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雑誌が売れないいま、編集者の仕事のヒント

2014年05月22日 07時00分更新

文● ガチ鈴木/アスキークラウド

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『英語耳』や『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』など数々のヒット作を生み出した編集者で、現在ウェブサイト「cakes」や、メディアプラットフォーム「note」を運営するピースオブケイクの加藤貞顕CEOを招いたトークセミナー「個人向けメディアプラットフォーム『note』から見るメディアの未来」が5月14日、角川第一本社ビル2階ホールにて開催された。

 noteでは、ユーザーがテキストや音楽、動画を投稿して「コンテンツ」として掲載。自由に販売できるうえ、他のユーザーをフォローすると投稿がタイムラインで表示される。加藤氏は、noteはコミュニケーション、マーケティング、クリエイティブが一体化した場所だと説明する。4月7日のオープン以来、1カ月で2000万PV、100万ユニークユーザーを獲得。平均滞在時間は3分30秒。モバイル率は55%だが、今後モバイルアプリのリリースを予定しており、モバイル比率は伸びていくという。

 1998年の2兆5000億円をピークに、2016年には1兆5000億円にまで落ち込むと予想される出版市場。予測値では電子書籍は2000億円であり、出版業界から8000億円が失われてしまう計算だ。

 電子書籍がマーケティングしにくい理由にはランキングにあると考える加藤氏。安いものはランキングが伸び、実際キンドルでも値下げした本は売れる。しかし、その書籍の横には無料の青空文庫作品が並ぶ。夏目漱石と新人が並ばされる、不利な勝負の世界だ。加藤氏が「cakes」を立ち上げた理由は、この状況を打破するためにもウェブでコンテンツビジネスをしないといけないと思い立ったから。cakesはプロの作品が並ぶコンテンツサイト、一方のnoteはフルフラットでオープンなプラットフォームだと切り分ける。単純な検索機能やランキング機能は多様性が失われると実装の予定はないと説明する。

 加藤氏自身がnoteで自身の企画書を販売したところ、4月の売り上げは4万5500円だったそうだ。またnoteで特に可能性を感じたのは、ミュージシャン高野 寛氏が弾き語りを投稿したものだという。今までプロミュージシャンの楽曲は完成品しか世に回らなかった。しかし、noteで制作中のデモを売り、完成品をiTunesで買うといった展開もできる。

 こうした新しい提案は、岡田 育氏の「noteの使い方を考えよう」というコンテンツでも発明された。有料の部分を随時更新していくという体裁で、最初は500円だった料金が分量の増加に従って随時値上がりしていく。あとから読む人は高い料金を払わないといけないという、そこには加藤氏も予想していなかった、コンテンツを軸にしたコミュニティーができていたという。

 今後は「マガジン」機能で投稿されたコンテンツを複数束ねることができるようにする予定だ。自分のコンテンツと他人のコンテンツとを束ねることも可能だ。ブックマーク的な使い方とキュレーション的な使い方ができる。まるで編集者のための機能のようだ。また、投稿されたコンテンツには課金と収益を分配する仕組みもできる。今後はテキスト、動画などの投稿を会報的に使う芸能人のファンクラブの使い方、有料メルマガ、音声と映像のメディア、課金を軸にしたクラウドファンディングのような使い方もできるだろう。加藤氏はあるコンテンツに対して「プラットフォーム上でファンとのコミュニケーションを設計するようなこと。そこにプロの編集者であるメディア設計をできる人は必ず必要だ」と解説していた。

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