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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第486回

業界に多大な影響を与えた現存メーカー 日本の産業スパイに狙われたIBM

2018年11月26日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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手間のかかった液冷システムを導入
信頼性を武器に生き残りを図る

 ちなみにパッケージングの観点で言えば、ECLを空冷で無理やり運用したAmdahlに比べると、液冷をきちんとモノにしたIBMの方が数段進んでいた気がする。

 IBM 3090の場合、回路は基本的にECLベースのICとして製造されたあと、最大132チップをまとめて実装できるパッケージサブストレートに収められる。

IBM 3081KはTTLベースでサイクルタイム26ns(38.5MHz)。これが3081KXはTTLベースながら24ns(41.7MHz)、3090 Model 200で18.5ns(54.1MHz)、3090 Model 400で17.2ns(58.1MHz)に高速化された

今で言えば上の画像がダイ、この画像がMCMの基板に相当する

 そのパッケージの断面が下の画像だ。このパッケージは、TCM(Thermal Conduction Modules)と呼ばれる巨大なヒートシンクに取り付けられたうえで、22層構造のマザーボードに装着されるという仕組みだ。

パッケージサブストレートの断面。少なくとも中間配線層が13層は確認できる。一部の信号はピンまで突き抜けているのがわかる。おそらく最下層の3層は電源およびGNDのものと思われる

TCMと呼ばれる巨大なヒートシンク。手近な例で言えば、CPUパッケージに簡易水冷キットの水冷ヘッドを一体化させたような形だ。ちなみにこのTCMはIBM 3081の世代から利用され始めたそうである

22層構造のマザーボード。パッケージサブストレートは、上にTCMが被さっているものの、下側はピンがそのまま露出している状態で、それがマザーボードに(PGAソケットのように)接続される、という構造に思える。標準的なマザーボードはTCMを9個装着できたようだ

 回路基板をそのままフロリナートに漬けたCray-2と異なり、きちんと冷却水とECLチップは分離されている格好である。

 あとはこのTCM同士をパイプでつないで、熱交換器に接続すれば完了というわけで、これによりECLベースながら安定した動作が可能となっていた。

これを見ると1つの冷却水経路で3つのTCMをまとめて冷やしている格好である。もっと発熱が多くなったらまた経路は変わるのかもしれないが、IBM 3090ではこの程度で十分だった模様。ちなみにこれは3090-300EのVector Facilityボードだそうだ

 なんというか、Amdahlの空冷マシンに比べると、はるかに緻密というか、手間のかかったシステムになっているのがわかる。ただしこれは信頼性を追求した結果でもあり、この信頼性を武器に同社のシステムは生き残りを図っていくことになる。

 これとは別に、IBM 3090が発表された翌1986年には、IBM 9370というシステムも発表されている。

これは1987年のIBM 9375の写真

 こちらはIBM 4380のさらに下位に位置するエントリー向けのシステムであるが、この当時IBMを猛烈に追い上げていたDECのVAXシリーズに対抗するために、空冷に加えてラックマウントが可能な構成になっており、さらに価格および性能の点で、VAX(*)に対して競争力がある「はずだった」。

(*) IBM 9370の開発当時だと、VAX-8000シリーズやMicroVAX IIが競合製品だったはずだが、実際に市場に出た時はVAX-6000シリーズやMicroVAX 3100あたりが競合に変わっていた。

 ただあいにくと、対応するソフトウェアが十分ではなかった。VAXがおさえていた市場は、System/370系では手薄な分野だったこともあり、対抗するには十分と言えず、少なくともDECの勢いを食い止めることはできなかった。

 ということで、System/370シリーズの話を細かく説明しすぎた気もするが、70年代~80年代を代表するシステムだった、ということでご容赦いただきたい。

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