省電力・長距離通信のメリットを実証実験で検証

IoT時代のラストワンマイルを担うLoRaWANの実力とは?

大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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7月13日に行なわれたソラコムのプライベートイベント「SORACOM Conference “Discovery”」では、IoT向けの通信技術「LoRaWAN」に関するセッションが用意された。LoRaWANの技術概要はもちろん、ソラコムの戦略や実証実験の結果などが披露された興味深い内容だった。

低消費で長距離伝送が可能なLoRaWANの概要

 IoT/M2Mの通信方式であるLoRaWANは免許を必要としない「LPWA(Low Power Wide Area)」の規格の1つになる。今年の4月、ソラコムはこのLoRaWANを促進するM2B通信企画への出資を発表。M2B通信企画はM2Bコミュニケーションに社名変更し、ソラコムと共にIoTのラストワンマイルとしてLoRaWANのビジネスを推進している。ソラコム代表取締役社長の玉川憲氏から紹介を受けたM2Bコミュニケーションズ代表取締役の田中雅人氏は、LoRaWANの技術概要について説明した。

M2Bコミュニケーションズ代表取締役 田中雅人氏

 IoT/M2M向けの通信は、免許を必要とする高速な通信方式と免許を不要とする低速なLPWAの通信方式の大きく2つに大別される。このうち免許不要な920MHzを用いるIoTの通信方式としては、LoRaWANのほか、スマートメーターなどで採用されている「Wi-SUN」や50kmという伝送距離を誇る「SigFox」、WiFi Allianceが手がける「HaLow」などの規格が乱立している。

 このうちLoRaは、乾電池で数年稼働するという超低消費電力、5~15kmという通信距離、そしてLoRaWAN Allianceという業界団体で仕様が策定されるオープン性が大きな売りになるという。一方で、伝送距離とのトレードオフにより、通信速度が50~980kbpsにとどまるのが弱点。現状の日本の規格(ARIB T.108)にあわせると、4.4秒で送信できるユーザーペイロードは最低11バイトにとどまるという。

乱立するLPWAの技術とLoRaWANの強み

 LoRaWANは、LoRaモジュールからの通信をLoRaゲートウェイを介して、ネットワーク上のLoRaサーバーに上げるという構成になっている。また、プロトコルに関しては、LoRa MACと呼ばれるシンプルなMAC層と、FKS変調をベースとする物理層が用意されており、各国のレギュレーションに柔軟に対応できる。

 とはいえ、MAC層として設けられているクラスA(基本)、クラスB(ビーコン)、クラスC(連続)のうちクラスBは、国内での仕様が固まってないとのこと。こうした仕様に関しては、M2Bコミュニケーションズがコントリビュート・メンバーとして参加するLoRa Allianceで日本規格の策定に貢献していくという。

LoRaWANのプロトコル

実証実験も実施!見通しがあれば長距離伝送は可能

 ソラコムはこうしたLoRaWANの実証実験を全国複数箇所で開始している。

 まずは酪農ITベンチャーであるファームノートによる実験で、牛にGPSとLoRaモジュールを取り付け、放牧中の牛の導線をトラッキングするというもの。十勝しんむら牧場の約2kmをカバーし、牛の動きを地図にマップすることができた。

ファームノートでは牛の導線をLoRaWANでトラッキング

 サントリーシステムテクノロジーは秋葉原中心に都心部でのLoRaの電波距離を測定。将来的には自販機の売り上げデータとの連携を検討しているという。また、沖縄ファミリーマートでも宜野湾の店舗にLoRaゲートウェイを設置し、普天間基地周辺で電波距離を測定。こちらも基地周辺の2km圏内をカバーできたという。

 さらに九州通信ネットワークでは宮崎でフィールド実験を行ない、橋梁のひび割れや傾きなどをセンサーで計測するモニタリングシステムの構築を目論んでいる。イベントでは九州通信ネットワーク サービス開発部の松崎真典氏が登壇し、実証実験の内容を説明した。

九州通信ネットワーク サービス開発部 松崎真典氏

 九州通信ネットワークのLoRaWANは光ファイバや3G/LTEが届かない電波不感地帯での橋梁監視を想定しており、山奥の橋梁でも測定データを送受信できる仕組みを構築するという。6月末日のフィールド試験は、市街地にある宮崎市の高松橋と山間部にある高千穂市の下田原大橋の2箇所で行なわれた。橋の近くにLoRaの親機、車にLoRaの子機を載せ、両者でどれだけ遠くに飛ぶかを調べてみるというものだ。

電波の届かないところのラストワンマイルとしてLoRaWANを検討

 雨の中行なわれた高松橋の実験では、当初、橋の中に親機を設置したが、コンクリート越しの通信だったまったく通信は無理。しかし、橋の下の車に親機を固定し、もう1台の車にある子機と通信させたところ、見通しのよいエリアでは良好な通信が可能になったという。川沿いは遮蔽物がないため、開けていることもあり、結果的には橋から約3.8km離れた地点でも通信できた。雨の中での通信は問題なかったが、車で移動しながらは難しいという結果が出たという。

橋の下の車にLoRa親機を固定。もう1台で移動しながら距離を測定

見通しがよい川沿いなので、最長で3.8kmまで届いた

 一方、山間部の下田原大橋の実験もやはり雨。橋にLoRa親機を設置し、車内の子機を設置し、移動して調べたところ、山をはさむと通信が行なえなかった。とはいえ、見通しのよい山と山の間で通信したところ、約5.8kmまで届くことがわかった。

橋にLoRa親機を固定。もう1台で移動しながら距離を測定

見通しがよければ、5.8kmまで届く

 こうした実験の結果、九州通信ネットワークではLoRaWANの特徴である省電力で遠くまで届くという点はきちんと実証できたという。一方で、見通しのよいところに親機を設置するなどエリア設計が重要になるほか、移動しながらの通信は超低速の場合にとどまることも明らかになった。

PoCキットの提供でLoRaWANの実証実験を促進

 こうしたLoRaWANの実証実験を推進するため、ソラコムでは「SORACOM LoWaWAN PoCキット」の発売の受付を開始した。PoCキットには、LoRaモジュール10台、LoRaゲートウェイ1台(屋内/屋外対応)、SORACOM Air1枚のほか、ゲートウェイ設置サービス、LoRa開発キット 利用トレーニング(1日集合研修)やコンサルティングなどが含まれており、M2Bコミュニケーションズ、ウフル、レキサス、クラスメソッドの4社から提供される。

LoRaWAN PoCキットの中身

 今後、ソラコムは既存の3G/LTEとLoRaをシームレスに使えるプラットフォームを目指すという。すでにLoRaモジュールをWebコンソール上で扱えるようになっており、収集したデータはSORACOM BeamやSORACOM Funnelでクラウドに送り込むことが可能になっている。

 IoTのラストワンマイルを担う手段としてLoRaWANを選択したソラコム。実証実験を見る限り、省電力・長距離通信という謳い文句は嘘ではないようで、IoTの適用範囲を大きく拡げる技術だと感じられた。今後はチップのコストや低速通信でのソリューション開発という課題が出てくるだろうが、今後各所で行なわれるであろう実証実験を継続的に見守っていきたい。

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