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「準天頂衛星」は宇宙ビジネス成功のカギとなるか?

「はやぶさ2」より優先された準天頂衛星「みちびき」 とは何か?

2012年08月23日 12時00分更新

文● 秋山文野

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準天頂衛星初号機「みちびき」の模型。HⅡA-202ロケットにより打ち上げられ、質量は4トン、設計寿命は10年以上だ

 2010年6月、小惑星イトカワからサンプル採取に成功し、ブームとなった「はやぶさ」。続く「はやぶさ2」は一応開発が決定しているが、予算は決して潤沢にあるわけではない。「はやぶさ2」に関する文部科学省の概算要求額が73億円なのに対し、30億円まで削減された。一方、今回のテーマである準天頂衛星には106億円の予算が組まれた。

 この事実に失望の声もあがり、一部ネットでは「『はやぶさ2』の予算が準天頂衛星に取られた!」と政府の姿勢に非難が集まった。2012年7月25日に開催された参議院の「社会保障と税の一体改革特別委員会」において野田首相は「はやぶさ2」の開発事業費について、2013年度予算での確保に前向きな姿勢を示してはいるが、準天頂衛星が優先されているという事実は否めない。

 この「はやぶさ2」の予算問題で対極にあり、システム構築が進められている準天頂衛星とはどんなものなのか。なぜ政府は準天頂衛星を推し進めているのか。今回の短期連載ではこの背景も含めて見ていこう。

GPSの欠点を補うのが準天頂衛星

 準天頂衛星とは「準天頂軌道」という日本のほぼ天頂を通過する軌道を描く人工衛星のことだ。別名“日本版GPS”とも言われる。現在、初号機の「みちびき」は静止軌道に近い3万3000~3万4000kmの高度を、軌道傾斜角45度、23時間59分の周期で回る。日本のほぼ上空に滞留し、日本~インドネシア~オーストラリアのあたりを8の字の特殊な軌道を描いて回っている。

 日本のように山がちでビルの谷間も多い国土では、GPSを見上げる角度「仰角」が低い衛星は隠れて見えず、精密に位置計測するために必要な4機に足りないことも多々ある。そこで、GPS衛星が見えない部分(衛星数不足)を補うのが準天頂衛星なのである。

地球から見て、各種衛星がどこに位置しているかを図にしたもの。気象衛星は静止軌道に位置している。準天頂衛星は、高度は静止衛星に近いが、特殊な軌道にいる

準天頂衛星の軌道はこのように特殊だ。日本とフィリピン、インドネシア等のアジアとオーストラリア地域に8の字を描いているので「8の字軌道」と呼ばれている

 また、準天頂衛星は測位精度を向上させる「測位補強」機能も搭載する。ただし、1機の準天頂衛星が日本の上空にあるのは1日あたり約8時間程度。実用化され、私たちの元で当たり前のように使われるには全部で4機の衛星を打ち上げる必要がある。

GPSに深く依存した現在に
世界の国々は危機感を抱く

 準天頂衛星は2008年に成立した日本の宇宙開発の基本方針「宇宙基本法」以後、大きな実用衛星プロジェクトとして、経済効果10兆円といった巨大な成果をあげることも期待されている。準天頂衛星システムも、初号機「みちびき」の成果を得て、2011年9月末、4機(24時間サービス)体制にしようということがようやく決まった。現在は、初号機の実証実験や2機目以降の設計、内閣府内の管理組織の整備などが行なわれている。

 では、なぜ日本政府は測位衛星に力を入れようとしているのか? その理由は3つある。

 1つめが測位精度の向上だ。「GPSがすでに間に合っているのに、なぜ日本独自の測位衛星が必要なのか?」と思われるかもしれないが、もともとGPSのみでは測位精度や測位可能エリアに制限があるのだから、より精度を上げようとすることは必要だ。「はやぶさ2」で研究開発を進めることも大事だが、準天頂衛星はインフラの構築であり、はやぶさと比較するようなものではない。

 2つめが経済対策である。前述のとおり、経済効果は10兆円と試算されている。現在の暗澹たる日本経済に貢献する可能性があるのならば、準天頂衛星を実用化させることも重要課題であると言える。

 そして3つめが日本独自のGPSシステムの構築である。実は世界的に、アメリカのGPS依存からの脱却、もしくは補完システムを確立させようと躍起になっている状況にある。

 世界各国の測位衛星の状況を説明しよう。まず、世界全域をカバーする予定でシステム構築や衛星の打ち上げ計画が進んでいるものは、2012年に追加で衛星が打ち上げられる予定である中国の「北斗」(測位システムの名称はCompass)、ロシアの「Glonass(グロナス)」、遅れてはいるものの整備計画を進めている欧州の「Galileo(ガリレオ)」などがあり、この中で日本の準天頂衛星は最も遅れをとっている。とくに、中国のCompassは今年末にもアジア太平洋地域でのサービス開始を予定している。準天頂衛星が実用化できるレベルになった頃には、気が付いたらアジア市場を中国の測位衛星が席巻している、ということにもなりかねないのだ。

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