2018年2月12日、神戸の三宮で開催された「Alexa Day 2018」に登壇したパルコの林直孝さん。Alexaによる店頭接客プロジェクトはなぜ生まれたのか? コミュニケーション手段の変化やテナント側の人手不足といった課題を解消するため、テクノロジーで接客を拡張する必要があったという。
Webサイトから店舗のIT武装、データ分析までAWSフル活用
1969年の「池袋PARCO」からスタートし、現在「PARCO」と「ZERO GATE/Pedi」のブランドでショッピングセンターを全国展開するパルコ。2018年秋には三宮ZERO GATEが開業する予定で、2019年に建て替え中だった渋谷PARCOも再オープンする。
そんなパルコのオムニチャネル戦略を担当するのが、「アレクサ、パルコをひらいて~ショッピングセンターのAlexa活用のねらい~」というタイトルで登壇した林直孝さん。もともと店舗のマーケティング担当でAWSの導入を進めた経験を持ち、昨年情報システム部と統合されたグループICT戦略室を担当しているという。
林氏が中心になって手がけてきたパルコのAWS導入は多岐に渡る。店舗のWebサイトのほか、スマートフォンアプリ「POCKETPARCO」もAWSで運用。また、店舗のデジタル化という点ではデジタルサイネージへのデータ供給、フリーWi-Fiサービスのログ活用、カメラや温度、降雨検知などのセンサーデータの活用。さらにデータ分析によるマーケティング施策のほか、テナント従業員の教育などにもAWSを利用している。
Alexa導入の背景となった「テクノロジーで接客を拡張する」とは?
今回紹介したのはPARCOの店舗案内に特化したAlexaスキルの開発について。Alexaの日本語対応を同時に発表され、現時点では池袋PARCOのショップやレストラン、取り扱い商品、周辺施設について音声で検索できる。重要なのは、家庭ではなく、店頭でのEcho設置を前提としてAlexaスキルの開発を進めている点だ。Alexa活用に際しては、「テクノロジーで接客を拡張する」というコンセプトの元、B2CとB2B両面の課題を解消する狙いがあったという。
まずパルコとお客様というB2Cの観点では、コミュニケーション手段が大きく変化しつつあるという実態がある。「スマートフォンの登場により、店舗やサービスをいつでも利用できるようにする即時性と検索性がお客様から求められるようになってきた」(林さん)。
もう一方で、パルコとテナントというB2Bの観点では、テナントの人手不足や業務効率化に寄与する必要が出てきているという。林さんは、「労働人口の減少が、われわれのビジネスの生命線ともいえる接客力の低下に密接に結びついてくる。小売業は求人倍率は高いが、労働生産性は横ばいか、あるいは下落する傾向にある」と指摘。テナントが接客に集中できる環境を構築し、販売機会を拡大していくことが、ショッピングモールとして喫緊の課題になっていると説明した。
この結果として生まれたのが、いつでも、どこでも、ショップスタッフとお客様がコミュニケーションできるオムニチャネル構想「24時間PARCO」になる。「店頭に来る前、来た後でも、Webで接客を続けられるようにする」(林さん)ということで、スマホアプリなどを拡充し、オンラインとオフラインが地続きとなるショッピングモールを指向している。
接客を考えればロボットは優秀なパートナーだが……
「Alexa周りの話がなかなか来なくて、申し訳ないのですが(笑)」と断った上で、林さんが次に説明したのはロボットの話だ。パルコでは2015年にソフトバンクロボティックスのPepperを接客に導入し、次の年には多言語対応を進めた。
さらに対話型のPepperと自走式ロボットのNaviを組み合わせた実験も行なった。「お客様がなじみのあるPepperにお店のことを聞くと、そのデータをクラウドに上げ、自走式のNaviiが売り場まで案内してくれる」(林さん)というものだ。
仙台PARCO2のオープン時、1ヶ月間に渡るこの実験では、ロボットの方が人より接客が得意かもという気づきを得たという。有人のインフォメーションカウンターでの対応回数が1日あたり134回だったのにも関わらず、Pepperなどロボットの対応回数は3倍の403回。有人とロボットの接客を設けることで「混み合ったカウンターに問い合わせること」のハードルが高く、接客ロスにつながっていることがわかったわけだ。
今後、有人カウンターを増やすのは難しいため、ロボットを増やすことは判断としても合理的。「ロボットを使えば、今まで人手でやっていた問い合わせの集計も自動化でき、検索も容易になる。ここも非常に大きいポイントだった」と林さんは語る。