このページの本文へ

日本マイクロソフトがISV向けにSQL Serverへの移行支援

Oracleのライセンス変更に悩むISV、日本MSが取り込み施策

2017年04月14日 07時00分更新

文● 羽野三千世/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 日本マイクロソフトは4月12日、ISV(独立系ソフトベンダー)パートナー向けの「Microsoft SQL Server/Azure SQL Database」移行支援策を発表した。Oracle製データベース(DB)に特化した業務パッケージを開発しているISVをメインターゲットとして、パッケージのSQL ServerやAzure SQL Database対応化を条件に最大300万円相当の支援メニューを無償提供する。

 Oracle製データベースについては、ライセンス体系の変更、保守費用の値上げなどが続き、ユーザー企業やパートナー企業の間で混乱が生じている。現行のライセンス体系では、AWSやMicrosoft Azureなど他社クラウドのIaaSへOracle製DB環境を移行すると、ライセンス費用がオンプレミスでの利用時よりも高額になるケースがあり、クラウド化を検討する際の悩みの種になりがちだ。

日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 業務執行役員 本部長の佐藤久氏

 日本マイクロソフトでは、Oracleのライセンス方針変更に困惑するユーザーをSQL ServerやAzureへ取り込むべく、2016年4月から、OracleからSQL Serverへ移行するユーザーを対象にライセンスを特別価格で提供してきた。このOracle対抗施策は「大変効果があった」と同社 クラウド&エンタープライズビジネス本部 業務執行役員 本部長の佐藤久氏は言う。「現在国内で80件以上、OracleからSQL Serverへの移行案件が走っている」(佐藤氏)。

 さらに、「最近になって、従来Oracle製DB専用のパッケージを開発してきたISV16社から、マルチDB化を検討しているとの問い合わせがあった」(佐藤氏)。そのような背景から、同社は今回、ISV向けにOracleからの移行支援策を打ち出したという。

 具体的には、SQL Server、Azure SQL Database、Azure SQL DWH関連サービスに自社パッケージを新規対応するISVに対して、各種事前評価(OMA、AMA)、PoC/性能検証/開発支援、パフォーマンスチューニングやトラブルシュートの情報提供、マーケティング協業などの支援メニューを提供する。通常は有償で提供している支援メニューだが、対象ISVは最大300万円相当分まで、好きなメニューを組み合わせて無償で利用できる。

ISV向けのSQL Server/Azure SQL Database移行支援施策

パッケージDBでOracleのシェアをとっていく

 日本マイクロソフトが、国内で業務パッケージを提供しているISV360社を対象に、パッケージが利用するDBを調査した結果、SQL Server/Azure SQL Databaseが50%、Oracle製DBが30%、その他が20%だった。

パッケージデータベースの国内シェア(日本マイクロソフト調べ)

 同社では、まずOracleの30%のシェアを狙い、移行の第1ステップとしてオンプレミスでのSQL Server対応/移行を促す。「パッケージデータベースをSQL Server対応化しておけば、その後、AWSやAzureへの移行が容易になる」(佐藤氏)。第2ステップでは、ISVが顧客のオンプミス環境に導入したシステムをAzureのIaaSへ移行する支援を行う。最終ステップとして、パッケージデータベースとしてPaaSのAzure SQL Databaseの利用拡大を図る。

 今後3年間で、パッケージデータベースにおけるSQL Server/Azure SQL Databaseのシェアを60%まで拡大するのが経営目標だ。また、現在のマイクロソフトのシェア50%のうち、Azure SQL Databaseは2%ほどしかない。佐藤氏は、「2020年までにAzure SQL Databaseの収益比率を40%程度まで拡大したい」と述べた。「Oracleとの比較においてパフォーマンスでは1件も負けておらず、コストは従来からマイクロソフトの方が安かった。さらに、データベースの中で脆弱性が一番少ない」(佐藤氏)。

富士通、SCSKがSQL Serverを新規採用

 富士通は、中堅製造業向け生産管理システム「PRO-NES」の新版リリースに合わせて、同システムのデータベースにSQL Serverを新規採用した。

 PRO-NESは1994年から提供しているシステムで、これまでに国内とアジア地域で2187件の導入実績がある。これまで20年以上にわたり、データベースにOracleを利用してきたが、2017年第2四半期リリースの最新版から、SQL Serverに切り替える。

 富士通 西日本ビジネスグループ グローバルビジネス本部 生産ソリューション事業部 ソリューション推進部長の大河内渉氏は、「94年当時の比較では、Oracleのほうがパフォーマンスに優位性があった。ここ数年、Microsoft SQL Serverが高性能になり、コストメリットも出てきた」とデータベース移行の理由を述べている。

 さらに、「クラウドのニーズが増えている。ハイブリッドクラウド環境に対応する必要がある」(大河内氏)として、PRO-NESをAzure上に展開する計画も明らかにした。AzureのIoT、Power BI、機械学習などのサービスと組み合わせて、PRO-NESに新しい価値を加えていきたいという。

富士通 西日本ビジネスグループ グローバルビジネス本部 生産ソリューション事業部 ソリューション推進部長の大河内渉氏

 SCSKもまた、これまでOracle製DBのみに対応していた小売業向けCRMパッケージ「eMplex」をマルチDB化し、新たにSQL Serverのサポートを開始する。SCSK 流通システム第三事業本部 流通・CRMサービス部 副部長の西谷友宏氏は、「適正な価格で、高度なセキュリティを提供している」とSQL Serverを評価した。

 「eMplexを利用する小売業はコストに厳しい顧客が多く、顧客DBのセキュリティを高めたくてもなかなか投資に踏み出せない。最新のSQL Server 2016 SP1では高度なセキュリティ機能が標準で提供されるようになった。これは大きな魅力だ」(西谷氏)。今後SCSKは、eMplexをAzure上に展開し、Azureの各種PaaSを活用して機能強化していく計画だ。

SCSK 流通システム第三事業本部 流通・CRMサービス部 副部長の西谷友宏氏

Oracleのライセンス方針変更の影響は小さくなかった

 実際に、Oracleのライセンス方針変更は、ISVのビジネスに少なからず影響があったという。富士通の大河内氏は、「Oracleのライセンス費用はパッケージにバンドルしているわけではないので、顧客はデータベース料金値上げの影響を直に受ける。高くなったという声が多く、マルチDB化は顧客からの要望だった」と述べた。

 また、業務システムのクラウド化を検討する際に「選択肢がほしい」というのがユーザー企業の要望だ。Oracle製DBにはOracleクラウドの選択肢があるが、前述のように他社クラウドへの移行にはライセンス費用の壁がある。「SQL Server環境は、展開先のIaaSとしてAzureもAWSも選択できる。実際に、PRO-NESの展開先IaaSとしてAWSとAzureの両方にニーズがある」(富士通の大河内氏)。「小売業の顧客が検討するクラウドはこれまでAWSが中心だった。最近はAzureへの関心も高まっている」(SCSK西谷氏)。

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード