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ポルシェ16万台はVW470万台とほぼ同じ営業利益を稼ぎ出す

2014年12月15日 07時00分更新

文● 長谷川正人(Masato Hasegawa)

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 世界の自動車業界で年間販売台数1000万台前後を争っているのは、日本のトヨタ自動車、米国のゼネラル・モーターズ、ドイツのフォルクスワーゲングループ(フォルクスワーゲン)の3社です。
 フォルクスワーゲン傘下には売上高に占める割合の大きい「VW」、「アウディ」「ポルシェ」など12車種(乗用車とスポーツカーが8、商用車が3、二輪車が1)のブランドがあります。フォルクスワーゲンの名前を知らない人はいないと思いますが、アウディやポルシェがフォルクスワーゲンの子会社であることは、自動車業界の関係者以外ではあまり知られていません。

 フォルクスワーゲンの財務データは見る機会はあまりないでしょうが、フォルクスワーゲンは財務分析の入門にうってつけの企業です。最大の特徴は、「セグメント情報の開示レベルが充実」していることです。ブランド別に販売台数や売上高、営業利益まで細かく開示しており、どのブランドがグループ全体の売上高や利益にどれだけ貢献しているのかが分かります。トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーで、フォルクスワーゲン以上に細かい情報を開示している企業はありません。セグメント情報に着目して財務データを見るとフォルクスワーゲンの意外な一面が見えてきます。



VWで台数と売上高を、アウディとポルシェで利益を稼ぐ

 フォルクスワーゲンとトヨタは、販売台数でも売上高でもほぼ互角です。フォルクスワーゲンの2013年12月期の販売台数は973万台、売上高は27兆1870億円、トヨタの2014年3月期の連結販売台数は1013万台、売上高は25兆6919億円です。しかし、事業別セグメント情報を見ると、両社の収益構造の特徴が鮮明になります。

 ブランド別に見ると、「VW」ブランドはの販売台数470万台、売上高は13兆7168億円で、いずれも連結業績のほぼ50%を占めています。VWは文字通りフォルクスワーゲンの基幹ブランドなのです。

 ところが、VWの営業利益率は過去3年間で3~4%と低く、しかもやや低下傾向です。営業利益は毎年4000億~5000億円程度で、連結営業利益約1兆5000億円のうち、VWの貢献は25%程度に過ぎません。

 VWに次いで二番目に連結業績に貢献しているのが「アウディ」ブランドです。アウディの年間販売台数は130万~150万台とVWの3割程度ですが、利益には大きく貢献しています。アウディの営業利益率は一貫して2ケタを保ち、営業利益は毎年約7000億円とVWを大きく上回っています。利益で見ると、フォルクスワーゲンの稼ぎ頭はアウディなのです。

 「ポルシェ」ブランドは2012年8月からフォルクスワーゲングループ入りしました。通期での業績が連結決算に反映されたのは2013年12月期が初めてです。ポルシェの販売台数は16万台と少ないものの、世界中で圧倒的なブランド力を背景に営業利益率は18.0%と大変高く、営業利益3559億円はVWの3994億円に迫ります。年間470万台も販売するVWと、年間わずか16万台の販売に過ぎないポルシェの営業利益がほぼ同額という事実は、事業別セグメント情報を読み解くことで初めて分かります。

  フォルクスワーゲンの名前を知っていても、多くの人はどれくらい自動車が売れているのか、さらにVW以外にどのようなブランドがあるのかは分からないでしょう。ところがセグメント情報に着目して財務諸表を見ると同グループにはVWの他にアウディ、ポルシェなどのブランドが傘下にあることだけでなく、おのおのの売上高や利益貢献度合いまで分かるのです。このようにセグメント情報に注目して財務諸表を見ると、企業の真の姿が見えてきます。


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