このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

最新ユーザー事例探求 第50回

“データドリブン”へのチャレンジ、グループのデジタルメディア事業を支えるTXCOMに聞く

テレビ東京グループのネット/データ戦略強化に「Talend」採用

2018年05月14日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

無償版Talendから有償版へ移行、チーム開発の効率や安定性を高める

 こうしてTXCOMではオープンソース版のTalendを使い始めたが、およそ2年後の2017年10月、それを有償版の「Talend Data Integration(サブスクリプション版)」へと切り替えることにした。

 有償版への切り替え理由のひとつは、動画配信サービスが順調に成長して、開発要件が増えたためだ。具体的には、これまでの動画再生数やサイトへのアクセス数だけでなく、より詳細な行動データを取得して詳細な視聴者像を推測することで、前述した「広告価値の向上」につなげる動きを始めたからだという。

 「たとえば、ある流入経路からネットでテレ東に来たユーザーがどんな番組を視聴したのか、またリテンション(サイトの再訪率)はどうかといった行動データです。モバイルアプリでは性別や年齢を登録していただいてますが、それだと視聴数全体の半分以下ですので、Webでも行動データから『おそらくこのユーザーは女性だろう』といった推定が正確にできるようにしたいと考えています」

 また開発スタッフも当初の2名から6名に増え、さらに外部の開発会社にも一部作業を委託することになったため、チーム開発の効率を高める必要があった。無償版はチーム開発にあまりマッチしておらず、その点でも有償版にする必要があったと段野氏は説明する。

 「たとえば無償版を使っているときには、成果物のバージョン管理をファイルレベルで行っていました。ファイルをエクスポートして保存しており、個々人で管理していたころはまだよかったのですが、チーム開発になると『この中身なんだっけ?』とわかりづらい。現在はGitで管理できるようになり、チーム開発がやりやすくなりました」

無償版/有償版における作業時間の配分比較(Talend調査による)。有償版により保守や管理/監視が短縮され、そのぶん開発に時間を費やせる

 もうひとつの理由としては、Talend環境の安定化があったという。ネット配信に関するレポートの重要性が高まる一方で開発要件は増えており、開発環境を切り分ける必要があった。

 「従来はサーバー1台で開発環境も本番環境も兼ねており、開発環境が落ちるとタスクスケジューラもダウンするといった問題がありました。有償版への切り替えに併せて、Talendの推奨アーキテクチャである開発サーバー/ジョブ(タスク)サーバー/スケジュール管理サーバーの3台構成にしました。将来的にはテレビ東京グループ全体でTalend環境を使いたいと考えており、ジョブサーバーが複数台必要になってもスケールできるようにしたのです」

 Talendの導入によって、本来求めていた効果は達成できたと段野氏は語った。かつて手作業で1日がかりだった社内レポートの作成は自動化され、現在では朝出勤すればレポートが出来ている状況になった。

 「データを取ってくる、集計するといった部分はなるべく省力化し、そのデータを見てアクションを起こす、PDCAを回すという本業に注力したいと考えていましたので、その目標は実現できました。これまで対応できなかったこと(データソース)はなく、ジョブが一元管理できるのでどこで何のジョブが動いているのかも明解です」

社内、グループ内の「データ活用」を牽引していく立場として

 段野氏は、現在取得している各種データの活用をほかの場面にも拡大していきたいと述べ、現在検討している3つのアイデアを語った。ひとつは前述した「視聴者のデモグラフィック(属性)推定」だ。推定の精度をさらに高めて、価値の高いリアルタイムなターゲティング広告の配信を可能にしていく。

 2つめはセールスにおける「広告枠の在庫予測」だ。これまで人間の予測に頼っていたたため、機会損失が起きていた。過去の履歴データに機械学習を適用することで、こうした予測の精度を高めていく。

 そして、ユーザーに対する「リアルタイムなアクション」に行動データを生かしていくことも考えていると語った。たとえば、モバイルアプリをアンインストールしそうなユーザーを発見して、それを防ぐためのアクションを起こす。そういった用途だ。

 「この3つのアイデアは、現在持っているデータでできるだろうと考えているものです。Talendはユーザーデータや機械学習のコンポーネントも持っているので、Talendを使ってやるかどうかも含め、実装の方法を検討中です」

 同時に、社内およびグループ内への「データドリブンな考え方」の普及も、段野氏らのチームが中心となって促進していきたいとかがる。本稿冒頭の言葉どおり、テレビ業界には視聴率の文化しかなかったが、ネットから得られるデータも活用する文化に変えていきたいのだという。

 「視聴率は限られたセグメントしかなく、しかも過去がどうだったかというデータです。デジタルで(ネット配信で)取れるデータにはこういうものもある、精度も上がっているということを、社内的なマーケティングとしてやっています。理解が進めば、われわれが持つデータ利活用のノウハウをグループ内に横展開していきたいですね」

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事
  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード