレットと自販機を結び付けるなど拡張性が高められる技術基盤を構築していました。その土台がなかったら今回の顔認証決済自販機も実現は難しかったと思います。

タブレットとの連携が可能なのはダイドードリンコの自販機ならではの技術

――なるほど、顔認証決済がダイドードリンコの強みになりますね。現状、利用者にとって事前登録の手間が一番のハードルだと思いますが――。

 まさしくそこは実証実験をスタートする前から課題と感じていて、事前登録に必要とするのは、顔写真の撮影のほか、クレジットカードの情報、メールアドレス、セキュリティーのためのパスワードと最低限の要素にしぼっています。やはり、入力する項目が多かったり、登録に時間がかかってしまったりすると「やっぱりやめよう」となってしまうので、手間はなるべく減らしていきたい。現状も5分以内程度には登録完了できる簡単な内容ですが、利用した方の声を汲み取ってよりよい形にしていきたいです。

 それから、対応する決済方法が現在はクレジットカードのみですので、交通系ICや各種電子マネーにも紐づけられたらさらに利便性が高まるものと考えており、ここも将来的には改善していきたいと考えています。

一回登録さえすれば、手ぶらで手間なく飲料が購入できる。顔認証が当たり前の時代になれば、ニュースタンダードになるかもしれない

――なるべくスムーズに事前登録できるといいですね。

 ゆくゆくはご自身のスマホではなく、自販機に設置しているタブレットから顔を撮影してその場で登録可能にしたいという構想もあります。

 一度登録さえしてもらえれば、あとは飲料購入が顔パスになって楽になるのですが……。

 今後、顔認証によるセキュリティーや決済システムがさらに普及し、あっちもこっちも顔認証で済ませることが「ニュースタンダード」となる可能性は有り得ます。そうなった時に、我々の顔認証決済自販機もマッチして当然のものとして受け入れられる。そんな未来も考えられますね。

――本展開に向けて手ごたえを感じていると。

 はい。市場のリアクションの大きさを感じています。実証実験で動作確認やセキュリティー上の安全面をクリアした上で、来年2021年の初頭には本展開させ、実際に様々なロケーションに設置することで多くのお客様にお役立ていただける自販機になるよう目指していきます!


 以上、ダイドードリンコの古門さんにお話をお聞きした。

 オフィスでトイレに立った時、ついでにお茶でも買おうとポケットに手を入れたら、財布もスマホも交通系ICも持っておらずガッカリした経験は身に覚えがある。近くを通りかかった同僚に小銭を借りて、返したかどうかを忘れて気まずくなった思い出も。小さなことに思えるかもしれないが、手ぶらで飲料が買える選択肢があれば、利便性が高まることは間違いない。顔認証決済自販機が身近になる日もそう遠くないようだ。

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