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中国IT大手「ファーウェイ」の正体、米国が最も潰したい企業

2018年09月14日 06時00分更新

文● 週刊ダイヤモンド編集部(ダイヤモンド・オンライン

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中国IT大手ファーウェイの受付
Photo by Fusako Asashima

米国が最も警戒する中国のIT企業、ファーウェイ。米中貿易戦争の渦中にありながら、研究開発部門の最前線を取材することが許された。ファーウェイの正体を明かしていこう。(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

 ついに、米国がファーウェイに牙をむいた。8月にトランプ米大統領が国防権限法にサインし、中国2大通信企業である、ファーウェイとZTE(中興通信)の製品の米政府機関での利用を禁止した。4月に米国市場から締め出される“死刑宣告”を受けていたZTEに続き、ファーウェイも標的となったのだ。

 それも時間の問題ではあった。すでに、米中経済安全保障調査委員会(USCC)が技術系コンサルのインテロス・ソリューションズに依頼したレポートでは、「米国の安全保障を脅かす中国ICT企業」として、ファーウェイの存在が指摘されていたからだ。

 米中で覇権を争うハイテク分野の中でも、通信はビジネス上のみならず安全保障上の観点からも、最重要ファクターだ。何としても次世代通信規格「5G」の主導権を中国に奪われたくない米国にとって、ファーウェイは潰したい企業なのだろう。

 8月23日、米国に呼応する形で、豪州政府が国内通信事業者に対して、ファーウェイとZTEの5G向け機器の調達を禁止した。ロシアでも同様の検討がなされているもようで、じわじわとファーウェイ包囲網が築かれつつある。

 ファーウェイの深セン本社から車で約2時間の所にある東莞市の松山湖工場。その敷地内に、「サイバーセキュリティー検証ラボ(ICSL)」がある。ここでは、スマートフォンから通信機器まで、全てのファーウェイ製品のセキュリティーチェックが行われている。ファーウェイ製品が、特定の国家・集団に悪用されていないか。国家機密情報や技術情報などのデータへの不正アクセスがないか──。

深セン本社が手狭になり研究開発部門は引っ越し中。ディズニーリゾートと見紛うような洋風建築が特徴(右上)。敷地内には本物の電車が走行している(左上) Photo by Fusako Asashima

 まさに今、米国は「ファーウェイを通じて中国共産党が米国政府や米国企業の情報を盗んでいるのではないか」と疑っているわけで、ファーウェイからすれば、身の潔白をいかに証明するかという難題を突き付けられている。

 今回、この微妙なタイミングで、ICSLへ潜入することができた。ただし、写真撮影やパソコン、レコーダーの持ち込みは一切禁止という条件付きだ。ラボ内には約140人のスタッフがいるが、各自がパソコンの画面に向かって検証作業に没頭しており、広い室内は静まり返っている。

(1)ファーウェイ従業員が本社入り口を通過しただけで、カメラの画像が解析され、本人の所属、階級などがディスプレーに表示される。(2)写真撮影不可、録音不可の条件で潜入できた「サイバーセキュリティー実証ラボ」。(3)街中に設置された監視システム。通行人の年代や服装、二輪・自動車の車種やナンバーなどの情報が一気に解析される。(4)(5)昨年オープンした「ワイヤレスXラボ」。手作り感があり、まるで大学の研究室のようだ。ファーウェイが得意な「5G」技術を下地に、全産業でどんなケースが実用化できるのかを開発する。上海ラボと結んで、模型自動車の遠隔運転や医療機器の遠隔操作などを試すことができた。(6) 「ワイヤレスXラボ」のアレックス・ワン・ディレクター。熱心なプレゼンテーションは2時間に及んだ 拡大画像表示

 2013年にICSLが設立されて以降、2万7261バージョンもの検証作業が実施されてきたという。特徴は、ICSLが製品ラインから完全に独立した組織であること。ラボチームは、サイバーアタックなどの問題解消が見えない場合は、開発部門に対して「No Go(開発の中止)」や「Reject(開発のやり直し)」を言い渡す絶大な権限を持っている。実際に、13年以降では76件もの「No Go」案件が発生した。

 厳格なセキュリティー管理を自負するICSL責任者のジェフ・ハン氏は、米国によるファーウェイ排除の着地点についてどう考えているのか。

 「われわれは、技術的に検証可能なことは全てやっている。でも、最初から(国家の安全保障を脅かす存在として)黒だと決めつけている相手に対して、それは事実ではないと証明することは非常に難しい。技術で解決できることではありません」──。

 言葉を選びながら、そう回答した。ICSLの設備・スペースを通信事業者テレフォニカに開放するなど、顧客企業自身で検証作業できる仕組みを取り入れ、検証の中立性を重んじている。あえてこの時期にメディア取材を受け入れるのも、そうした姿勢をアピールする意図があるのだろう。

R&D費はトヨタの1.5倍

 では、米国に脅威を抱かせるほどに成長したファーウェイとは、どのような企業なのか。

 1987年に、創始者の任正非(レン・ジェンフェイ)氏が深センで起業。当初は香港製の電話交換機を代理販売する弱小商社にすぎなかった。それから30年。売上高は10兆円を超え、海外でその半分を稼ぐ。従業員18万人以上を抱える巨大企業に成長した。

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 日本では、中国のスマホメーカーという印象が強いかもしれないが、実態は少し違う。

 世界30社以上の通信事業者と5G実証実験を実施。スマホ出荷台数とサーバー出荷台数は、いずれも世界シェア3位。通信事業者向けネットワーク事業、コンシューマー向け端末事業、法人向けICTソリューション(エンタプライズ)事業の「3大事業」のそれぞれで世界首位を狙える、れっきとしたグローバルカンパニーである。

 何と言っても特筆すべきは、潤沢な研究開発(R&D)予算の大きさだ。17年のR&D投資は約1兆5509億円で、米アマゾン、米アルファベットに続く世界3位に入る。日本トップのトヨタ自動車と比較すると、売上高が3分の1の規模なのに、R&D投資は1.5倍に上る。中国のITジャイアント、アリババやテンセントと異なり、M&A(合併・買収)の行使には消極的で、自前成長を基本原則としている。

 湯水のごとく、かつ機動的に資金をR&Dへ投下できるのは、株式を上場していない非公開企業ならではの荒業だろう。

 かといって、経営者が乱脈経営に走ることはできない。会長職は半年ごとに3人の持ち回りで代わる輪番制を採用。また、ファーウェイでは、従業員持ち株制度を導入しており、中国人の従業員8万人が株式を保有し、創始者の持ち分はわずか1.4%だ(外国籍従業員には別のインセンティブプランがある)。業績の浮沈がそのまま従業員の報酬に直結する、組織に緊張感をもたらす仕組みが取り入れられている。

法人向け事業がドライバー

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 現在、ファーウェイが成長のドライバーとして定めているのはエンタプライズ事業だ。売上高に占める構成比は9.1%にすぎない最弱事業だが、将来の伸びしろは大きい。

 ここでも鍵になるのは、R&Dだ。ファーウェイは、チップセットや通信技術を強みとしており、将来的にパートナー企業と競合することになる、ソフトウエアやアプリケーション(自動車や医療機器)は手掛けずに任せるというルールを設けている。ファーウェイがパートナーに提供するのは、インフラ部分までと境界線を引き、黒子に徹することでビジネスの間口を広げているのだ。

 昨年、深セン本社に大学の研究室のような、手作り感のある実験室がオープンした。この「ワイヤレスXラボ」は、ファーウェイが持つ5Gの技術を下地に、あらゆる産業でどんな実用例が考えられるのか、パートナー企業と連携して開発を進めるラボだ。実際に、上海ラボにある医療機器や模型自動車を、深センから遠隔操作できる。

 ワイヤレスXラボのアレックス・ワン・ディレクターは、その具体例として、VR(バーチャルリアリティー)や空域での交通システム、ヘルスケアなど6分野のシナリオについて説明してくれた。

 特に、興味深かったのは、自動運転に関する将来の見通しだ(下図参照)。10年後の28年には、ドライバー1人に対する自家用車数が3台になるというもの。完全自動運転の実用化まではいかないものの、自家用車を遠隔操作するのが当たり前になる世界がやって来るという試算だ。“本職”の自動車メーカーでも、ここまで野心的な試算をはじいている例はまれで、ファーウェイの技術革新に懸ける貪欲さが垣間見える。

 にもかかわらず、米国など主要国で「5G」からの締め出しを食らっているファーウェイ。創業30年で初めて、自助努力だけではソリューションを見いだせない正念場を迎えている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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