過去の経験を踏まえてレビューとテストを繰り返す
「AKB48 ついに公式音ゲーでました。」のアプリが公開されたのは2014年5月だが、企画がスタートしたのはほぼ1年前。2013年12月頃に設計やインフラ構成などを固め、企画チーム、インフラチーム、アプリチーム全てにまたがりミーティングを重ねながら開発を進めたという。
同社は以前からオンラインゲームをリリースしていたが、過去の経験を生かして準備に取り組んだという。「従来のやり方ではインフラとアプリとで責任分担が分かれていたが、ユーザーから見れば、ゲームの品質はどちらの責任であろうが関係のない話。そこで今回はきちんと連携しようと試みた。開発側ではキャッシュやデータベースなどのインフラに対し数回レビューを重ねたし、逆にインフラ側もデータベースのプログラムの書き方から、設計がどう変わると困るのかといった要望を共有した」(武川氏)。バグトラックシステムを用いたチケット管理に加え、顔と顔を突き合わせてのコミュニケーションを通して問題意識を共有していった。
このプロセスでは、技術者だけでなくディレクターも参加する形で、互いに落としどころを作っていったという。「パフォーマンスだけを優先してばかりでは、今度はゲームとしての面白さがなくなる。そのあたりを、どうギリギリまで攻めるか議論していった」(武川氏)。
2014年3月頃から、今度は負荷試験が始まった。「考えられるすべてのシナリオを作って、あらかじめパフォーマンスのボーダーラインを定め、その基準にみんなが納得した上でテストした」(武川氏)という。なかには根が深く、すぐには解決が難しかった問題も含まれていたため、基準100%とまではいかなかったけれど、「96%は合格」(武川氏)したそうだ。
初のネイティブアプリであることから、セキュリティ面でも新たな取り組みを行なった。「端末側にプログラムが入ることから、データ改ざんなどの可能性も従来のソーシャルゲームよりも高いだろうと考えた。そこで外部のセキュリティ専門会社に依頼し、擬似的な攻撃をしてもらって、そこで出てきた致命的な問題はリリース前に全部つぶした」(武川氏)。今後も、こうしたセキュリティ監査は継続的にやっていく必要があると感じているという。
こうした取り組みの中で、クラウド基盤の選定も進めた。「今までは1社だけに相談していた。しかし今や多数のクラウドベンダーがあり、技術的にも過渡期で競争も激しいことから、RFPを作成し、6、7社でのコンペティションを依頼した」(武川氏)。機能やコスト、サポート内容等を加味し、他のゲームサービスでの経験があったこともあってIDCフロンティアのサービスを採用することにしたという。ちなみに、「『ゲーム会社でこういうコンペティションを行なうケースは珍しいです』と言われた」そうだ。
「最初の設計」が重要 リリース後の手間を減らせる
一連の経験を通して武川氏は改めて、「大事なのは最初の設計だ」と痛感したという。「設計でつまずくのは、たとえるならば、タイヤがパンクした車でスピードを出そうとしている状態。そもそもタイヤはどうあるべきかという初めの設計こそが重要だ。そこがしっかりしていれば、多数のユーザーが訪れたとき、同じ処理でも一万倍速かったりする」(同氏)。スピード感を出しつつ、しっかり設計するというバランスが、今回のアプリではうまくいったと振り返る。
曽羽氏も、「まだまだナレッジを貯めている段階だが、設計に重きを置くことの重要性が分かった。『AKB48 ついに公式音ゲーでました。』は、初のネイティブアプリということもあって、負荷やセキュリティ面でのテストを念には念を入れていった。そこでやはり分かったのは、最初の基礎設計が重要だということ。土台がしっかりしていれば、サービスリリース後の手間を減らすことができる」と述べる。
ストラテジーアンドパートナーズでは引き続き、ゲームとしての面白さとパフォーマンスのバランスを取りながら、サービスの改善に取り組んでいくという。「ユーザーが体感する『軽さ』を出す取り組みも鋭意進めている。コンテンツの見え方は同じでもちょっとずつ圧縮比率を変え、荒くなりすぎない程度に軽くしたり、任意のキャッシュクリアを入れてアプリサイズを軽量化するなど、遊ぶ際の『重たさ』を改善し、もっと遊びやすくなる環境作りを進めていく」(曽羽氏)。「イベントやアップデータによって、データ容量は右肩上がりになっているが、それがユーザーにとってストレスになることはあってはならない。新しいリリースについてはインフラ側もレビューするようなワークフローを作り、今後も改善に努めていく」(武川氏)という。
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