すべては、1本の動画から始まった──。
綺麗な海をバックに、眼鏡をかけたおじさんが「せやろがい!」と叫ぶ動画を観たことのある方は多いだろう。彼の名前は「せやろがいおじさん」。真っ赤なタオルを額にまとい、真っ赤なふんどしを身につけている。
彼はときにダウンタウンの松本人志さんの「死んだら負け」発言にもの申し、ときに東京五輪の〝エゲツない〟ボランティア募集に怒り、ときに『新潮45』の「そんなにおかしいか杉田水脈論文」にブチ切れる。一方で、身近な問題にも言及する。ハゲを馬鹿にする価値観に疑問を投げかけ、人の体をいじって笑い取る人を徹底的に論破してみせる。
すでにご存じの方もいるかもしれないが、彼の正体は「リップサービス」の榎森 耕助(えもり こうすけ)さんというお笑い芸人。担当はツッコミで、沖縄の芸能事務所オリジン・コーポレーションに所属する。せやろがいおじさんとしては、とりわけ東京五輪ボランティアを批判する動画で話題になった。
2017年2月、脳科学者の茂木健一郎氏の「日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン」とするツイートをきっかけに、お笑いと社会問題の関係性、そして権力への批評性などの議論が高まった。
トランプやバノンは無茶苦茶だが、SNLを始めとするレイトショーでコメディアンたちが徹底抗戦し、視聴者数もうなぎのぼりの様子に胸が熱くなる。一方、日本のお笑い芸人たちは、上下関係や空気を読んだ笑いに終止し、権力者に批評の目を向けた笑いは皆無。後者が支配する地上波テレビはオワコン。
— 茂木健一郎 (@kenichiromogi) 2017年2月25日
その点、せやろがいおじさんは〝SNS時代の新しい芸人〟に位置づけられるかもしれない。社会問題に真っ正面から切り込み、「人を傷つけない」笑いを追求。結果として、YouTubeやSNSで人気を得ているからだ。筆者もその点に非常に興味が湧いた。
このたび、そんな榎森さんにインタビューを実施。東京五輪ボランティア募集の〝まさかの結果〟を導入として、社会問題に言及するときのこだわり、松本人志さんの「死んだら負け」発言の背景にあった友人の死、『新潮45』の「そんなにおかしいか杉田水脈論文」への怒り、「人を傷つけない」笑いを追求するワケなどを語ってくれた。今回はその前編である。
(次ページでは「「せやろがいおじさん」が生まれた理由」)