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日本産の「ジン」が海外でブームになると言われる理由

2017年06月16日 06時00分更新

文● 芳賀 真(ダイヤモンド・オンライン

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ジャパニーズウイスキーが国際的に高く評価されるようになって久しい。海外のコンペティションでも数々の賞を重ね、世界中の愛好家から注目される存在となった。そんなジャパニーズウイスキーの代名詞ともいえるサントリーとニッカが今年、相次いでプレミアムジンへの参入を発表。両社とも、山椒や柚子など日本ならではのボタニカル(植物)を使った「ジャパニーズジン」をこの夏発売し、海外展開も視野に入れる。「ジャパニーズウイスキー」に続き、「ジャパニーズジン」が世界を席巻する日は来るのだろうか。(ジャーナリスト 芳賀 真)

2017年は
日本の「クラフトジン」元年

 サードウェーブコーヒー(厳選された豆で一杯ずつ丁寧に入れるコーヒー)からクラフトビールまで、小規模生産者がつくる「クラフト」なプロダクツが話題を呼んでいる。「クラフト」に明確な定義はないが、マスプロダクツとの違いは単に生産量だけではなく、造り手の「こだわり」や「個性」といった意味合いで使われることが多い。大量生産された「工業製品」へのアンチテーゼとしての「クラフト」、つまり職人の技術力や品質へのこだわりといったコンセプトが、今の気分に刺さるのだろう。

 世界的なクラフトムーブメントの中で、次に注目されているのが「クラフトジン」だ。イギリスでは、2009年創業の「シップスミス」が伝統的な銅製小型蒸留器を使用し、スモールバッチ(少量生産)でジンの生産を始めて大ヒット。その後クラフトジンが世界的なブームとなり、新規参入者が急増している。

 そんな中で、日本でも昨年10月、岡山「宮下酒造」が国内初の試みとなる樫樽貯蔵の「クラフトジン岡山」を発売。同月、日本初のクラフトジン蒸溜所「京都蒸溜所」が製造する「季の美 京都ドライジン」が発売になった。今年4月には、焼酎大手の本坊酒造がジャパニーズジン「和美人」を発売。さらに、サントリーとアサヒが相次いでクラフトジンへの参入を発表し、6月末にはアサヒから「ニッカ カフェジン」が、7月にはサントリーから「ROKU」(ロク)が発売となる。

「ジャパニーズウイスキー」は既に、世界でも確固たる地位を築き上げている。日本の代表的なウイスキーメーカーであるサントリーとニッカの「クラフトジン」参入は、世界的にジンブームが盛り上がる中、海外の愛好家からも注目されている。大手2社の発売を機に、日本でも「クラフトジン」が話題になりそうだ。

なぜ「ジン」が
ブームになりそうなのか

 ところで、なぜ今、「ジン」なのか。大きく分ければ、三つの理由がある。

 まず、ジンは「個性」を出しやすいお酒だ。

 熟成年数に規定があるウイスキーやサトウキビを原料と定めるラム、生産地の規定があるテキーラと違い、ジンはベースとなるスピリッツから使用するボタニカル(ハーブやスパイス、果皮、根など)まで、製造工程における自由度が高い。

 例えば、伝統的なボタニカルであるジュニパーベリーやコリアンダーシードに加え、オリーブやバジル、白樺や菩提樹の葉、クランベリーからキュウリ、バラの花に至るまで、その土地由来のボタニカルを使うことで、造り手や生産地の個性と独自性を際立たせることができる。

 日本なら、柚子やスダチのような和柑橘や、山椒や生姜といった日本古来のハーブを中心に、玉露や煎茶、桜花から檜まで、日本ならではのボタニカルを使うことでジャパニーズジンとしての個性を打ち出せる。さらにベーススピリッツでも、お米から作られるライススピリッツや麹仕込みのスピリッツなど、日本らしさを感じさせるものが多く使われている。

 次に、飲む側の愛好家にとっても「違い=個性」を味わう楽しさがある。

 もともと「ジントニック」や「ギムレット」「マティーニ」など、カクテルベースに使われることが多かったジンだが、「違い」がわかりやすいクラフトジンは、ストレートやロックでもその個性を楽しむことができる。

 ライフスタイルの細分化が進む中、「個性」は最大の武器だ。作り手の情熱や個性の立ったアイテムへの共感、価値観や感性をシェアする楽しさ。さらに、クラフトジンにはSNS受けしそうなスタイリッシュなパッケージが多いのも強みだろう。 

クラフトジンにはSNS受けしそうなスタイリッシュなパッケージが多いのも強み

 最近の「意識高い系女子」に人気のオーガニックアイテムなどを扱うコスメキッチンが主催したフェアでも、スーパーフードやオーガニックコスメが並ぶ中、アメリカ・シカゴ発のジン「KOVAL」が華やかなブースを設けてジントニックを紹介。ジンと聞けば敬遠しそうな女性たちが、次々に立ち寄り、写真を撮り合う姿が見られた。

「おじさんの飲み物」だったウイスキーが、「ハイボール」という飲み方提案で市場を広げ、ラムもまた「モヒート」という飲み方で一気に浸透した。ソーダで割れば、ハードルは一気に下がる。ジンもまた、ソーダやトニック割りで飲まれることが多く、アレンジもウイスキーやラム以上に多彩だ。ジンを構成する要素でもある「ボタニカル」は、ファッションやインテリアでもトレンドワードである。

 ビールが苦手でも、クラフトビールなら飲めるという女性も多い。クラフトジンも、「ジン」というカテゴリーを超え、「ファッション」や「気分」で楽しまれる可能性が高い。

ウイスキーの
原酒不足も一因

 三つ目の理由だが、ジンは大手のウイスキーメーカーにとっても「都合のいい」お酒であるという点だ。

 そもそもウイスキーとジンのつながりは深い。

 ジンはウイスキーやコニャックと違って熟成の必要がなく、製造後すぐに出荷できるため、新規参入の障壁が低いだけでなく、ウイスキーを寝かせる間の収入源としてジンを作る蒸留所も多い(ちなみに「マッサン」でおなじみのニッカの竹鶴政孝は、ウイスキー事業が軌道にのるまでリンゴジュースを販売していた)。昨年オープンした京都蒸溜所の仕掛け人はクラフトウイスキーを多く扱うインポーターであり、将来的にはウイスキー生産も視野にあると見る関係者は多い。

 今回、サントリーとニッカがジンに参入したのも、ウイスキーの原酒不足が一因としてあるだろう。前述したように、ウイスキーは需要が高騰したからといって、ビールのようにすぐ出荷できるものではない。1980年代をピークに市場が縮小する中、ウイスキー原酒の仕込み量も減少したが、ハイボール人気やテレビドラマに加え、海外への輸出も急増する中、国産ウイスキーの原酒需要はひっ迫している。

 国産ウイスキー市場は、サントリーとニッカの2社で約9割を占める。今回、両社から発売されるジャパニーズジンは「プレミアムレンジ」だが、サントリーはジン「ビーフィーター」を「ビーフ(牛肉)+イーター(食べる人)」との語呂合わせから、焼き肉店などの肉料理業態向けに"肉専用サワー"としてジントニック(=ジン+肉)で仕掛け、ニッカは「ウヰルキンソン・ジン」をリニューアルした。ウイスキーの出荷調整が厳しい昨今、今後は「ジン」が新たな戦場になりそうだ。

海外では日本酒よりも
「ジン」がウケそうな訳

 イギリスでは昨年、パブでのジン消費量が2割増となり、国内販売額も5年間で4割増を記録した。日本でもこの10年ほど横ばいだったジンの輸入量が、昨年は8%増加している。

 1000円以下のブランドが過半数を占めるジン市場だが、伸び率で見ると昨年は日本でも3000円以上のプレミアムレンジが前年比1.5倍と大きく拡大。先行する「季の美」は5000円と強気な値付けにもかかわらず、発売3ヵ月で3万本を販売した。イギリスの酒類専門誌「ザ・スピリッツ・ビジネス」が選ぶ「2016年 最も革新的な商品」で1位を獲得し、欧米やアジア市場への輸出も開始。今年は9万本の生産を予定する。

「ニッカ カフェジン」も4500円、サントリーの「ROKU」は4000円と、ノンエイジウイスキー(年数を表示しないウイスキー)と変わらない価格レンジだが、クラフトビールと同じく、価格が高くても味や製法にこだわったお酒を楽しみたい人は確実に増えている。

 そもそもジンは、熟成のコストがかからない分、ウイスキーなどのプレミアムスピリッツと比べ、価格面で優位性がある。さらに、日本人ならではの繊細な味覚や感性と、「ものづくり」にこだわる職人気質の伝統など、世界的評価につながったジャパニーズウイスキーで培われた資産は、ジャパニーズジンにも活かされる。

 興味深いのは、ジャパニーズジンの多くがボタニカルをグループごとに別々に蒸留し、ブレンドして作られることだ。多様に作り分けた原酒をブレンドして作るジャパニーズウイスキー的なアプローチといえよう。

 サントリーの「ROKU」は、海外展開を視野に入れ、アメリカの子会社ビームサントリーと共同開発した「ジャパニーズジン」だ。ニッカが同社の特許技術で山椒や柑橘の香りを引出した「カフェジン」も、9月から欧米市場での発売を予定する。

 和のボタニカルを使ったジャパニーズジンは、世界的ブームとなっている和食との親和性も高い。

 日本酒は海外でも人気だが、産地や造りなどがわかりにくく、海外市場どころか日本人にもまだ理解されているとは言い難い。輸送や保存にはワイン同様、繊細な気配りも必要になる。一方、ジンはウイスキー同様、国際市場ですでにカテゴリーとして確立しているし、スピリッツ類は流通も容易だ。なにより、日本では「とりあえずビール」だが、海外では「ジントニック」から夜が始まる。日本市場にとって今年が「クラフトジン」元年であるなら、世界市場では「ジャパニーズジン」元年となるのかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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