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デジタルサイネージ、ビデオウォールなどをシンプルな仕組みと使い勝手に変える新仕様を解説

4K映像を10ギガEthernetで送る「SDVoE」とは? セミナーで解説

2018年12月12日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

提供: ネットギア

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 駅や商業施設にあるデジタルサイネージ、スタジアムなどの大型ビジョン/ビデオウォール、さらにイベント会場のプロジェクションマッピングなど、最近は身の回りのさまざまな場所で高精細なデジタル映像を目にする機会が増えた。現在、こうした業務用デジタル映像は4Kサイズ(3840×2160ピクセル)で撮影、制作されることが一般的になっている。

 ただし、映像のサイズが大きくなればそのぶんデータ容量も大きくなる。そこで問題となるのが、再生装置(PCやBlu-rayプレーヤーなど)から表示装置(ディスプレイやプロジェクターなど)に映像を届けるための「伝送手段」だ。

 家庭やオフィスならば、4K映像でも数十センチ~数メートルのHDMIケーブルで直接接続すれば済む。だが、上述したような大型施設などでは、再生装置と表示装置の間が数十~数百メートル離れていることも多い。そうなるとHDMIケーブルというわけにはいかず、何か別の伝送手段が必要になってくる。

 こうした用途を満たすために、業務用映像装置の世界では現在、IPネットワークを使った長距離映像伝送の標準規格がいくつか登場している。その1つである「SDVoE」の技術セミナーが、2018年11月20日、ネットギアジャパンのセミナールームで開催された。

ネットギアジャパン セミナールームで開催された「SDVoE AV over IPテクニカルセミナー」

 今回は映像/音響/ネットワーク業界から6社が登壇したこのセミナーから、特にSDVoEのユースケースやネットワーク技術にフォーカスしてレポートをお届けする。

“AV over IP”の新仕様、SDVoEのメリットや強みは?

 2017年に発足した「SDVoEアライアンス」は、SDVoE規格の普及と発展を目指す非営利の業界団体だ。創設時は6社だったメンバー企業は、現在はすでに40社を数える規模に成長しており、合計で158のSDVoE対応製品が販売されている。

 創設メンバーには業務用映像機器/チップのメーカーが並ぶが、唯一ネットギアがネットワーク機器メーカーとして参加している。これは、SDVoEが伝送手段として10ギガビットEthernet(10GbE)を利用するからだ。ネットギアでは“SDVoE対応済み”の10GbEスイッチも発売している。

SDVoEアライアンスの創設メンバー6社。映像機器やチップメーカーと並んでネットギアも参加している(ダブソン氏講演資料より)

 SDVoEは「Software-Defined Video over Ethernet」の略語だ。データセンターのSDN(Software-Defined Network)やSDS(Software-Defined Storage)と同じように、SDVoEは従来のような高価な専用ハードウェアを必要とせず、シンプルなシステム構成で幅広いユースケースに対応できる柔軟な映像伝送仕様の実現を目指している。

 今回のセミナーで登壇したSDVoEアライアンス創設メンバーの1人、チャールズ・ダブソン氏は、SDVoEのメリットとしてまず、“1対多”“多対多”の映像システム構成が簡単にできることを挙げた。

SDVoEアライアンス Development担当ディレクターのチャールズ・ダブソン(Charles Dobson)氏

 業務用映像の世界では、現在でも「SDI(シリアルデジタルインタフェース)」と呼ばれる伝送規格が標準的に使われている。SDI(SD-SDI)は、同軸ケーブル1本でSDサイズ(720×480ピクセル)のデジタル映像と音声を伝送できる規格で、現在では複数本のケーブルを同時に使い、さらに高解像度(HD、フルHD、4K)の映像伝送を可能にした上位規格もある。

 ただしSDIでは、基本的に映像ソース(映像の送信側)と表示機器(受信側)の接続は“1対1”の形になる。送信側/受信側を1対多、あるいは多対多で接続するには、「マトリクススイッチ」と呼ばれる専用ハードウェアを間に挟み、信号を電気的に切り替えたり、分配したりする必要があった。

 一方でSDVoEの場合は、マルチキャスト技術によって1対多や多対多のパケット通信も可能な10GbEネットワークを用いており、スイッチと1本のケーブルで接続しておけば、接続先の切り替えや分配をソフトウェア的に処理することができる。いわば“Software-Definedな”かたちで、仮想的なマトリクススイッチを実現できるわけだ。

 さらにビデオ映像の解像度やフレームレートの変換、合成といった処理も、これまでのように専用ハードウェアではなく、送信機や受信機に組み込んだソフトウェアで処理するかたちをとっている。これにより、非常にシンプルなシステム構成で多様なユースケースに対応できる。

 ダブソン氏は、従来手法とSDVoEで構成した映像伝送システムの比較図を示し、その違いを次のように説明した。

 「従来型の場合は、システム構成が複雑になって障害が発生しやすく、コストも高い。SDVoEならばエンコーダーとデコーダー、コントローラー、そして10GbEスイッチだけでシンプルに構成できる」(ダブソン氏)

従来方式(SDI)と新方式(SDVoE)によるシステム構成の違い(2つの映像ソースをビデオウォールとマルチビューで表示する場合、ダブソン氏講演資料より)

 さらに、SDVoEは業界標準規格として多様なメーカーどうしで互換性を持たせ、異なるメーカー製品どうしを組み合わせて柔軟にシステム構成できる世界も目指しているという。SDVoEアライアンスにも、業務用映像機器のハードウェアメーカーだけでなくソフトウェアメーカー、さらにはスイッチ、ケーブルと、幅広いメンバー企業が加盟している。大型施設だけでなくオフィスや病院、キャンパスなど適用場所やユースケースを広げていくうえでも、多様なメーカーが参加することには大きな意味がある。

 SDVoEのメリットとしてもうひとつ、既設の10GbEネットワークを使って映像伝送ができることも挙げられるだろう。後述するとおり、このネットワークにはいくつかの要件もあるが、新たに映像専用のネットワークを敷設する必要がないのは大きなメリットだ。実際に、病院内における高精細な手術映像の中継、大学キャンパスでの授業映像の中継といった利用事例もあるという。

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