Project Skybridgeは
ARM移行へのプラットフォーム
では現実問題として、Project Skybridgeはなんのためにあるのだろうか。それは、「これまでx86サーバー向けに拡張カードやアクセラレーター類を提供してきたサードパーティーに、ARMに移行してもらうためのプラットフォームを提供する」点にある。
x86向けのサーバーは、もちろん高密度のブレードサーバーなどにはまったく拡張性が求められていないが、ある程度の汎用サーバー向けとなると、RAIDカードやネットワークカードだったり、ある種のアクセラレーターだったりと、さまざまな拡張カードを利用して構成されるのが普通であった。
ところがARMの場合、現状は高密度のブレードサーバー以外の構成がないため、拡張カードのベンダーとしては対応したくともプラットフォームがないという状況である。これがProject Skybridgeの場合、まずx86向けのマザーボードが作られれば、そこにそのままARMコアのプロセッサーを装着できるわけだ。
BIOS周りの変更は必要(これはAMD、もしくはマザーボードベンダーの仕事である)とはいえ、後は既存の拡張カードをそのまま装着してドライバー類の対応を行なえるようになる。これは、汎用向けのARMサーバーの市場が立ち上がるためには欠かせない配慮である。
Project Skybridgeそのものが、色々と興味深いのも当然である。これはARMコアに対する初めてのHSA実装となるわけで、特にメモリーコントローラー周りがどうなるかは興味深い。またGCNをARMコアと組み合わせた初めての事例となることも事実だ。このあたり、Kaveriとはまた異なった内部構成になるように思われる。
コアそのものも、x86はBeema/Mullinsに採用されたPumaコアの改良版(Puma+)で、これはBobcat系列のコアである。つまり現在のKaveriに採用されたSteamrollerや、その後継として名前の挙がっていたExcavatorは使われないことが明らかにされたことになる。
一方のARMはローパワーのCortex-A57とされ、本来ARMが提供してきた低消費電力向けのCortex-A53ではない。これについてGopalakrishnan氏に確認したところ「我々はCortex-A53を採用する計画はない」とはっきり明言した。
本来Cortex-A57は、サーバー向けに特化した高性能コアで、内部の構成も低消費電力の低速なトランジスタではなく、やや消費電力の大きい高速トランジスタを使う前提で、パイプライン段数も多めの構成である。ローパワー版のCortex-A57とは、そうした論理設計の部分は変更できないので、物理設計を低消費電力に振ることでPuma+コアと同等の消費電力に落とし込んだ製品と考えればよさそうである。
したがって、動作消費電力の枠としては現在のSeattleよりも下がり、現在のBeemaと同等レベルに収まるのではないかと考えられる。「同等」というのは、AMDのロードマップを見る限り、Project SkybridgeのコアはSeattleの後継的な用途も含まれていると考えてよさそうだからだ。
そうなると4コアだけでは足りずに8コア構成もあると考えていい。その場合、いかに20nmプロセスに移行したとはいえ、Beemaと同じレベルのTDP枠というのはやや厳しいのではないかと想像できる。
Beema/Mullinsに採用された
Puma+コア
次に、Project Skybridgeのx86ベースとなるコア、Puma+について解説しよう。+が何を意味するかは現在明らかにされていないが、素直に構成を考えてみると既存のPumaはBobcatの流れを汲む2命令のOut-of-Order構成、対してCortex-A57は3命令のOut-of-Order(関連記事)である。
命令セットが根底から違うから同一に比較するのは無理にしても、Puma+の方がやや分が悪い。ましてやこのProject Skybridgeは、Kaveriの後継という位置付けでもあるから、最大4GHzで動くkaveriより性能が落ちるのは問題がある。
ここからは筆者の推定であるが、おそらくProject Skybridgeのx86側も、ハイエンドは8コア構成になるように思う。ただしそれだけではKaveriに追いつくか微妙な程度であり、これを補うべく多少動作周波数を向上(2.5~3GHz程度)させていると思われる。
既存のPumaのパイプラインでこの動作周波数を実現しようとすると、消費電力に無理があるので、若干パイプライン段数を増やすなどの工夫がなされているのではないかと想像する。
“K12”はARMコア
つまりBulldozer系列は打ち止め?
最後は2016年のコアについてだ。2016年にAMDが開発するコアにK12の名前が付けられたのは、なかなか象徴的である。
AMDの場合、K5以降は基本的にメインストリーム向けCPUに“Kxx”の番号が振られてきたのはご存知の通り。Phenom IIがK10、Llanoに入っていたのがK10.5で、AMD FXのBulldozer/PiledriverがK11、Kaveriに搭載されたSteamrollerがK11.5相当になり、本来だとExcavatorがK12相当になるはずだった。
ところがこのK12をARMコアに振ったというのは、つまりメインストリーム向けコアがARMになるという意味であり、逆に言えばExcavatorの存在そのものがかなり怪しくなっていることを示す。実際AMDの体力でx86を2種類とARMを開発するのはかなり無理がある。
Bobcat系列はすでに広く受け入れられ、Project Skybridgeでも採用されていることから考えても、Bulldozer系列のコアは現在のPiledriver世代で打ち止めになっても不思議ではないように思える。このあたりはもう少しAMDから情報が出てくるまで詳細は不明だが、AMDがx86からARMに明確に舵を切ったことが、このK12で象徴されているように思える。
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