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モバイルの未来は「バッテリー」にかかっている

2014年07月23日 16時00分更新

文● Adriana Lee via ReadWrite

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イノベーションは忘れよ。結局バッテリー問題を解決しないかぎり、何もできないのだ。

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私は未来に生きている。私の体、ポケットや家は様々なスマートガジェットに彩られている。今や生活に関わるほぼすべてのことを言葉、ジェスチャーやタップで操ることができるのだ。クールで刺激的な体験だ。少なくとも、電源ケーブルという制限さえなければ、そう言えるはずだ。

バッテリー問題は、未来の生活を垣間見る、その楽しさを奪ってしまう。スマートフォンやウェアラブル端末を充電し忘れたり、予備バッテリーとケーブルを家に置き忘れたりしてしまうだけで、私は大昔の「繋がっていない」時代へ引き戻されてしまうからだ。

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なんとも厄介なことだ。イノベーションのスピードが上がっていく一方で、バッテリー技術は後れを取っている。各企業はこのギャップを埋めようと懸命に働いているが、いつまでも応急処置的手法で凌げる訳ではない。そうこうしているうちに、進化を続けるデバイス、アプリ、アクセサリには今以上の携帯性が求められるだろう。バッテリー問題は今のところ一時のイライラで済んでいるが、近い将来には致命的問題になってもおかしくないというわけだ。

バッテリーに依存する時代が来るとすれば、問題は山積みだ。

タイムスリップ

家を出ると私のスマートフォンはスマートホームに照明を切るよう命令する。スマートウォッチはメッセージの受信を振動で伝える。重要なメッセージではないので、私は歩き続ける。体が軽い。フィットネスバンドのおかげでよい睡眠をとれているからだ。でも、急ぐ必要はない。スマートフォンによれば、バスは7分遅れている。時間ができたので、Bluetoothイヤホンをタップして友人からの電話に出る。

私はあらゆる物と驚くほどに繋がっている。そして、私の行動の中心にあるのがスマートフォンだ。

Revolv

Revolv社のスマートホーム・ハブとモバイルアプリ

やがてバッテリーが尽きると、私は1989年へと放り込まれるのだ。道端の地図を見て、通行人に道を尋ね、数少ない公衆電話を探して電話をかける。喫茶店に入る。この店ではPayPal決済ができるが、今はアプリが使えない。そしてコーヒー1杯のために小銭を探して鞄の中をまさぐるはめになる。やっと家に着いても、スマートホームにそれが分かるはずもない。私は暗闇の中を手探りで進み、すねをぶつけながら、照明のスイッチを探すのだ。

私はこういったことをしょっちゅう経験している。たいていは家の近くまで来てからなのが、せめてもの救いだ。海外旅行者の場合はTSAの新基準のせいで、もっと酷い目に遭っているだろう。

旅行者はアメリカに入国する際、セキュリティ・チェックの前にガジェットの電源を確認される。検査の際にスマートフォン、タブレット、電子書籍端末等の電源を入れることができないと、彼らは入国できないことだってあり得るのだ。

そんな事態があなたにも起こるかもしれない。飛行機に乗るためにスマートフォンを捨てるのか?フライトに遅れるリスクを冒してまでコンセントを探し、充電するのか?チェックを通った荷物に充電ケーブルを入れてしまっていたらどうするのか?どれをとっても大変なことだ。そしてこれがバッテリー技術の現状であることは、大多数の人が同意してくれるだろう。

バッテリーなくして携行性なし

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私は充電アダプタ、ケーブル、外部バッテリーを1つ(旅行時は2つ)持ち歩くことが多い。

予備バッテリーは必要だが、イヤホン、スマートウォッチ、フィットネスバンド、電子書籍端末、タブレット、モバイルルーター、ラップトップ等の充電作業にもう一手間加えることになってしまう。私のiPhoneはデジタルハブとなっているので特に注意が必要だ。

アップル製スマートフォンのバッテリー容量は、現行モデルで2007年の初代から12パーセント増加している。最初のiPhoneが1400mAhだったのに対し、現行のiPhone 5Sは約1570mAhのバッテリーを搭載している。iPhone 5SはサムスンGalaxy 5Sの2800mAhという大容量と比べると貧弱に思えるかも知れない。しかし大型Androidデバイスは大型バッテリーに合わせて消費電力の大きい5.1型画面を採用しているため、実質的には大差ないのだ。また、アップルは消費電力を考慮し、iOSソフトウェアを最適化した。だからこそ、iPhoneのバッテリー使用量推測はここまでの正確さを長期に渡って保っているのだ。Retinaディスプレイが導入されプロセッサがますます強化されていることを考慮すると、これはなかなか印象的な話だ。

だが、その改善も現実世界では大して意味をなさない。確かにアップルは消費電力を考慮してソフトウェアを最適化した。例えば、iOSは一定時間使用されないバックグラウンド・プロセスを停止する機能をつけたのだが、それでも私のiPhoneが一日ももたないことに変わりはない。私がiPhoneで大量のガジェットを使用するヘビーユーザーだということは認めよう。しかし、IT業界が思い描く、この「繋がっている」世界が本当に実現するならば、誰しもバッテリーに悩まされることになるだろう。

iPhone 6世代で2種類の大型モデルが出ると噂されている。4.7型画面1800mAhバッテリーと5.5型画面2500mAhバッテリーのものだ。それが事実だとしても、問題の改善にはならないだろう。大型スマートフォンは、消費電力も面積も大きい画面を使用するものなのだから。

一方で、大画面志向のAndroidはモバイルソフトウェアの最新バージョンで何らかの改善を見せることができるかもしれない。Nexus 5スマートフォンとNexus 7タブレット向けにAndroid Lのリリースが控えており、これに使用時間を約36%延ばす節電機能Project Voltaが同梱されるのだ。

これがモバイルテクノロジーの現状だ。バッテリーの進歩が追いつかず、企業は使用可能時間をできるだけ延長しようと策を講じているのだ。

バッテリーはウェアラブル端末にとっても厄介な問題

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バッテリー使用可能時間はウェアラブル端末の分野ではより重大な問題となりうる。ウェアラブル端末の小さいボディーに巨大なバッテリーなど詰め込む余地はないのだ。

そのため、Pebble等の企業は妥協策をとった。Pebble社のスマートウォッチは電力効率のよい電子ペーパー画面を採用し、充電1回あたり4日から7日間使用可能になったのだ。LG等、問題を直視していない企業もあるようだ。実際、LGはG Watch(Android Wear搭載スマートウォッチ)に機能的で見栄えのよいフルカラーの1.5型タッチパネルを採用した。そして残念なことに、このスマートウォッチは約1日半でバッテリーが切れてしまう。

Shine、Ringly、Jawbone社のUP24のように、データ表示をモバイルアプリとスマートフォンに任せて、画面自体を持たないウェアラブル端末もある。

これらの無線通信機器は、少なくとも旧式のアクセサリほど酷くスマートフォンのバッテリーを消費するものではない。Bluetooth Low Energy (BLE)はそれほど頼もしい出来だ。旧式のBluetoothプロファイルは、接続状態をキープするためにスマートフォンのバッテリーを大量消費していた。しかしBLEが登場してからは、各デバイスが短時間のバースト通信で連携可能になり、効率が改善している。

BLEがバッテリーを節約してくれるとはいえ、実際のところバッテリー使用可能時間が延びたり、スマートフォンに繋がるガジェット数が増えるわけではない。それを可能にするものはたったひとつしかない。次世代バッテリーの登場だ。

バッテリー問題、現状打破の糸口は?

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技術者と科学者は次世代バッテリーの開発に奮闘している。興味深い視点で突破口を開いた者もいる。ただ残念なことに、製品としてはごく少数しか消費者まで届いていない。

グラフェンで改良したリチウムイオン電池は大量のエネルギーを、より小さく、軽い形で安定して詰め込むことができる。シリコン・ビーズは、現行のスマートフォンに搭載されているリチウムイオン電池の容量を拡張できることが分かっている。マイクロバッテリーはアノードとカソードの働きを再構成することに成功し、その結果、小さいながらも強力なモバイル向け電池を実現した。

現在、研究者たちは空気極技術に夢中だ。この手法は低コストでバッテリー使用可能時間を2倍にすることができる。一方で、カーボン・ナノチューブと他のナノチューブ技術の研究も継続中だ。こちらは電池を顕微鏡レベルで物理的に再構成することで性能と寿命を向上させるものだ。

バッテリーの仕様変更を試みるプロジェクトがある一方で、単に現行のリチウムイオン電池の性能向上を望むプロジェクトもある。シリコンスポンジは、独立電源として機能する非常に薄いウルトラキャパシタ・シートを備え、性能向上の手段となることが分かっている。

素晴らしい話だ。では、そんなバッテリーを採用したデバイスはどこで買えるのだろう?その通り、売っていないのだ。これらの技術は現時点ではひとつも商用化されていないのだ。

希望の光があるとすれば、Ampriusがそうだ。同社はシリコンバレーのスタートアップ企業で、新型のリチウムイオン電池を開発した。このシリコンとカーボン製の電池は従来品を約20%上回る電力を蓄えることができる。そして競合他社に先んじて、既に出荷を開始している(中国のメーカー向け)。3億ドルの資金調達を達成した同社は、現在のリチウムイオン電池より50%多く電気を蓄えることを目標にその改良進めている。

その早期実現を願いたいものだ。しかし、このような事業をもってしても、モバイルバッテリーの進歩が画期的に進んだとは言えない。もっと新しい何かが必要なのだ。バッテリー問題がモバイル技術の進歩を止めてしまう前に。

画像提供
トップ画像:Andy Armstrong(Flickrより)
iPhoneバッテリー画像:Alan Levine(Flickrより)
Revolv smart home hub画像:Revolv
その他画像:ReadWrite

Adriana Lee
[原文]


※本記事はReadWrite Japanからの転載です。転載元はこちら


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