墨田区立中川小学校で9月1日、ICTを活用した避難訓練が実施された。
訓練の狙いは、大地震発生時の避難方法を的確に理解して安全に行動できるようにすること。富士ソフトの「みらいスクールステーション」を利用し、低学年も素早く状況を察知できるよう、避難誘導にスピーカー音声だけでなく、視覚情報を組み合わせたのがポイントだ。
ICTは災害時の避難をスムーズにしてくれるだろうか。
富士ソフトの学校ソリューションを活用
中川小学校は、校地面積4925平方メートル、校舎面積3893平方メートルほどの規模で、205名(平成26年度)の児童が通う。
避難訓練は、震度6の東京直下型地震を想定。緊急地震速報を職員室の受信機が受信し、全校のスピーカーとテレビで児童に周知。各教室の児童の安全確保、迅速な情報共有、円滑な保護者への引き渡しという流れで実施された。
ポイントは、児童への周知や情報共有にスピーカーだけでなく、教室や玄関のディスプレイで映像を流し、避難誘導に視覚情報を利用した点だ。
それを実現したのが、富士ソフトの「みらいスクールステーション」という製品。教室などのテレビに手のひらサイズの「メディアボックス」を接続することで、サーバーから動画・写真・音楽・PDF・デジタル教科書などの教材コンテンツを配信できる。各教室ではリモコン操作でこれらコンテンツを扱える手軽さから、全国の公立322校、私立47校、実証実験校14校で導入済み。横浜市では市立中学校の70%で導入されているという。
教材コンテンツ配信機能のほか、連絡事項を校内に一斉配信する「電子掲示板」(オプション)や、カメラ映像を校内にライブ配信する「校内放送」といった機能も備える。
当日の避難訓練はこれらの機能を組み合わせて実施された。
みらいスクールステーション |
視覚情報を組み合わせた避難誘導
職員室で緊急地震速報が受信されると、「地震がきます。先生の指示に従ってください」という放送とともに、自動で教室のテレビの電源がオンとなり、緊急メッセージが表示された。
子どもたちは速やかに机の下に。揺れが収まると「先生は児童の人数を報告してください」と放送が流れ、先生が職員室に報告。その結果も「みらいスクールステーション」を通じて配信され、全教室の確認状況がリアルタイムにテレビに表示された。
1年生の教室 | 地震発生。教室のテレビに注意喚起が表示された |
机の下に一次避難 | 揺れが収まったら防災頭巾を装着 |
今回の訓練では揺れがすぐに収まったという想定で、体育館などへの実際の避難は省略。代わりに教室のテレビに防災教育ビデオを流し、地震時の注意事項を学んだ。「いのちは1つだからだいじに」「あたまをまもる」「ぼうさいずきんをかぶる」――1年生からはそんな意見が出た。
教室のテレビで防災教育ビデオを閲覧 |
自宅で災害にあったときに気をつけるべきことも学んでいた | ビデオから学んだことを発表しあっていた |
それが終わると、今度は校長先生のライブ映像がテレビに映し出された。こうした校内放送を簡単な設備で実現できるのが「みらいスクールステーション」の特長で、大掛かりな放送室が不要になる。
ライブ映像を通して校長先生から訓示 | 校長室にセットしたビデオカメラで撮影した動画をライブ配信している |
「体育館側の階段を利用してお子様の教室までおいで下さい」。下駄箱のある玄関先にあるテレビには、保護者への案内が表示されていた。各教室で児童の引き渡しが済むと、およそ1時間の避難訓練は終了した。
玄関先のテレビに保護者向け案内を表示 |
各教室で児童の引き渡し | 保護者とともに帰宅した |
今回の避難訓練で感じたことは――。テレビに情報を映せるということは、災害時に避難経路や注意事項を表示しておける。音声で案内しても、それは一度きりで、聞き直したいときに聞き直すことができない。そういう意味で視覚情報は有用だということだ。
校長の関本淳氏も「従来はスピーカーだけで案内していたが、どうしても聞き取れないことがある。特に低学年の児童は、視覚からはいる情報に敏感なため、視覚的に情報を伝達できるのは効果的。」と、この仕組を導入した理由を述べている。
みらいスクールステーションは、教材コンテンツを配信して授業に活用する例や日常的な校内放送に利用する例が多く、今回のように災害時の避難に活用しようという試みは珍しいそうだ。
気象庁「緊急地震速報」や消防庁「Jアラート」と連動し、自動でIP告知を受信する機能もあり、迅速に“伝わる情報”を伝えるという意味では、シンプルだが効果的なのかもしれない。