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私たちの働き方カタログ ― 第2回

満員電車の経営リスクを認識したオトバンクの社内制度

ストレスフリーを制度化した「満員電車禁止令」導入の背景

2017年09月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/Team Leaders 写真●曽根田元

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その会社にはその会社ならではの働き方がある。みんなの働き方改革・業務改善を追う連載「私たちの働き方カタログ」の第2回は、オーディオブックを手がけるオトバンク。満員電車での通勤を経営リスクととらえ、満員電車禁止令を出した背景を探る。

オトバンク 代表取締役社長 久保田裕也氏

出戻りメンバーに「こんな無駄、まだやっているの?」と指摘されて

 オーディオブック配信サービス「FeBe(フィービー)」を展開するオトバンクが働き方改革に乗り出したきっかけは、スタッフ含めたメンバーが50名を越え始めたほか、エンジニア中心の組織に変えていくという会社の方針変換があったという。

 2004年の設立以来、同社は書籍を音声化して、配信するという事業を手がけてきた。そのため、音声コンテンツの制作や記事化などを行なうメンバーが大半を占めていた。代表取締役社長の久保田裕也氏は「ネット配信という事業なのにエンジニアがほとんどおらず、CTOという役職もなかった。IT化も遅れており、業務の無駄も多かった」と振り返る。

 しかし2014年頃、新卒入社ののち転職し外部で事業売却をした現CTO佐藤氏がオトバンクに戻ってきたことで、会社の課題が浮き彫りになった。「元社員なのでうちの会社のことを理解しているのですが、事業拡大で解消されていると思っていた課題がいまだに解消されていないことに気がついたみたいです。『こんな無駄、まだやっているの?』と言われて、ハッとしました」(久保田氏)。

 メンバーと議論を重ねていく中で、会社の意思決定の仕組みやリモートワークのインフラを見直するようになったという。たとえば、ミーティングは15分刻みで意思決定を重視し、情報共有はSlackに移行。「制作側のメンバーは必ずしもITリテラシが高いわけではないのですが、エンジニアたちがツールの使い方をサポートしてくれたので、便利さを理解するとみんな使うようになりました」(久保田氏)。

 こうした課題の中で会社全体の働き方の見直しだ。もともと、同社の制作メンバーがやりとりしている出版社やアニメの制作会社は、全般的に始業時間が遅かった「午前10時に出社しても、先方は来ていないということも日常茶飯事でした。結果的に仕事が夕方や夜にずれ込み、長時間労働になっていました」(久保田氏)。そのため、まずは比率が増してきたエンジニアを対象にフレックスタイムを導入し、あわせて時間より成果にシフトした人事制度を導入した。「働いている時間より、会社が進む方向性にきちんとコミットすることが評価されるという点を経営側からクリアに打ち出すようになりました」(久保田氏)。

経営者として考えた「満員電車に優秀な社員が巻き込まれるリスク」

 現状、オトバンクのメンバーは、3割が制作、3割がエンジニア、残りが4割が営業やコーポレート系。最初に制度を導入したエンジニアはやはり活性化したという。「長時間労働しているメンバーに比べて、やはりパフォーマンスが全然違いました。シャープな状態で議論できるので、クリエイティブな仕事になりました」と久保田氏は振り返る。こうした経緯を経て、フレックスタイム制とコミット重視の評価制度を制作系の部署を含めた全社に展開し、半年間かけて全社に浸透させていったという。

 こうした働き方改革の中、生まれたのが「満員電車禁止令」だ。いくらフレックスタイムとはいえ、顧客の都合で満員電車に乗らなければならないことも多い。しかし、満員電車は単に生産性や士気を下げるだけではなく、リスクにもなると考えたのがきっかけだ。「自分自身が満員電車にもまれながら、うちの会社の優秀な人がこうした満員電車のために事故に巻き込まれたり、痴漢でえん罪になること考えたら、会社として非常にリスク高いと考えたんです」(久保田氏)。こう考えた久保田氏が「満員電車は基本的に乗らないでほしい」と役員会に諮ったところ、反対がなかったため、制度化に踏み切った。

 やってみたところ、もともとスタートの遅い取引先のクレームはなく、朝早い顧客に関しては可能な限り経営陣が出向くようにした。そして、社員自身ももっともパフォーマンスが上がる働き方を自ら考え始めるようになったという。「定時で出社しないと仕事にならないという人もいるし、朝はめちゃくちゃ弱いので昼に出社して、夕方からエンジンかかるという人もいます。どちらでもいい」(久保田氏)とのことで、経営のレベルで柔軟な働き方を推進しているという。

 とはいえ、リモートワークが最善とは考えていない。「お互い顔を合わせる時間は必要だと思うし、通勤しないで楽と考えて制度に乗るだけの人もいる。でも、リモートワークでパフォーマンスが上がるかどうかは、評価制度できちんとカバーしないと難しい」とのことで、定例の面接できちんと社員とすりあわせしているという。

 続いてチャレンジしているのは、地方での人材登用に向いた制度作りだ。必ずしも人材市場で人気の高いわけではない会社にとって、柔軟な働き方ができないと、優秀な人はどんどん大手にとられてしまう。「3年前くらい、会社や仕事に不満はないけど、子育ては絶対東京ではやりたくないという人が辞めたことがありました。地方に住んでいても、正社員で働ける。成果を出せれば、時間や場所にこだわらず働けるのが理想型」と久保田氏は語る。

オトバンク会社概要

音声コンテンツを中心とした事業を展開し、「聞き入る文化の創造」「目が不自由な人へのバリアフリー」「出版文化の振興」の達成を目指しています。450社以上の出版社様と提携し、主な事業として、日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」でのオーディオブック販売をはじめ、オンラインブックガイド「新刊JP」を中心とした書籍のプロモーション事業や「朗読少女」「朗読執事」を手掛けています。

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