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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第51回

不可能と思われた“中学生総獲り”を実現する“ガンダム超え”タイトル

『モンスト』アニメがTVではなくYouTubeを選んだ理由

2015年11月01日 12時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII.jp

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2年後に向けて“おまじない”するアニメの世界と
2時間に1度“通知表”が返ってくるアプリの世界

―― たしかにアニメの世界で、IT業界ではよく見かける“ユーザーインタビュー”を催す機会って、滅多にありませんね。

平澤 超リッチだと思います(笑)。僕たちが普段やっているのは、通販サイトのランキングを見て、折れ線グラフを書く。それをにらみながら、2年後ぐらいに放送されるアニメを製作しているんです。

 その時間感覚って、ゴルフにたとえると、いわば“グリーンが高速移動しているコースでティーショットを打つようなもの”で、ボールが飛んでいったときにはグリーンの位置が変わっていたりするんですよね。

 そんなこともあって、企画会議では、数年経っても変わらない、5~10年前にも流行っていた“普遍的なもの”に企画の骨子がどうしても寄っていってしまうんです。時代の気分に寄り添う、みたいなことはなかなかできません。

 もちろん、そういったアプローチが成功することもあるんですが、成功したタイトルにも上手くいかなかったタイトルにも、なにがしかの普遍性はあるわけで、『もうこれはおまじないに近いなあ』とすら感じられることもあります。

 今回はまったく逆で、2時間に1度“通知表”が返ってくるアプリの世界で成果を残してきた方々と組むわけです。ということは、僕たちアニメ側が如何に寄り添えるか、という勝負になってきます。

―― ある意味試されている。7分の作品が毎週土曜日に配信される、その結果を逐一見ながらストーリーや展開を変えていくこともある?

平澤 まさに(PRIDEの煽りPVの)「やれんのか?」って話ですよね(笑)。

イシイ 全然ありですね。

木村 ありというか、僕からするとそうしない意味がわからない(笑)。モンストの運営と一緒ですよ。僕は“運営型のアニメ”と位置づけていますし。イシイさんとも“終わらない物語”を紡いでいこうと言っています。モンストは終わりを決めずに運営しているのだから、モンストのアニメも同様です。

―― そうすると、最終回もない?

イシイ ドラマの区切りはいくつかありますが、話としては終わりません。でもドラマを見せるというのも本来のゴールではないわけです。モンストのプロモーションが目的ですから、プロモーションが終わらなければ、新しい敵や仲間などの要素が出てきて主人公達はそれらと向き合っていくでしょう。

 どうしてそういうことが可能かといえば、ストーリーがゲームデザインベースになっているからです。

ゲームデザインベースでアニメを作れば
フレキシブルなプロモーション運用が可能

平澤 従来のアニメって割り算で作っているんです。タイトル全体でドラマのうねりが作られて、各話ごとに盛り上がりが設けられて、感動させて……っていう具合に。ゲームデザインベースというのは、幅がある、つまりバラエティー番組の構成台本に近い。

 バラエティー番組もいわば“終わらない物語”ですよね。マンガ連載も基本そうでしょう。そういうタイプのコンテンツだと、キャラクターの配置は決まって、シリーズ構成もこうなるだろう、というベースは決まっている。でもそこにどんなストーリーを当てはめていくか、どの部分を切り取って映像化していくかは確定させないままに作っていくことができるんです。

―― ええと、水戸黄門みたいな感じですか?

イシイ それとは似て異なりますね。

平澤 あれは反復ですが、モンストは反復ではないです。

イシイ ゲームデザインとストーリーが別々に独立しているんですよ。ストーリーがゲームデザインを“利用”する形なので、ストーリーは変わらなくていい。ゲームデザインという土台の上にストーリーが乗っているので、そこに現われるモンスターやイベントが変わっても、物語とは独立性があって、運営できる幅があるんです。

―― ストーリーラインは定まっているけど、ゲームの要素がそこに自在に入り込める。

イシイ そのためのすき間が沢山設けてある、ということですね。ただ、“主人公を殺す”みたいなことが運営上起きるってことではありません(笑)。どんなモンスターなのか、どれくらい強いか、どんな戦い方がベストか、といったことについては、物語とは別線です。

 たとえればブロック型になっている。そういう構成を作れるのは、僕がゲームデザイナーだからだと思っているんです。ストーリーベースだと、「ここでこんなイベントが起こると破綻するよ」となるけど、そういうことにはならないようになっています。

―― ゲームに登場した敵が、即座にアニメにも反映される。アニメで活躍したアイテムが直ぐにゲームで入手可能になる。それもアニメによって、“あの場面でああいう風に使っていたアレ”という具合に、よりユーザーがうれしい形での提供が可能になる……。

平澤 ゲームデザインベースのストーリーだから、その同期が取りやすい、ということですね。

木村 あとは発表会でお披露目したPVですが、いろんな参加型の要素が入っています。たとえばハッシュタグでモンスターの名前を呟くと、そこで人気のあるモンスターがアニメに出てくるという展開があったりします。YouTube自体、動画へのコメントという形でコミュニケーションを取れることが、NetflixやHuluとの差別化ポイントでもあるわけです。

 しかもユーザー自身が動画を投稿できる。それってまさに対話だと思っていて、その対話を常に続ける――つまりインタラクションを追求するゲームあるいはインターネットから発想したアニメと言えるかもしれません。

(次ページでは、「「金閣寺と銀閣寺からわかる文化の話」)

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