ビデオゲームをプレイする人工知能(AI)同士が競い合う恒例のゲーム大会の最新結果からは、群れをなす昆虫型の「ザーグ(Zergs)」や襲いかかる「プロトス(Protos)」を操るのが機械にとってどれほど難しいかが見て取れる。古風なアプローチが勝利を納めたことからも、その難しさは明らかになった。
「AIIDEスタークラフト・コンテスト」は、2010年からカナダのニューファンドランドメモリアル大学(MUN)で開催されている。参加チームはSFをテーマにした壮大なゲーム「スタークラフト(StarCraft)」のオリジナル版をプレイするボットを提供し、1対1の対戦を重ねる。
ビデオゲームは一般的に、AIとって有益なものだ。制約条件のある環境が提供され、進歩の度合いを定量化できるからだ。大人気のオンライン戦略ゲーム「スタークラフト」は、その複雑さと勝負の進展度を測る難しさから、AIの重要な評価基準として存在感を増している。スタークラフトには膨大な数のステータスが存在し、取り得る行動の選択肢も非常に多い。ある戦略が有効だったどうかは、戦いのずっと後の局面になってみなければ分からない。
アタリのビデオゲームや囲碁、チェスを数種類の先進的な機械学習手法を使ってコンピューターに習得させたことで知られるアルファベット(グーグル)傘下のディープマインド(DeepMind)は、スタークラフトの新バージョン「スタークラフト2」をプレイするプログラムの開発に取り組んでいる。ディープマインドは、人間のプレイヤーと同レベルで対戦できるようにプレイ速度に制限を付けたスタークラフト2用ボット開発支援プラットフォームを発表している(AIIDEスタークラフト・コンテストは、フェイスブックとディープマインドから資金提供を受けている)。
今回のコンテストで最高のパフォーマンスを発揮したボットは、韓国サムスン(Samsung)の研究チームが開発したSAIDAだ。興味深いことに、対戦相手の出方に応じて特定の戦略を採るようにするため、開発者はこのボットを手作業でコーディングしたという。サムスンの研究チームは強化学習を用いた方策(ディープマインドがアタリや囲碁、チェスに使ったのと同様の手法)にも取り組んでいるが、今大会に参加できるレベルには至らなかった。
2位と3位の座は、フェイスブックのチームと中国を拠点とする研究グループが手にした。両者とも優勝チームよりも現代的な機械学習の手法を採用しており、中国の研究グループはわずか6週間でボットを開発したという。
リチャード・ケリーとともにコンテストを主催したニューファンドランドメモリアル大学のデヴィッド・チャーチル助教授(コンピューター・サイエンス)は、ボットは一部のアマチュア・プレイヤーに勝てるものの、プロ・プレイヤーには到底敵わないという。「プロゲーマーの世界の中でも、トップ・プレイヤーとアマチュア・レベルでは桁違いの実力差があります」とチャーチル助教授はMITテクノロジーレビューに話している。「プロに近づくことはまだできていません」。