ヤマハのネットワーク機器20周年を記念して、システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く電撃文庫の異色作『なれる!SE』とコラボ! スペシャル短編を全7回にわたってお届けするぞ。楽しく読めてヤマハのことをもっと知ることができる内容になっているので、ぜひチェックしてね!
3回目はこちら
登場人物
室見立華
実力のあるネットワーク系のSEだが十代にしか見えない少女。四六時中仕事をしているワーカホリックでツナが大好き。
桜坂工兵
知識も経験もないシステム開発会社に就職した新人社会人。教育係である室見のもとで激務に追われる日々。
橋本課長
立華たちの顧客である業平産業の課長で、仕事のできるクールなキャリアウーマン。工兵の飲み友達でもある。
さていよいよルーターの製造現場にご案内します。こちらはヤマハミュージックエレクトロニクス社の袋井工場です。RTX3500、RTX5000といったハイエンド機器の基板を作っているんですよ
ハイエンド? じゃあ小さなルーターはまた別のところで製造しているんですか
ええ、基本はもうあらかた国外生産になっていますね。RTX810、RTX1210などの普及機は中国の蘇州工場(ヤマハエレクトロニクス蘇州)で作っているんですよ。あとNVR500のようなVoIPルーターも蘇州生産ですね
なぜハイエンド機器は日本で作っているんでしょう? 他と同じように海外で作ってしまえばと思うんですが。集約効果も上がりますよね?
確かにコストの面だけ考えれば仰る通りですが、まぁ理由についてはおいおい説明していきますよ。とりあえず実際の製造ラインを見ていきましょうか
はい。……あの? 桜坂さん?
え? あ、はい。どうしました?
いえ、何かひどく気もそぞろな様子なので。先ほどレストランを出てからずっとですが、大丈夫ですか?
も、もちろん大丈夫ですよ。なんの心配もありません。さて、じゃあグランドピアノの製造工程を見に行きますか!
いえ、ここはルーターの基板工場ですが……
え? あ、そ、そうですよね。ちょっと言い間違えました。なんか言葉の響きが似ていますよね!
……(似ていない)
(あああもう、室見さんが気になって説明が頭に入ってこない。なんかさっきからすごい目つきしてるし。鼻息も荒くなってるし。工場の機械、壊したりしないよな。何かあったら僕が身を挺して防がないと)
(とはいえ説明も聞かないと失礼だしなぁ。……はぁ)
*
こちらはAI(Auto Insertion=自動挿入)と呼ばれる工程です。必要な部品を機械が自動的に選択して基板に取り付けていくんですよ。だいたい秒間6〜7個のスピードで実装されています
(室見をちらちらうかがいながら)部品? なんかリール状のテープが読みこまれているようにしか見えませんけど
桜坂さん、これはテーピングといって部品のパッケージなんですよ。見て下さい。細かいピンつきのパーツが等間隔に封入されているでしょう?
ああ、本当だ。リールからテープを送ってどんどん部品を取り出していっているんですね。なるほど、うまくできてる……って、橋本課長、よくご存じですね?
一応、業平は電子部品の商社ですから。この手の物は見たことがあるんですよ。ピンのついていない部品はまた別の機械で取り付けるんですよね?
はい、半田を使って糊付けするSMT(表面実装)は次の工程ですね。どちらに使う部品もだいたい規格化されていますから、ほとんど機械で取り付けられますよ。一部、規格外の部品については後工程のMI(Manual Insertion)、すなわち手作業で取り付けます。人間と機械の力をうまく組み合わせて基板を作っていっているんですよ
そのあたりはピアノ製造の時と同じですね。これはヤマハさん独自の仕組みなんですか?
いえ、大まかな流れは基板工場であればどこも同じです。ここの工場が独特なのは生産性アップのために各種ITを取り入れてるところですね
たとえばこれ、生産スケジューラと呼ばれる画面なんですが、各ラインの状況が帯グラフのような形で分かるようになっています。横軸が時間で縦軸が生産ラインですね。で、進捗が遅れているとこんな感じでアラートが出るわけです
管理者が状況を把握しやすいわけですね
はい、やばそうだと思ったらすぐヘルプに飛んでいけるわけです。で、この画面は各作業者のタブレットと連携しています
タブレット?
市販のiPadですよ。作業者は自分の端末に完了した作業・時間を入力していくんです。するとこの画面にデータが反映されます。ほら
おー。なるほど、これならいちいちメンバーにホウレンソウを求める必要もないですね
ええ、定時連絡やレポート作成の手間が大幅に省けます。昔はこれを紙でやっていましたから、大幅に稼働が削減できたわけです
まさにIT化の恩恵ですね
無駄な稼働や待機時間を徹底的になくす。我々はこれをF1のピットクルーになぞらえています。問題発生。全員かかれ! 完了! ってな感じで(笑)
そしてもう少し方法論として確立させたら、我々はこのやり方を海外の工場にも展開していくつもりです。いわばグローバルの生産効率化のテストケースなわけですね。で、この手法が展開し終えたらまた次の試みも始める予定です
あ、じゃあひょっとしてこの工場だけ国内にある意味って
はい。先進的な取り組みを続けていくためです。通信機器だけでなくデジタル楽器、PA機器といった音響系についても同じです。いわば袋井はヤマハ・サウンドネットワーク事業のマザー工場なんですよ
おおお! なるほど、そういうことですか。世界に広がる技術の、ここが出発点なんですね! ほら室見さんも、いつまでもぶーたれてないでちゃんと聞きましょうよ。すごいですよ。ここはヤマハさんのマザー牧場なんです!
(マザー工場ですが……)
……
あれ? ちょっと室見さん?
!? な、なによ桜坂! 突然目の前に現れて。びっくりするじゃない!
いや、ずっとそばにいましたけど。どうしたんですか、ぼうっとして
ぼうっとなんかしてないわ。言われなくてもちゃんと聞いてたわよ
(……っとに、ありえないわ。こんなの、信じられない)
はい?
な、なんでもないわ。ほら、前向きなさい。ヤマハの人、待ってるわよ
あ、すみません
次、行っても大丈夫ですかね?
はい、お願いします
(なんか室見さん、変なテンションだなぁ。ピリピリしてるけど怒ってるわけじゃなさそうだし、暴れたり暴言吐いたりもしないし……んんん?)
*
お疲れ様でした。というわけで出来上がったルーターのカタログがこちらですね。実際にはここで作られた基板が磐田の豊岡工場に運ばれて組み立てられるわけですが、まぁひとまず完成品のイメージということで
(パラパラめくりながら)RTXシリーズですかぁ。昼ご飯の時、RT100iはかなり革新的な製品だって分かったんですけど、これも結構有名な製品だったりするんですか?
(ゲシッ!)
!? け、蹴られた? あれ、誰が? なんで?
……
まぁ何をもって有名と言うかですけど、ヤマハのRTXシリーズは日本のSOHO市場でシェアナンバー1ですよ。だいたい累計で三百万台以上出荷されてますね
え!? そ、そんなにたくさん? 本当ですか?
ある意味、多拠点WANのデファクトなんじゃないでしょうか。中小企業の拠点ではインターネット接続ルーターにも使われていますし
そうだったんですか……(知らなかった)。でもなぜ? 何か機能的に競合の機械より隔絶していたりするんですか?
ふふふ、そのあたりは次の見学場所でお話ししましょうか。そろそろ桜坂さんにも里帰りしていただきたい頃合いですし
え? あ、じゃあ
はい、お待たせしました。次の目的地は浜松、ヤマハ本社です
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