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中年専門ヘッドハンターが明かす「たそがれ社員」の知られざる価値

2017年06月17日 06時00分更新

文● ダイヤモンド・オンライン編集部(ダイヤモンド・オンライン

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ヘッドハンターによると、他の企業に求められる経験と知識を持ちながら自分の価値に気づいていないミドルは数多くいるという(写真はイメージです)

 景気がいいと言われて久しいが、賃金が上がらない。一方で転職する気概もなく、自分は出世ややりがいのある仕事と無縁だと思っている中高年社員もいるだろう。そんなあなたにお伝えしたいことがある。「あなたの市場価値はまだまだあるかもしれない」と。ミドル人材こそ即戦力として必要という風潮が、今、世の中で盛り上がりつつあるのだ。

 これまでエグゼクティブや外資の転職支援策と思われていたヘッドハンティングの業界でも、顧客企業のニーズの変化に伴い、ヘッドハンティング会社は日々様々な業界・企業のミドル社員にアクセスをしている。

「自分なんて……」と言うなかれ。ひょっとしたら、近いうちにあなたのところにも、ヘッドハンターから声が掛かるかもしれない。今回は、ヘッドハンティング業界ではまだ珍しい、ミドル人材の獲得に特化した斡旋を行っているある会社のエース・ヘッドハンターに話を聞きながら、今ミドル人材が求められている時代背景や、ミドル人材の価値について解き明かして行こう。

 もしヘッドハンティングに縁がなかったとしても、あなた自身も気づかなかった自分の人材価値に改めて気づくことができ、仕事で挽回を期す励みになるかもしれない。

今、なぜ企業は
ミドル人材を求めるのか?

 まず、ヘッドハンティング業界に集まる企業クライアントの求人において、今ミドル人材がもてはやされているのはなぜだろうか。

 それは、人手不足や企業成長のスピード化、事業の多角化に対応しなければならない現場で、経験の少ない若手よりも30~40代のミドル層で専門性を持つ人材が求められているからだ。

 だが、壁は厚い。こうした人材が欲しい場合、企業は中途採用を希望する転職希望者の中から選考することになる。とはいえ全労働人口のうち転職活動を行っているのは約5%と、母数が少ない。さらに、転職希望者の中には自身のスキルアップや賃金アップを目的に転職活動を行っている者も多いため、企業が求めるスキルや経験を持った人材が転職希望者と一致せず、ミスマッチが起こりやすいのだ。

 そもそも優秀な人材ほど、現職において役職や待遇面で優遇されているため、転職活動をすることもない。また、現職での役割が重いことに加え、家庭を持ちマイホームのローンを組んでいるなど人生設計が固められつつあるため、なかなか転職に踏み切れない事情もある。

エースヘッドハンターの小杉隆英さん

 こうした現状に目をつけたのが、プロフェッショナルバンクというヘッドハンティングを行う会社だ。日系企業のミドル層(課長・部長クラス)や技術職、専門職などを得意とし、「フルサーチ」という手法で、転職活動をしていない埋もれた有望人材にも目を向け、次世代のリーダーを発掘している。

 同社は、総合人材サービスを行うパソナにいたメンバーが独立して立ち上げた。ヘッドハンティングの世界では後発となるため、競合会社にはないサービスで成長を模索した。今や年間約200社とヘッドハンティングの契約を結び、機械工学系や化粧品といったメーカーで、金融、IT、メディカル部門も得意としている。

転職意志がない人をヘッドハンティング
M&Aより効果があったケースも

 冒頭で述べたエース・ヘッドハンターとは、コンサルティング本部ヘッドハンティング第3部部長の小杉隆英さん。彼が手がけたヘッドハンティングの中には、ある会社で十数年働いていた、転職意思のないスペシャリストをピンポイントで採用した結果、企業が爆発的に成長し、その転職者が担当したサービスが一般消費者に驚くほど普及したケースもあった。そのときは競合他社のM&Aを行うより効果があったという。

 このように他の企業に求められる経験と知識を持ちながらも、転職意志のない人材をどのように探し、さらに就職させることができているのだろうか。「社外秘」の話もあるので全てを明るみにできないということだが、少し話を聞いただけでも、かなり綿密にプランを立てていることがわかる。

 まず、企業からヘッドハンティングを依頼された人物像を基に、リサーチャーと呼ばれる担当者が、業界紙や専門誌などのメディア、企業のホームページ、会社案内などへの露出、セミナーへの登壇や参加者の口コミなど様々な情報を通じて、条件に合う人材を探す。「プロジェクトごとに徹底的に探します」と小杉さん。リサーチには1ヵ月程度かかり、ターゲットを決めてからもリサーチは続く。

 ターゲットが決まると小杉さんの出番となる。小杉さんは全国どこへでもターゲットに会いに行くが、ターゲットに「詐欺ではないか」などと警戒され、会ってもらえないことが多く、苦労も多いという。運よくターゲットと会う機会があれば、まずすることはターゲットに「気づき」を与えることだという。「胸に手をあてて考えてもらえば、転職を考えたことがある人もいますし、就職してしまうとなかなか分からない自分の市場価値を知る機会にもなります」。

 そうしてターゲットに安心感を与え、信頼関係を構築し、企業との面談を重ねて内定となる。依頼から4ヵ月で内定に漕ぎ着ける場合もあるが、案件によっては依頼から半年、長いと1年をかけることもある。

ヘッドハンターが求める
ミドル人材とは?

 気になるのは、小杉さんのようなヘッドハンターが欲しがるミドル人材はどんな人々かということだ。読者も自分にあてはめて参考にしてみよう。

 企業の側からは、「その分野の専門性に加えて、人材の育成の経験、組織を束ねられる人、ビジネスサイドと向き合う、ビジネス目線を持っている人とか、プラスアルファを求めてくる傾向を感じます。そういう人材に入社してもらって事業を伸ばしたいという声が多いですね」

 これまでメーカーの新分野参入の開発責任者や新ブランド立ち上げのマネージャー、IT系の新規事業立ち上げの為の即戦力として、同業他社などから開発課長や商品開発をしていた人材を転職させている。

 企業はお金をかけてヘッドハンティングをするので、当然ながら要望も多いという。しかし、そうしたニーズを全て、あるいは複数満たそうとしてもそんな人材は滅多におらず、ターゲットもなかなか絞り込めない。そのため、小杉さん自身がビジネスパーソンに求めていることはシンプルだ。

「転職市場で市場価値のある人間になるには、目の前の仕事に100%、120%の力で向き合うことに尽きると思います。様々な部署を経験したなどのテクニカルなキャリアの積み方より、目の前の仕事でパフォーマンスを出していれば周囲に評価され、評判も広がります。私たちのような企業は、そういう部分をきちんと見ています」

 これからAIが職場に普及していくことも予想され、ビジネスパーソンには単純作業ばかりでなく、よりスペシャリストに近い仕事が求められるようになる。しかし、だからと言って、人が要らなくなるわけではない。「結局、いつの時代も市場価値としてビジネスパーソンに求められるのは、正直さと信頼できるかどうかだと思います。経営者の中には猜疑心が強い方も多いので、本当に信じられるかどうか、というのが最後の砦になります」(小杉さん)。

 この言葉に勇気づけられるミドル社員も多いのではないだろうか。とはいえ、もし彼らのようなヘッドハンターから声がかかったとして、新しい企業に移ってから理想と違って苦労するようなことはないのか、気になるところだ。ミスマッチということになれば、社員にとっても企業にとっても不幸だ。

企業が人材を選ぶのではなく
転職者も企業を選べる対等な関係

 しかし小杉さんは、マッチングに不安はあまりないという。なぜ、非求職者の転職でも成功するのか。

 まず、転職者の8割がやりがいを重視して転職する点にある。入社までに企業と転職者は面談を重ねるが、彼らがアレンジする面談は、いわゆる中途採用で「企業が人材を選ぶ面談」ではなく、転職者が転職先として相手企業がふさわしいかを見極める面談でもある。転職者と転職先の企業の関係が対等なのだ。そのため入社までに、企業側と転職者は何度も面談を重ねる。

「転職者の入社は一番気を遣うところです。例えば、いきなり転職してマネージャークラスとなれば、元々いた社員との関係が悪くなることも考えられます。ですから、平社員でスタートして、その代わり移籍金という形で前職ぐらいの年俸を確保するケースもあります」(小杉さん)

 稀ではあるが、転職して一時的に収入が減るケースもあるという。ただ、おおむね年収も上がり、さらに「やりがいを求めた転職」なので失敗することは少なく、ヘッドハンティングを経て転職したうち、退職したのはわずか0.3%だという。

 小杉さんはミスマッチが起こりづらい点として、「40代は過去にいろいろな失敗もしたうえでのパフォーマンスなので、そこは大きなメリットです。さらにハンティングで動く人は生半可な気持ちで決断して動く人は少ないので、移った先での覚悟も違う」と分析する。

声をかけられても転職せず
現職に残る決断した人にもメリット

 一方で、ヘッドハンターに誘われても、転職せず現職に残る決断をした人にもメリットがあると、小杉さんは力説する。「転職意志のない方と最初にお会いして、転職先を提示する場合、『贅沢な選択肢としてとらえてください』とお話しします。例え、現職に残ると決めたとしても、もう一方の企業との選択肢を検討した上で、現職に残ってやると決めた覚悟は、その選択肢に触れることがなかったのと比較したときに絶対、充実するはずだというお話はさせていただきます」

 また、個人が自分の価値を高めることは必要だが、企業にとっても、有望な人材を獲得できる「今にあった風土づくり」が重要になる。

「『働き方改革』に通じますけど、リモートワークはものすごく求められています。実現するのは大変ですが、そういう環境を整えている会社は働きやすいし、行きたいって言われる会社になると思います。あとは新卒純血主義ではなく、多様性を受け容れるような社風や組織文化を作っていく会社がいいと思いますね」

 景気が回復したと言われる現在では、一部の名だたる大企業を除き、大企業、中小企業ともに、新卒も中途採用も人材の確保には苦慮しているという。転職意志を示していない層には多くの宝となる人材がいる。企業からの歩み寄りも必要だ。

 いかがだろうか。仕事を生活していくための手段と割り切って毎日を送っている中高年社員の読者諸氏も、目からウロコが落ちるのではないか。自分がコツコツ続けてきた仕事には、もしかすると、自分が想像もしなかったような価値があるのかもしれない。たとえ、ヘッドハンターに誘われる機会にまでは恵まれなかったとしても、周囲の同僚・上司・部下たちは、あなたの仕事ぶりをきっと見ているはずだ。そう思えば、さらに自分の価値を高めるべく、明日から新しい気持ちで頑張れるのではないだろうか。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 小野寺暁子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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