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TOKYO AUDIO STYLE 第1回

「いい音」を探る楽曲制作プロジェクト

有名5人組アイドルが歌う、本当にいい音で作るプロジェクトがASCII.jpで開始!!

2014年12月22日 21時00分更新

文● 荒井敏郎 企画/構成●荒井敏郎
写真●Yusuke Homma(カラリスト:芳田賢明)

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対談──現在の音楽CDのあり方に対する疑問

与田 僕は音楽CD自体は嫌いではないですけど、聴き比べるとプレスの初期はダメですね。中期くらいの80年代終わりから90年代前半の音源は圧倒的に音がいい。レベルが全然小さいから突っ込んでないんです。マスタリングという作業の初期は、レベルを稼ぐマスタリングではなくて、音質調整のマスタリングで、その時代はほんとによくて、Earth, Wind & Fireの「黙示録」というアルバム以上に音がいいCDはこれまで聴いたことがないですね。レンジ感や音圧感が素晴らしいです。

 Earth, Wind & Fireを手がけたジョージ・マッセンバーグ という人に興味があって、彼のところまで行って話したことがあるんです。そのとき彼が言っていたのは、「耳で聴いてよければいい」ってことです。耳で聴いてレベルを上げたいところを上げていって、ひずまないならそれでいいていう考え方ですね。日本のエンジニアとまるっきり違う。今回、編曲やリミックスは松井 寛に頼むんだけど、松井くんはジョージに似ているところがあるなと思いますね。松井くんが書き出してくる音は、レベルが小さくてそのままだと波形が見えないんですよ。最近はインポートすると短冊みたいな波形の人が多いんですけどね。

小島 レベルが上がりすぎているわけですね。

与田 はい。そうすると、歌を入れるスペースないじゃんってなり、結局、フェーダーで音圧を下げて、歌のスペースを作るケースがほとんどなんです。その中で松井くんの音っていうのはすごく理にかなっています。ヘッドルームをいかに作るかっていうのは音作りですごく大事。音のスペースの取り合いですからね。特にデジタルになってから、音圧レベルを上げてもノイズが出ないんですよ。だからどんどん上げられてしまう。アナログの場合は、上げすぎるとノイズが出るのでそんなことはなかったんですけどね……。

ヘッドルーム:機器で記録可能な最大の信号の大きさと、実際に録音する音のピークとの間の余裕のこと。 ヘッドルームが足りないと音のピークで歪みが発生する

小島 空いたスペースに音を足していくわけですからね。今回制作する楽曲は、各楽器音のダイナミックレンジがちゃんと確保されているものがいいなと思っています。ダイナミックレンジを小さく圧縮したものを寄せ集めて、最終的になんとなく広く見えるものを作るというのではなくて、ちゃんと各楽器のソロトラックを聴いても成立している音であるというのが理想ですね。そうなっていないと、例えばCDのカラオケトラックを聴いたとき、全部できあがってからボーカルだけ抜いているので違和感を感じることがあるんですよね。

ダイナミックレンジ:識別可能な信号の、最小値と最大値の比率のこと。信号の情報量を表すアナログ指標のひとつ

与田 そうかもしれませんね。

小島 歌が入っている完成盤ではちゃんと聴けていた音が、カラオケだとバランスが不自然になってしまっているんです。

与田 マスター・フェーダーというものがあって、最終的な音量を決めるんですけど、全部まとまったものをコンプレッサーやリミッターに通すことによって音圧を上げたりしています。ボーカルが抜けると音のバランスが変わるので、リミッターへの当たりも変わるんですよね。結局、歌が大きいものは歌がそこに当たるんですよ。それがなくなると当たるものがなくなってしまうので、歌が入っていた音源とカラオケの音源がまったく違うものになってしまうと思います。

小島 それを求めるなら、カラオケ専用の調整が必要ということですね。

与田 そうですね。

小島 元々、今回の話をスタートするときに、まず「アイドル」というジャンルを選びましょうとなったんです。なぜかと言いますと、「アニソン」というジャンルがあるじゃないですか?

与田 はい。

小島 アニソンには音質を大切にしたレーベルが増えてきていまして、オーディオとの親和性が近くなっているんです。そこが、うちのようなメーカーの再生機器で聴いてもユーザーさんが満足できる、音質というか音のバランスを持ったCDを出してくれはじめたんですね。それがウケて、オーディオ界ですごく広まってきているんですよ。アニソンとアイドルはマーケットは違うとは思いますけど、ただ、どちらも聴く人の年齢が決して低くないこともあり、昔、本格的なオーディオを聴いていた経験のある方も多く、いまの音質に疑問を持っていると思うんです。

 ただ、今回お願いするガールズグループの楽曲は元々ファンの間でも音質が評価されていて、うちの再生機器で聴いても十二分に「聴ける」んです。これをオーディオの再生用に最適化することが、今回のプロジェクトとして成立するのか、という不安は若干ありますけどね(笑)。

与田 オーディオは僕も大好きなんだけど、誰に合わせて音を作っているんだろう? と現場で思うことはありますね。サラウンドって言うのが流行したときに、5.1chのシステムをここに何台も並べて5.1ch用のミックスをしたんですけど、何人の人が5.1chのシステムをきちんとセットアップできているのか疑問で……。また、映像の場合には絵があって音があるんですけど、絵と音にはタイムラグが出るんです。それがメーカーによって違うんですよ。ソニーの製品に合わせるとパナソニックでズレるとか……。だからマスタリングのときにオフセットなどで微妙にズラしたりして、どのメーカーで見ても何となく大丈夫なところを見つけてたりしたんですよね。

 でも、パッと見てズレているって気がつくのは1万人にひとりくらいで、それが前にズレているのかうしろにズレているのかわかるのはさらに1万人にひとりくらいだと思うんです。そんなことのために、スタジオ代を払うのが無駄ですよね。今回の企画ともちょっとリンクしていて、マスタリングのエンジニアさんは怒るかもしれないけど、マスタリングは一般向けにしか意味がないというか……。マスタリングはものを届ける真空パック屋さんって感じなんですよ。

小島 どういうリスニング環境を想定して音を作るのかっていうのは、今回のメインの話になると思いますね。いまはいろんなスタイルで聴く人がいるため、平均だと感じる部分も広がってきていて、それによって両端の人にはまったく合わないものができあがってしまっています。ポータブルプレーヤーとかヘッドフォンユーザー向けに音を作られてしまうと、うちのようなハイエンドオーディオ機器での再生には合わなくなってきているんです。そこで今回は、逆にハイエンドオーディオ向けに音作りをしたらどうなるのか? といったものを検証できたらなと思っています。

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