日本では「au」ブランドのモバイル事業で知られるKDDIですが、海外でも事業を展開しており、そのひとつがデータセンター事業です。今回、KDDIがロンドンに増築したデータセンターを全面開業するというタイミングで、内部を見学するイベントに参加しました。
KDDIが英国インターネットの要に
KDDIが世界に展開するデータセンターのブランドが、「TELEHOUSE」(テレハウス)です。欧州ではロンドンやパリ、フランクフルトのほか、米国、中国、トルコ、ロシア、南アフリカ共和国、そしてもちろん日本にもデータセンターを置いており、グローバルに展開しています。
その中でもTELEHOUSEのロンドンには、英国のインターネットエクスチェンジである「LINX」が入居しており、英国全体のトラフィックの70%がここを通過しているのだとか。まさに英国インターネットの要をTELEHOUSEが支えているといえます。
もちろん英国にはBT(ブリティッシュ・テレコム)など歴史ある通信事業者が存在しているものの、当初は自社のユーザー向けにしかデータセンターを提供してこなかったようです。これに対してTELEHOUSEは、どのキャリアとの接続もOKという中立さを売りにすることで、現地での勢力を拡大したという経緯があります。
データセンターのPUEとして1.16を実現
今回、KDDIはTELEHOUSEロンドンにNorth、East、Westに続く「North Two」を増築しました。その特徴が「PUE=1.16」というエネルギー利用効率の高さにあります。
PUEはデータセンターの電力利用の効率性を表す指標で、データセンター全体の使用電力のうちサーバーやストレージなどIT機器が使う電力がすべてを占める場合、PUEは1.0になります。しかし、実際には冷却のエアコンが使う電力などもあり、それらを効率化していかに1.0に近づけるかが課題になっています。
そこで最新設備を誇るNorth Twoが採用したのが、「間接外気空調システム」です。筆者は実際にデータセンターの中を見てきましたが、すでに顧客のラックが稼働中ということもあり、内部の写真撮影は不可。そのためKDDI提供の写真と動画の資料を利用しますが、ほぼ見てきたとおりです。
まず、データセンターの室内に並ぶラックには、ファンから排出される暖かい空気が内側に集まるようサーバーやストレージを搭載する、ホットアイル方式を採用しています。
ラックから排出された熱気は、外気によって冷やされます。ここでは熱交換器を用いて、空気を交えることなく熱だけを交換しているとのこと。外気温が35度を超えた場合は空気の吸い込み口に水を吹き出すことで外気を冷やし、気温37度まで対応可能としています。
こうして冷やされた空気は再びデータセンターの室内へと戻され、壁面からひんやりとした風が送り込まれていました。
東インド会社時代のエキゾチックな空気も
TELEHOUSEロンドンがあるドックランズは、英国で1980年代にサッチャー政権のもとで再開発が進められた地域です。道路の名前は「ローズマリー・ドライブ」「ナツメグ・レーン」など香辛料で統一されているのが特徴。これは実際にイギリス東インド会社が香辛料貿易で使った倉庫の跡地に由来しているとか。
当時の香辛料貿易は、東南アジアから喜望峰を回り、欧州まで何ヶ月もかけて船で運ばれていました。そこから数百年の時を経て、瞬く間に大量のデータが出入りするデータセンターへと生まれ変わったことに、数奇な運命を感じずにいられません。
英国はEUからの離脱を国民投票で決めた「Brexit」が話題ですが、今後の見通しは不透明な状況にあります。しかしKDDIとしてはこれまで25年間に渡って投資を続けており、今後もデータセンターを利用する顧客とともに成長していきたい、との方針でした。