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従業員に健康診断を受けさせない企業1割、副業解禁で増加も!?

2018年05月24日 06時00分更新

文● 松原麻依 [清談社](ダイヤモンド・オンライン

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従業員を1人でも雇い入れたら、企業は定期健康診断を実施する義務がある。ところが、法律で定められているにもかかわらず、健康診断を行わない会社も中には存在する。もし労働基準監督署に摘発されたら、何らかの罰則はあるのだろうか。また、違法であるにもかかわらず実施しない会社があるのはなぜなのか。その背景を聞いた。(清談社 松原麻依)

週30時間以上働く労働者がいれば
実施義務がある

飲食業界は、従業員の健康診断実施率の低い職種の1つです。
正社員かどうかにかかわらず、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上で、常時雇用されている従業員は、定期健康診断を受ける必要がある(写真はイメージです)

 年に一度、労働者が受診させられる定期健康診断。面倒ではあるものの、実際に病気やけがでもしない限りなかなか病院に行けない忙しい会社員にとって、自分の健康を管理するための貴重な機会となっている。しかし、現実には、従業員を雇っていても、その義務を果たしていない会社も存在しているのだ。

「会社側には定期健康診断を実施する義務が、従業員には受診する義務が、それぞれ法律で定められています」と説明するのは、社会保険労務士の庄司英尚氏だ。

 庄司氏が言うように、定期健康診断は労働安全衛生法によって定められた義務であり、条文には「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」(第66条)と記されている。

「ここでいう“労働者”とは、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上の労働時間(週40時間労働の会社なら週30時間以上)働き、常時雇用されている人のこと。正社員かどうかにかかわらず、週の所定の労働時間が正社員の4分の3以上の人は定期健康診断を受ける必要があります」(庄司氏、以下同)

 定期健康診断は例外的な働き方や職種を除き、年に一度、そして雇い入れ時にも原則として健康診断を実施する必要があるという。当然、それを破ると“違反”ということになる。

「こうした法律違反に対しては、原則50万円以下の罰金が科せられます。ただ、実際のところは発覚してからすぐに罰則が下るわけではなく、最初は労働基準監督署からの是正指導が入って、そしてその指導を無視した場合にのみ適用されることがあるようです」

 たとえすぐに罰金を科せられるわけではないとはいえ、法律違反を続けることは会社にとってもリスキーだ。

「例えば、労働者が健康を害しているにもかかわらず、健康診断を実施していないことが原因で病気の発見が遅れ、さらに会社側が業務の軽減の措置なども行わなかった結果、死亡に至ったとしたら、安全配慮義務違反で損害賠償責任を問われる可能性もあります。また、長時間労働などで労働者側に提訴されたとしても、定期健康診断が未実施だと会社側にとっては不利な材料となるでしょう」

 そうならないためにも、定期健康診を行う方が会社にとっても安全なのだ。実際、コンビニエンスストア大手のローソンは、2013年度から健康診断を受けない社員の賞与を15%減額する制度を導入している。こうした措置により、今では社員の受診率も相当上がっているという。

小規模事業所ほど未実施率も上昇
「社長だけ受診」の横着企業も

 ローソンの例のように、社会的責任が伴うような大企業では、社員が定期健康診断を受けるよう半ば強制的に促すところもある。

 
 その一方、厚生労働省による12年度実施の調査データでは、過去1年間に定期健康診断を行った事業所の割合は91.9%となっており、1割弱の事業所が健康診断を実施していないことが分かる。

 データの内訳を見てみると、従業員500人以上の事業所では実施率が100%、30~49人規模では96.8%、10~29人規模で89.4%と、従業員数が少なくなるにつれて実施率も下がる傾向にあるようだ。

「ただ、この調査では従業員10人以下の事業所は対象外となっています。また、こうした調査に協力する事業所は、真面目な企業。調査に反映されない小規模事業所などを含めると、実施率は大幅に下がると思います」

 ちなみに、この調査によると、実施率が低い業界は「生活関連サービス業・娯楽業(78.8%)」「宿泊業・飲食サービス業(86.6%)」「卸売業・小売業(88.6%)」などである。飲食サービス業だと深夜労働の店舗もあるだろう。それこそ健康リスクは高くなるはずだが、従業員の健康により気を使うべき業界が、健康診断を実施していない傾向にある。

「定期健康診断の会社側の負担は1人当たり7000円~1万2000円ほど。さらに労働時間内に実施するとなると、労働力が業務以外のことに割かれてしまう。企業にとっては多少の負担になることは事実です」

 そうした中で、費用や労働力を惜しんで、あえて定期健康診断を実施しないというブラック企業もあるだろう。

「中には、社長だけ健康診断を受けて、社員には実施しないという悪質なパターンもあります」

 またそれだけでなく、経営者が法律を分かっていない場合もあるという。

「仲間内だけで立ち上げたようなベンチャーで、組織としてまだ体をなしていないような企業だと、定期健康診断は先延ばしにしてしまうことも。あるいは、労働者側も健康診断を受けるのが面倒なので言い出さなかったり、使用者に主張することができない、ということもあるでしょう」

 そうした“空気感”の中で、守って当たり前の法律が無視されるような環境が醸成されてしまっているのだという。

終身雇用制は崩壊へ
副業解禁で企業の管理も難しくなる

 法律で定められているにもかかわらず、ウヤムヤにされがちな定期健康診断。今後、時短勤務や業務委託契約といった多様な働き方が増えてくると、これまで以上に従業員ごとに細かく管理しにくくなるはず。

「特に、18年は厚生労働省のモデル就業規則が変わり、原則として副業を容認する内容となりました。そうなると、終身雇用という考えからはいっそう遠のき、一つの会社内にさまざまな働き方をする人が多くなり、企業側も線を引いて一律に管理運用するのが難しくなってきます」

 副業解禁は建前上、労働者のスキルアップや満足度を上げる目的がある。だが、誰しもが副業解禁で恩恵を受けるわけではない。

「専門性や能力を生かしてフレキシブルに稼げる人にとっては、副業解禁は良い効果をもたらすでしょう。一方、企業の残業規制が厳しくなり、基本給も上がる見込みがない中、家計のために就業後や土日に労働集約型の業務に従事する人も出てくるのではないでしょうか。それだと、かえって総労働時間は長くなる恐れがあります」

 もし、週30時間×2社で週60時間働いたとしたら、その労働者の健康管理の責任はどの企業が負うことになるのか。

「従業員の健康管理は各企業が責任をもって行うものです。定期健康診断も法律に従って原則は各社で行う義務があるが、それぞれの企業がもう一つの勤務先の労働時間を知ったら、2社とも『他の企業で長時間働いているようだから、うちでは定期健康診断までは面倒見ませんよ』ということもあるかもしれません」

 副業解禁により従業員の労務管理は複雑になるが、1社で週30時間以上(週40時間労働の会社の場合)働く人の定期健康診断の実施義務は法律で決まっていること。使用者に申し出るのははばかられるかもしれないが、自分の身を守るためにも泣き寝入りするべきではないだろう。

「どうしても会社が実施してくれないとなれば、労働基準監督署に報告するのも手です。外部の機関から指導が入るだけでも効果はあるのではないでしょうか」

 働き方が変わりつつある今だからこそ、しっかりと権利を主張する必要があるのだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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