クリス・アンダーソンが「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」を上梓してから巻き起こったメイカーズムーブメント。インターネットやデジタル技術の発達により少数、あるいは個人でも製造が容易になったことは知っている人も多いだろう。
実際言葉としては定着し、ベンチャー企業や個人で製作したモノを目にする機会が出てきたと私は感じている。だが、MAKERSがどんなプロセスで製作しているかを知ることは少ない。
果たしてMAKERSはどのようにモノづくりをしているのか。ウェアラブルロボットで有名なきゅんくん、巨大重機「SUPER GUZZILLA」のプロジェクトリーダーであるタグチ工業の田口 博章さん、博報堂アイ・スタジオの川崎 順平さんが集まったトークイベントが開催されたので、MAKERSの一端を紹介したい。
自己紹介でまず紹介したのはそれぞれがどんなものを製作してきたか。きゅんくんは自身の作品「METCALF」、田口さんはSUPER GUZZILLAを挙げつつエピソードを交えて説明。
興味深いのは博報堂アイ・スタジオの川崎さんだ。
川崎さんのチームは学生を含めて7~8人で、製作する際は「メンバーが次これやろうかなとSlackに投稿して勝手に作り始める」という。クリエイター集団のようだが当然企業なのでなんでもかんでも作っていいわけではなく、川崎さんがストップをかける場合もあるという。そのときの判断基準は「未来的に使えるもの」。
ここで特徴的なのは作り始めで熟考や会議を重ねることはなく、とりあえず作って動かし、失敗に気づくというプロセスを取ること。「ここが製造とMAKERSの大きな違い。MAKERSは失敗が許される」と川崎さんは話す。
製作後に見返すタイミングも設けている。「作ったときはいいと思っているけど、あとあとイマイチだと思う場合が出てくる。だから3ヵ月ごとに投票するシステムにして、クオリティーが上がってくるといいなあと思っている。数だけ作っても仕方ないので、意味と将来性があるものにしていきたい」という。投票の結果、製作をやめる場合もある。
また同じく3ヵ月で作る数のノルマを設定している。「たとえば10個作るとして、1人が1個製作しても残りのメンバーが9個作ればそれはOK。ただ、数は割らないようにしている」。ノルマを決めることで、製作中のものをバージョンアップさせるか違うことをやった方がいいのかという議論にもつながるそうだ。川崎さんはそうした議論をチームの良さだと考えている。
さらに作り始めは緩く見えるが終わりのスケジュールは決める。「スケジュールを長めにするとクオリティーが上がるかというと、そういうわけでない。最後の方は2~3日徹夜が続くこともある」。具体的なスケジューリングは言わなかったが、おそらく製作者がぎりぎり生きられる程度の期間なのだろう。
時間に対してきっちりしていて、3ヵ月で良し悪しを判断できるプロダクトを製作する速さに驚くが、きゅんくんもタグチ工業も作るのが速い。
田口さんが言うにはSUPER GUZZILLA製作は2ヵ月だったそうだ。Oculus Riftで遊べるようにしたり、ハッチの中を精巧に作り込んだことを考えると驚異的だ。きゅんくんもAKB48のライブで使うウェアラブルロボットについて期間こそ明言はしなかったが「納期が短かった」と振り返る。
誰もが容易にモノづくりをしやすくなったということは、スタートラインがみんなほぼ一緒で、アイデアを最初に実現できて成功した人が勝者になりうる。ということはスピードが重要。それを登壇した3人は知っているのだろう。
もちろんクオリティーの高さも必要だ。川崎さんも「MAKERSなら2日で1個モノを作れると思う。でもクオリティーが伴ってないと意味がない」と話す。だがおそらくここでクオリティーに時間をかける、という時間の長さは大企業とは異なるだろう。
大企業は十分なコストと体力があるので、会議と時間をかけて大きいものをゆっくり作る。だからいいものができる(はずだよね?)。MAKERSは少数でやるメリットを生かしてスピードをもってガンガンいこうぜ、というスタイルでよさげなものをアップデートしていっていいものにしていく。スピードを持った人たちがMAKERSなんだと感じさせるトークイベントだった。