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米アカマイ、FIFAワールドカップライブ中継の舞台裏を語る

2014年06月23日 12時45分更新

文● 松下 康之(Yasuyuki Matsusihta)/アスキークラウド

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 現在、グループステージが行われているFIFAワールドカップブラジル大会、日本のサッカーファンだけではなく世界中のサッカーファンの眼を釘付けにしているのは周知の事実だ。そのワールドカップのインターネットライブ配信を支えているのがアカマイ・テクノロジーズ(以下、アカマイ)だ。アカマイはWebトラフィックの約30%を支えていると称される分散型のコンピュータネットワークをベースに動画配信、ソフトウェアのダウンロード配信などを運営している。主な顧客としてMSNやCNNなどが挙げられる。

 米国アカマイ・テクノロジーズの幹部で「エコシステム担当VP」と称される肩書きを持つトロイ・スナイダー氏にインタビューを行った。スナイダー氏はソチ・オリンピックや2010年のFIFAワールドカップ、今回のFIFAワールドカップのライブ配信のエグゼクティブプロデューサーとしてコンテンツの生成から配信までのワークフロー構築、コンテンツ保護、スマホなどのデバイス対応などをライブ配信に関わる総合的な管理運営している。スナイダー氏はその部門のエグゼクティブプロデューサーとしてテレビ局や制作スタジオなどとの交渉のために世界を飛び回っているということだ。

アカマイのエコシステムを語るトロイ・スナイダー氏
アカマイのエコシステムを語るトロイ・スナイダー氏

Q:エコシステムを具体的に説明してください。
A:一番わかりやすい例は、レッドブルが2012年に行ったRedBull Stratosというイベントでのライブ配信でしょう。あの時、これといった宣伝もなく世界中の人々がフェリックス・バウムガルトナーのフリーフォールを見続けました。実際にはあのイベントが成功するためにフェリックスは装置の開発、関連省庁との調整や気候、地理の調査など様々なハードルを超えて最終的なあの体験を実現することが必要だったのです。つまりあのライブ配信を実現するために包括的な視点が必要で、その全体をアカマイは「エコシステム」と呼んでいるのです。それにはコンテンツの変換や配信、ワークフローなど様々な要因が含まれます。

Q:これまでのCDNから拡張しているということですか?
A:そうです。これまでは単なるコンテンツを配信するためのネットワークがアカマイのコアなサービスでした。しかし今はより幅広いワークフローなどをカバーするように顧客からのニーズに応えたということです。それには顧客となるコンテンツプロバイダーだけではなく消費者が何を求めているのか?をエクスペリエンスとして考えることが必要です。そのために様々な企業やテクノロジーを買収している途中と言えるでしょう。そのエコシステムを実現するためにクラウド上のプラットフォームとして様々なソリューションがプラグイン出来るようなオープンな環境を構築しています。

Q:今回のFIFAワールドカップについて教えて下さい。
A:大きなスポーツイベントとしては北京オリンピックが初めてデジタル化されたオリンピックと言えるでしょう。その時から配信のデータ量も配信を受けるデバイスの数も飛躍的に伸びています。それに対応することがアカマイの使命だと思っています。今年のFIFAワールドカップでも過去に比べて数倍に伸びています。例えば前回はデバイスの数は約3億台、それが今年は12億台と凄まじい伸びを示しています。帯域幅もスピードも数倍に伸びているのです。

Q:その成長率を支えるために何か予定していることは?
A:実際にエッジサーバーを増やすだけではなくエッジサーバーをデバイス側に拡張しようと計画しています。つまりデバイスの中にアカマイのソフトウェアが入って、高速なデータ配信を支えることを目的としています。スマートフォンやルーター、それにスマートTVなどがその対象となるでしょう。それによって4Kによる高画質なコンテンツ配信が可能になると思います。それについてはまもなく公開出来ると思います。
具体的にどのプラットフォームをいつサポートするのかについては、台数や市場のニーズによって決められますので、今の段階で決められているわけではありません。ただし、アカマイはこれまでもこれからもB2Bの会社ですので、スマートフォンの中にアカマイのブランドのソフトウェアが露出するようなことにはならないと思います。

Q:そのエコシステムを実現するための最大のチャレンジは何ですか?
A:様々な技術的な側面もあるでしょうが、消費者が求める様々なコンテンツの消費スタイルに応えること、と言えるのではないでしょうか。つまりデータ量や接続数、帯域幅を増やすことだけではなく、様々な使われ方に対応することがチャレンジと言えるでしょう。この先にどのような視聴スタイルが出てくるのかはわかりません。例えば、15年前に「これからはフェイスブックというものがポピュラーになる」と言われても誰も信用しなかったでしょう。未来は誰も分からないのです。それにちゃんと対応して消費者のニーズに応えること、それが最大のチャレンジだと思います。
またハクティビスト(アクティビストなハッカー)などのDDoS攻撃も目立つようになっています。金融機関だけではなくこういうイベントに反対する集団がWebサイトを攻撃をするのは既に当たり前のことになっています。それを未然に防ぐこともチャレンジと言っていいでしょう。

WebコンテンツがPCだけではなくスマートフォンやタブレット、スマートTVに拡大し、グローバルに拡がっていくなかでアカマイの目指す方向は継続的に見守るべきだろう。ライブ配信のスピードやサイズだけではなくセキュリティ要件やハッカーからのDDoS攻撃などライブ配信を取り巻く環境は常に変わっている。前回のオリンピックでも巨大なDDoS攻撃があり、それを保護出来たという。今回のFIFAワールドカップでも決勝戦では凄まじいアクセスが予想される。アカマイのソリューションがそれを支える様は以下の参考サイトで確認できる。

参考サイト:
http://www.akamai.co.jp/enja/html/ms/akamai-delivers-online-streaming-performance.html

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