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景気はすでに後退、「戦後最長の拡大」は“幻”に終わる

2018年11月21日 06時00分更新

文● 鈴木明彦(ダイヤモンド・オンライン

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景気後退
Photo:PIXTA

 2012年11月を「谷」にして景気は長期の回復を続けている、というのが、政府の景気判断だ。政府の月例経済報告では、「景気は、緩やかに回復している」という判断が続いている。

 来月1月にはリーマンショック前の景気拡大期を超えて、戦後最長の景気拡大を達成する、というのは、もはや「既定路線」のように語られている。

 しかし、景気はもう後退している可能性が強い。

 かつて月例経済報告の作成にかかわった筆者から見れば、最近の経済指標を見て「緩やかに回復」とは、さすがに言い難いのではないか。

月例経済報告は来年1月の
「戦後最長」が既定路線だが

 月例経済報告の景気判断の表現は、最近、トレンド重視ということかもしれないが、景気の細かな動きを巧みな「霞が関文学」で表現していくという官庁エコノミストの醍醐味を放棄しているかのようだ。

 読む側も緊張感が出てこないし、考え過ぎとは思うが、何やら「忖度」すら感じる。

 10月の月例経済報告を見ると、輸出は「おおむね横ばい」となっているが、輸出数量の動きを見る限りは、「減少している」と言ってよいのではないか。

 生産は「緩やかに増加」という判断を続けているが、2018年に入ってからは「横ばい」というところだろう。

「緩やかに回復している」という全体の景気判断も、輸出が減少、生産が横ばいであれば、「回復が足踏み」と言った方が実態に近い。つまり、景気は回復していない、後退しているのではないか、ということだ。

 弱い経済指標の発表が続くと、政府の景気判断もこれから下方修正される可能性はある。ただ、修正されたとしても、景気が踊り場に入った可能性を示唆する程度だろう。

 政権の意向を忖度するというわけではないが、リーマンショック並みの経済指標の急激な悪化でもない限り、このタイミングで「戦後最長の景気拡大」の達成を否定するような判断をあえて出してくるとは考えにくい。

景気の「山」は過ぎた
2017年末か2018年初めの可能性

 となると、来年1月には、戦後最長の景気拡大を達成したということになるのだが、問題はそのあとだ。

 このまま弱い経済指標が続けば、いずれ景気は「山」をつけた、つまり景気拡大は終わった、という議論が出てくる。その時、いつが景気の山になるのか。

 まず、在庫循環の動きを確認してみよう。在庫循環図を見ると、すでに45度線を下から上に抜けて在庫調整局面に入っていることが読み取れる(図表1)。

 また、生産は2017年12月と18年3月がほぼ同じ水準でピークをつけている。

 次に、景気動向指数(CI・一致系列)の動きを確認する(図表2)。

 景気動向指数は、生産など景気に敏感な指標を合成して作成するもので、景気動向指数が高いほど景気が良く、低いほど景気は悪いということになる。下から上に上がっていれば景気が回復している、上から下に下がっていれば景気が後退していると考えることができる。

 このグラフのピーク・ボトムが正式な景気の「山」「谷」と完全に一致するわけではないが、かなり近いものと考えられる。その景気動向指数であるが、2017年12月をピークに低下している。

 実際に政府によって景気の「山」が設定されるのは、1~2年先のことになるのだが、そこで17年終わりから18年初めにかけてのどこかで景気の「山」が設定される可能性がある。

 そうなれば、「戦後最長の景気拡大」は幻だったということになる。

消費増税後の景気後退は幻?
経済の変貌で判断基準は変わる

 ところで、在庫循環図や景気動向指数のグラフを見ると、消費税率が8%に引き上げられた2014年4月ごろにも景気の「山」があったのではないか、という疑問がわいてくる。

 在庫循環のグラフは2014年4~6月期に45度線を下から上に抜けており、景気動向指数も2014年3月をピークに低下トレンドに入っている。直観的には2014年春から2016年にかけて短い景気後退であったのではないかと思えてくる。

 景気の転換点を示す景気基準日付(山・谷)は、有識者を集めた景気動向指数研究会の議論を踏まえて内閣府経済社会総合研究所が設定するが、2017年6月に景気動向指数研究会が開催され、2014年3月に景気が「山」をつけて景気後退に入ったか否かを議論した。

 研究会の結論は「景気の山はつかなかった」というもので、消費増税後の景気後退は幻と終わった。

 もし、ここで景気の「山」が設定されていたら、つまり景気は後退局面に入ったということになっていれば、当然のことながら「戦後最長の景気拡大」が今の話題になることはなかった。

 景気動向指数研究会での判断はかなり微妙だったが、景気動向指数の下がり方はこれまでの景気後退局面と比べて小幅だ。景気が大きく変動している時代の基準で判断すれば、「山」はついていないという判断になったのはある意味当然のことかもしれない。

 ただ、そうであれば、12年3月が「山」になって、なぜ14年3月が「山」にならないのかという素朴な疑問がわいてくる。

 結果だけ見ると、前者の判定の時は民主党から自民党へ政権交代していたから民主党政権の時につけた「山」はすんなり設定され、後者については、安倍政権でアベノミクスが続いている時に景気後退などあり得ないという「忖度」が働いたのではないか、と勘繰る向きが出てきてもおかしくない。

 もちろん、この2つの判断はその時点その時点で、客観的なデータに基づき景気動向指数研究会が判断していることであり、政治的な思惑が働いていると考えるべきではない。 

 しかし、日本経済が成熟して定常状態に入っているのであれば、景気の「山・谷」の判断基準も変わってこないといけないのではないか。

 景気が「山」をつける、つまり景気が後退していると判断する基準は、経済社会総合研究所の資料によると、次のようになっている。

 (1)経済活動の収縮が経済の大半の部分に波及すること(波及度)、その際、(2)収縮の程度が顕著なものであること(量的な変化)、(3)収縮はある程度の期間持続すること(景気後退の期間)という3つだ。

 このうちクリアするのが特に難しい基準は、(1)の波及度と考えられる。

 技術的な話になるので深入りはしないが、簡単に言うと、景気動向指数のうち現状の景気とほぼ一致して動くとされる一致系列(生産指数や営業利益など、9系列)がほとんどすべて「山」をつけて下を向かないといけない。

 14年3月の「山」の判断では、有効求人倍率と営業利益(全産業)が下を向かなかったので、後退にはならなかった。

 しかし、この2つの指標は過去においては、景気と連動して変動していたのだが、有効求人倍率は労働力人口の減少を反映した人手不足の恒常化を、また営業利益は円安や企業のコスト削減努力による利益拡大を、それぞれ背景に、どちらも景気動向とは乖離して上昇トレンドが続いている。

 この2つの指標が低下に転じて波及度の基準をクリアし、景気の「山」をつけるとすれば、それはリーマンショック並みとまでは言わないまでも、かなり深刻な景気後退に見舞われた時と考えたほうがいい。

10%増税への配慮で
「戦後最長」と力む必要はない

 日本経済が成熟化し、景気の変動がマイルドになってくると、景気が回復しているのか、後退しているのか、それすらもはっきりしない状況が珍しくなくなってくる。

 14年から16年にかけての景気は、「後退していない」が、それ以上に「回復していない」状況と言えよう。

 こうした状況をどう表現するか。今の基準では「山」をつけていない以上、「景気は回復している」という判断になってしまうのだが、これがふさわしい表現とは考えにくい。

 ましてや、そういう状況が続いて「戦後最長の景気拡大」になったとしても、胸を張って「戦後最長」と言うのは憚られる。

 政府は、戦後最長になろうかという長期の景気拡大が続いていると強調する一方で、8%への消費増税は個人消費に想定以上の影響を与えたと主張する。

 だから増税は慎重に判断しなければいけないということかもしれないが、10%への消費増税を2度も延期しなければならなかったのであれば、戦後最長の景気回復と声高に叫ぶのもむなしい。

 もしかすると、10%への消費増税を実現するためには、8%への消費増税で景気が後退したと言うのは避けたほうがよいという配慮が働いているのかもしれない。

 しかし、そこは正直に国民に説明すべきだろう。

 5%から8%への消費増税は想定外ではなく想定通りの影響を与えた。

 円安の影響で消費者物価が1%台半ばで上昇していたところに、消費増税分の価格転嫁の影響で物価が2%ポイント押し上げられれば、合わせて3~4%の物価上昇が実質所得を減少させ、消費を減らすことは当然、予想できた。

 つまり、景気が後退してもおかしくない。むしろ、軽い後退で済んだことを前向きに評価すべきではないか。

 増税すれば景気が下押しされるが、それでも増税が必要なことを国民に理解してもらう。これが、政治家が本来、行うべき仕事だ。

 来年度予算編成では、10%増税の際の「影響緩和」を名目にさまざまな“対策”が検討されているが、いくらバラマキの財政出動をしても、それが途切れるところで効果はなくなり、財政構造が悪化するだけだ。

素直に判断すれば
景気はすでに後退している

 最初にも述べたように、「戦後最長の景気拡大」達成が迫るにつれて、景気が後退しているなどとうかつには言えない雰囲気が、政府だけではなく民間エコノミストにも広がっているのではないか。

 さすがに最近は、弱い経済指標が出てきているのを受けて、米中貿易戦争が景気に与えるマイナスの影響に注意すべき、といったコメントも出てきた。

 だが、輸出や生産の頭打ちは今年初めから始まっている。これから影響が出てくる米中貿易戦争のせいにしてはいけない。

 景気判断は素直でなければいけない。

 短い期間だが、月例経済報告の作成に携わった者として感想を述べれば、最近、発表されている経済指標を見て、「景気は緩やかに回復している」と判断するのはさすがに苦しくなっている。

 何やら多少無理してでも「回復」と言わなければいけない使命感すら感じられる。

 経済指標を素直に判断すれば、半年前には「景気回復が一服している」という判断になっておかしくなかった。そして今、「景気はもう後退している」のではないか。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング研究主幹 鈴木明彦)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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